第36章 辺境武闘祭の参加登録と、また増えた厄介な名前
翌朝。
目を覚ました瞬間。
庭から剣がぶつかる音が聞こえた。
「……朝から?」
窓を開ける。
いた。
クラリッサ。
カグラ。
アーヴェル。
そしてフィオナ。
「元気すぎるだろ……」
「レオン様」
「うわっ!」
振り返ると。
いつの間にかルミナが立っていた。
「いつ入ったの?」
「扉からです」
「そういうことじゃない」
「七分前です」
「起こしてよ」
「睡眠時間を優先しました」
「ありがとう……」
最近。
ルミナの判断が妙に人間らしくなってきた。
朝食後。
父上から今日の予定を渡された。
「午前は武闘祭の参加登録」
「参加しないという選択肢は?」
「ない」
「ですよね」
「午後は自由だ」
少し安心する。
「ただし学院の先生方は書庫へ向かう」
セレフィア先生が頷く。
「北部遺跡の記録を確認します」
「私も行きます」
リリアーナが即答。
「予想してた」
ミレイユ先生も小さく手を上げた。
「私は昔の負傷記録を見ますねー。北部で何か特殊な魔力障害が起きていなかったか調べたいので」
「ちゃんと調査してる……」
「どういう意味です?」
「いつも眠そうだから」
「失礼ですねえ」
領都中央広場。
武闘祭の受付所は。
朝からものすごい人だった。
騎士。
冒険者。
傭兵。
学院生らしい若者。
「すごい!」
クラリッサの目が輝いている。
「強そうな人ばっかり!」
「嬉しそうだな」
「当然!」
カグラも静かに周囲を見ていた。
でも。
目だけは完全に同じだった。
「カグラも嬉しそう」
「普通」
「その普通は信用してない」
「次の方!」
受付が進む。
「クラリッサ・バルシュタイン!」
「学院生部門!」
「登録しました」
「よし!」
次。
「カグラ・ミカヅキ」
「登録しました」
「ありがとうございます」
アーヴェル。
フィオナ。
次々と登録していく。
そして。
「レオン・アルセリア」
「はい」
受付の男性が書類を見る。
「……すでに推薦登録されています」
「誰から?」
「辺境伯閣下です」
「父上……」
逃げ道を完全に潰されていた。
「ルミナ」
「はい」
「本当に出るの?」
「参加を希望します」
「相手壊さない?」
「出力を制限します」
「どのくらい?」
「〇・五パーセント」
「もっと下げよう」
「では〇・二パーセント」
「まだ怖い」
受付係が困った顔をする。
「種族は?」
「古代魔導人形です」
「……」
「製造後二千七百四十一年」
「そこまで言わなくていい!」
周囲まで静かになった。
「レオン!」
後ろからフィオナが腕を掴む。
「対戦表見よう!」
「まだ組み合わせ決まってないだろ」
「参加者一覧!」
「それなら――」
引っ張られる。
今日は動きやすい白いブラウスに。
濃茶色の短い上着。
膝上まである乗馬用ブーツ。
細身の脚が軽快に動くたび。
腰の剣帯も小さく揺れている。
高く結んだ金茶色の髪が近くを掠め。
柑橘系の爽やかな香りに。
革の鞘の乾いた匂いがほんの少し混じった。
「近いって」
「昔は普通だったでしょ?」
「昔と今は違う!」
「何が?」
「色々!」
フィオナが不思議そうに首を傾げる。
後ろを見る。
エリシア。
笑顔。
ヴィクトリア。
少し眉が動いている。
ソフィア。
何となく視線を逸らした。
ルミナ。
「複数名の――」
「言わなくていい」
「まだ何も」
「分かるから!」
参加者一覧を見る。
騎士。
冒険者。
学院生。
知らない名前ばかり。
「今年は多いね」
フィオナが言う。
「学院の入学資格が広がった影響もあるらしいよ」
「今年度からの?」
「うん。実力重視になったから、地方から王都へ出る若い人も増えたんだって」
シオン・アルトゥスの言葉を思い出す。
これから先。
才能を取りこぼす余裕がない。
(……やっぱり何か知ってるんだろうな)
「レオン?」
「何でもない」
名簿をさらに見る。
そして。
見覚えのある名前を見つけた。
《セシリア・ヴァルシュタイン》
「……」
もう一度見る。
間違いない。
「どうしたの?」
クラリッサが覗き込む。
次の瞬間。
「セシリア先輩来るの!?」
「声大きい!」
カグラの目が。
明らかに輝いた。
「楽しみ」
「お前らはそうだろうな!」
同じ頃。
アルセリア家の書庫。
セレフィア先生が古い記録をめくっていた。
「……ありました」
リリアーナが顔を上げる。
「何が?」
先生の前には。
二百年以上前の北部山岳地図。
その端。
現在は立入禁止となっている場所に。
小さな文字が残されていた。
《旧王国時代 封鎖施設》
さらに。
その下。
ほとんど消えかけた一文。
《王都第二管理系統との接続を確認》
セレフィア先生の表情が変わる。
「……繋がっていますね」
ミレイユ先生も。
珍しく眠そうな目を完全に開いた。
俺たちが武闘祭に浮かれている裏で。
北部の古代遺跡は。
王都地下で目覚め始めた何かと。
確実に繋がり始めていた。




