第35章 幼馴染の昔話と、辺境伯家の歓迎夕食会
屋敷へ入った直後。
「レオン!」
聞き慣れた声と同時に。
母上がやって来た。
「お帰りなさい!」
「ただいま帰りました」
「まあまあ、本当にこんなにお友達を連れてきたのね」
「母上が連れてきていいって書いたんでしょう」
「そうだけど、本当に全員来るとは思わなかったわ」
「俺もです」
母上は楽しそうに。
エリシアたちへ次々挨拶していく。
ヴィクトリア。
クラリッサ。
カグラ。
リリアーナ。
ソフィア。
アーヴェル。
セレフィア先生。
ミレイユ先生。
そしてルミナ。
「あなたがルミナちゃんね」
「はい。エレノア様」
「お母様でいいのよ?」
「母上、それはややこしくなります」
「そう?」
「かなり」
「それで」
母上の視線がフィオナへ向いた。
「フィオナも来ていたのね」
「はい!」
「レオンが帰ってきたと聞いて、すぐ飛んできました」
「昔から仲良しだったものね」
「母上」
「何?」
「余計な情報を追加しないでください」
「余計?」
フィオナが笑う。
「レオンって小さい頃、私がいないと訓練場にも行かなかったんですよ」
「フィオナ!」
「本当のことでしょ?」
「今言う必要ない!」
クラリッサがもう笑っている。
「もっと聞きたい!」
「聞くな!」
カグラまで静かに座る。
「続けて」
「カグラ!?」
夕食まで少し時間があり。
俺たちは中庭へ移動した。
「懐かしいなあ」
フィオナが古い訓練場を見る。
「ここでよく剣の練習したよね」
「俺が負けてた記憶しかない」
「七戦七勝」
「数えるなよ」
「大切な記録だから」
フィオナが得意そうに笑う。
今日は騎士家らしい動きやすい服装。
短めの上着に細身のズボン。
腰には剣。
歩くたび脚の線がすっきり見えるのに。
鍛えているせいか立ち姿には柔らかさより先に軽やかな強さを感じる。
高く結んだ金茶色の髪が揺れ。
近くへ来ると爽やかな柑橘と革の鞘が混じったような香りがした。
いかにも。
昔から外を走り回っていたフィオナらしい。
「レオン?」
「何?」
「またぼーっとしてる」
「考え事」
「昔から変わらないね」
「そこは変わってない扱いなんだ」
「そういうところはね」
「ところで」
クラリッサがフィオナを見る。
「本当にレオンより強かったの?」
「昔はね」
「じゃあ今やろう!」
「何でそうなる!?」
「面白そうじゃん!」
フィオナの目が輝く。
「いいよ」
「フィオナまで!」
カグラも。
「私も見たい」
「お前ら剣の話になると急に団結するな!」
アーヴェルが笑う。
「諦めろ。お前の周りはそういう奴が多い」
「お前もその一人だろ」
「否定しない」
少し離れたところで。
エリシアとヴィクトリアが何か話している。
ソフィアも一緒。
ルミナは。
相変わらず全員を観察していた。
「ルミナ」
「はい」
「何を分析してる?」
「フィオナがレオン様へ接近した際の――」
「言わなくていい」
「まだ途中です」
「続きを聞くと面倒になる気がする」
「正しい判断と思われます」
夜。
歓迎夕食会。
長い食卓には辺境領らしい肉料理。
川魚。
山菜。
焼きたてのパン。
「美味しい!」
クラリッサが早速肉を頬張っている。
「もう少しゆっくり食べなさい」
ヴィクトリアが注意する。
「だって美味しいんだもん!」
父上はそんな様子を見ながら。
セレフィア先生へ向き直った。
「学院からの書状は読んだ」
「ありがとうございます」
「北部山岳の古代信号についてだな」
空気が少し変わる。
ミレイユ先生も食事の手を止める。
「現地確認は明日以降を予定しています」
セレフィア先生が答えた。
「まずは既存の記録を確認したく」
「書庫を使うといい」
父上が頷く。
「ただし北部には立入制限区域がある」
「魔獣ですか?」
アーヴェルが尋ねる。
「それもある」
父上の視線が俺へ向く。
「だが問題は別だ」
「何です?」
「古代遺跡だ」
リリアーナの目が一瞬で輝いた。
「記録が?」
「少ない」
「では未調査?」
「完全にはな」
嫌な予感。
「それともう一つ」
ディートリヒ兄上が口を開いた。
「明後日から領都で《辺境武闘祭》が始まる」
「武闘祭?」
クラリッサが反応する。
「騎士、冒険者、傭兵、それに学院生も参加できる」
「参加します!」
「早い!」
カグラも静かに手を上げた。
「私も」
「お前もか」
アーヴェルまで笑う。
「せっかくだし俺も出るかな」
「増えてる!」
フィオナは当然のように言った。
「私はもう登録済み」
「でしょうね」
そして。
全員の視線が俺へ向いた。
「……何?」
父上が静かに言う。
「レオン」
「嫌です」
「まだ何も言っていない」
「絶対出ろって言うでしょう」
「その通りだ」
「やっぱり!」
母上が楽しそうに笑い。
クラリッサは拳を握り。
カグラの目まで輝いている。
俺は。
静かに天井を見上げた。
帰省。
遺跡調査。
幼馴染。
そして武闘祭。
どうやら。
今回の長期休暇も。
平穏という言葉とは。
かなり縁が薄そうだった。




