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『キモデブニートだった俺が、剣聖スキル持ちの銀髪美少年に転生したケース』  作者: ぷっぷくクリーナー


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第33章 友人たちとの初めての旅と、銀髪の特務騎士

 長期休暇初日。


 学院正門前には二台の大型魔導馬車が並んでいた。


「本当に二台なんだ……」


「人数と調査機材を考えれば妥当です」


 ルミナが答える。


 俺。


 エリシア。


 ヴィクトリア。


 クラリッサ。


 カグラ。


 リリアーナ。


 ソフィア。


 アーヴェル。


 ルミナ。


 さらにセレフィア先生とミレイユ先生。


 どう見ても普通の帰省ではない。


「レオン! 早く乗ろう!」


 クラリッサが大きな鞄を抱えて走ってくる。


「まだ荷物積んでるだろ」


「席取られる!」


「指定席だよ」


「じゃあ問題ない!」


「最初からな」


     


「出発します!」


 御者の声とともに馬車が動き出した。


「おおー!」


 クラリッサが窓へ張り付く。


「王都が遠くなってく!」


「まだ城門を出たばかりですわ」


 ヴィクトリアが呆れる。


 カグラは静かに景色を眺め。


 リリアーナは早くも魔力測定器を取り出していた。


「旅行開始五分だぞ」


「平常値との比較が必要です」


「旅行を楽しむ気ある?」


「あります」


「本当に?」


「古代遺跡があります」


「それ調査を楽しみにしてるだけだろ」


     


「レオン様」


 隣からエリシアが小さな紙包みを差し出した。


「長旅になるので」


「何?」


「昨日焼いたものです」


 蜂蜜と木の実の焼き菓子だった。


「ありがとう」


 一つ食べる。


「うまい」


「よかった」


 エリシアが柔らかく笑う。


 今日は制服ではなく淡い色の旅行用ワンピース。


 座ると裾の下で白い長靴下に包まれた脚をきちんと揃えていて、その何気ない姿まで妙に上品だった。


 馬車が揺れた拍子に栗色の長髪が俺の肩近くへ流れる。


 柔らかな石鹸と焼き菓子を思わせる甘い香りがほんの少し届いた。


(……旅行服だとまた雰囲気違うな)


「レオン様?」


「何でもない」


 向かいを見る。


 ルミナと目が合った。


「……分析しなくていいからな」


「まだ何も発言していません」


「目が分析してる」


     


 昼を過ぎ。


 最初の街道駐屯地へ到着した。


 調査資料を受け取るだけの予定だった。


 だが。


「学院調査班ですね」


 そこには一人の男が待っていた。


 二十代後半ほど。


 肩より長い銀髪。


 灰青色の瞳。


 黒い騎士外套。


 腰には装飾のない一本の剣。


 そして。


 思わず二度見してしまうほど整った顔立ち。


 高い鼻梁に涼しげな目元。


 銀髪と灰青色の瞳も相まって、作り物みたいに完成された美貌だった。


「……すごい美形」


 クラリッサが小声で呟く。


 ヴィクトリアまで一瞬言葉を失い。


 ソフィアは慌てたように視線を逸らす。


 普段は他人の容姿にほとんど反応しないカグラですら、僅かに目を止めていた。


 それどころか。


 セレフィア先生も。


 ミレイユ先生も。


 ほんの一瞬だけ視線を向けている。


(先生たちまで……)


 本人はそんな周囲の反応など気にしていないらしい。


 静かな表情のまま一礼した。


「王都特務調査局所属」


「シオン・アルトゥスです」


 セレフィア先生が書状を受け取る。


「古代信号の調査担当ですね」


「ええ。ただし私は皆さんには同行しません」


「同行しない?」


「これから学院へ向かいます。学園長へ直接確認したい事項がありますので」


 俺は何となくシオンを見る。


 そして。


 背筋が冷えた。


(……何だ、この人)


 《剣聖》が反応している。


 いや。


 反応できていない。


 普通なら相手を見れば。


 重心。


 呼吸。


 剣筋。


 勝つための道筋がいくつか浮かぶ。


 父上でも。


 セルジュ先生でも。


 セシリア先輩でも。


 それはあった。


 でも。


 シオンには何も見えない。


 どの未来を選んでも。


 途中で途切れる。


「ルミナ」


 小声で呼ぶ。


「はい」


「あの人……」


「既に解析を試行しています」


「結果は?」


 ルミナの青銀色の瞳が僅かに細くなる。


「測定不能です」


「ルミナでも?」


「はい」


 さらに。


「仮にレオン様が《剣聖》を最大限使用し、私が全戦闘機能を完全解放した場合でも」


「うん」


「勝率を算出できません」


「算出できない?」


「訂正します」


 ルミナがシオンを見る。


「現在確認可能な情報だけでも、私たち二人の最大戦闘能力を大幅に上回っていると推定します」


「……」


 冗談に聞こえなかった。


     


「レオン・アルセリア君ですね」


 シオンがこちらを見る。


「はい」


「学院での話は聞いています」


「どこまで?」


「剣術。魔力制御。古代管理権限」


「全部じゃないですか」


「王都には情報が集まります」


 静かな笑み。


 それなのに。


 何を考えているのか全く読めない。


 アーヴェルも何か感じたらしく黙っていた。


     


 セレフィア先生が尋ねる。


「今年度から始まった入学資格者枠の拡大についても、特務局は関与しているのですか?」


「方針決定は王家と学院です」


 シオンが答える。


 今年度から。


 王立セレスティア高等学院では入学資格が大きく広げられた。


 貴族だけではなく。


 平民。


 地方騎士の家。


 冒険者の子。


 商家出身者。


 身分に関係なく。


 剣術。


 魔術。


 学力。


 特殊技能。


 何か一つでも突出した実力があれば入学候補になれる。


「なぜ今年から?」


 俺が聞く。


 シオンの表情がほんの少し変わった。


「単純です」


 一拍。


「これから先の王国には、身分を理由に才能を取りこぼす余裕がない」


「……何か起きるんですか?」


「起きるかもしれない」


「何が?」


「それを調べるのが私の仕事です」


 それ以上は教えてくれなかった。


     


「では私はここで」


 シオンが学院方面へ向かう馬へ近づく。


「アルセリア領には来ないんですか?」


「今は」


「今は?」


「必要になれば会うでしょう」


 銀髪の男は馬へ乗る。


「レオン君」


「はい?」


「強くなっておいた方がいい」


 それだけ言って。


 シオン・アルトゥスは王都方面へ走り去った。


「……何だったんだ、あの人」


「不明です」


 ルミナが答える。


「ただし危険人物として警戒を推奨します」


「敵?」


「それも不明です」


 一番困るやつだった。


     


 その日の夕方。


 王立セレスティア高等学院。


 学園長室。


「珍しいお客様ですね」


 レティシア学院長が机の向こうで微笑んだ。


「シオン・アルトゥス卿」


「お久しぶりです。学院長」


 シオンは向かいへ座らず。


 窓から学院を眺めていた。


「彼を見ました」


「レオンさんを?」


「ええ」


「どうでした?」


 短い沈黙。


「まだ若い」


「十八歳ですから」


「そういう意味ではありません」


 シオンが静かに目を細める。


「ですが」


「?」


「間に合うかもしれない」


 学院長の笑みが僅かに消えた。


「何に?」


 シオンは答えず。


 今度は地下へ視線を落とした。


「第二系統が動き始めたのでしょう?」


「……どこでそれを?」


「やはり」


「シオン卿」


 学院長の声が少し低くなる。


「あなたは何を知っているのですか?」


 銀髪の騎士は。


 ほんの僅かに笑った。


「それを話すために」


 一拍。


「私はここへ来ました」


 その頃。


 何も知らない俺たちを乗せた馬車は。


 アルセリア辺境領へ向けて。


 さらに西へ進んでいた。


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