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『キモデブニートだった俺が、剣聖スキル持ちの銀髪美少年に転生したケース』  作者: ぷっぷくクリーナー


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第30章 新しい扉と、第二管理系統

 地下へ降りると。


 すでに何人かの教師が集まっていた。


 セルジュ先生。


 セレフィア先生。


 ミレイユ先生。


 そして。


「来ましたね」


 レティシア学院長。


「学院長まで?」


「ええ。今回は私も立ち会います」


 どうやら。


 学院祭翌日の休息なんて。


 最初から存在しなかったらしい。


     


「レオンさん。こちらです」


 セレフィア先生が手招きする。


 普段は教壇で見ることが多いけど。


 今日は地下探索用の服装だった。


 淡い銀紫色の長い髪を低い位置でまとめ。


 白いブラウスの上には薄い魔術師用の外套。


 膝丈のスカートから伸びる脚には黒いタイツ。


 柔らかな雰囲気とは反対に。


 歩く時の姿勢は意外なくらい綺麗だった。


 俺が近づくと。


 ふわりと。


 白い花と薬草を混ぜたような穏やかな香りがする。


 いつもの教室でも時々感じていたけど。


 地下の冷たい空気の中だと。


 それが妙にはっきり分かった。


「どうしました?」


「いえ。何でも」


「緊張していますか?」


「かなり」


 先生は優しく笑う。


「大丈夫ですよ。今日は教師も一緒ですから」


(そう言われると本当に安心するんだよな)


 こういうところが。


 セレフィア先生らしい。


    


「でも無茶したら駄目よー」


 今度は。


 眠そうな声。


 ミレイユ先生だった。


「先生まで来るんですか?」


「保健医だって迷宮くらい来ますよー」


「その喋り方で言われると不安なんですが」


「ひどいですねえ」


 いつもの蜂蜜色の髪は。


 後ろで緩くまとめられている。


 白衣ではなく。


 身体に合わせた濃紺の治療術師服。


 その上から短い白い外套。


 普段は机の向こう側に座っているから分かりにくいけど。


 立っていると意外に背が高い。


 豊かな胸元も。


 治療道具を入れた革ベルトも。


 動きやすさを優先した服の上から自然な輪郭を作っている。


 足元は長いブーツ。


 そこから伸びる脚はすらりとしていて。


 眠そうな顔との落差が妙に大きい。


 近くに来ると。


 清潔な石鹸に。


 少し甘い薬草飴みたいな香り。


「あ」


「何です?」


「いつもの飴の匂い」


「分かります?」


 ミレイユ先生が嬉しそうに。


 ポケットから一つ取り出した。


「食べます?」


「今?」


「緊張している時には甘いものですよー」


「……もらいます」


 地下迷宮で飴をもらうとは思わなかった。


     


「雑談はそこまでだ」


 セルジュ先生が前を指す。


「これを見ろ」


「……本当に扉だ」


 昨日まで。


 ただの石壁だった場所。


 そこに。


 高さ三メートルほどの黒い扉が出現していた。


 表面には淡い青色の古代文字。


 《現管理者の到着を待機》


「ルミナ」


「確認します」


 ルミナが一歩前へ出る。


 胸元の青い結晶が光った。


「……」


「分かる?」


「部分的に」


「部分的?」


「この扉は私の管理していた第一管理系統には存在しません」


 レティシア学院長が目を細める。


「では別系統?」


「可能性が高いです」


「第二系統か」


 セルジュ先生が呟いた。


 ルミナが頷く。


「昨夜確認された《第二系統》という記録と一致します」


 やっぱり。


 嫌な一致だった。


     


「開けられるのか?」


 セルジュ先生が聞く。


「私には権限がありません」


「じゃあ誰が?」


 全員。


 俺を見る。


「……また俺?」


「はい」


 ルミナが即答する。


「現管理者権限を保持しているのはレオン様です」


「それ返せない?」


「現在返還処理は受け付けられていません」


「不便すぎる!」


 ミレイユ先生が小さく笑った。


「人気者ですねえ」


「迷宮に人気でも嬉しくないです」


     


 仕方なく。


 扉へ手を置く。


 その瞬間。


 青い文字が一気に増えた。


 《管理者照合》


 《魂魄起源――異界》


 《第一管理系統継承済》


 《第二管理系統への接続資格を確認》


「また異界って出てる……」


 もう今さら驚かない。


 さらに。


 《接続を開始しますか》


 その下に。


 《承認》


 《保留》


「……選べる?」


「以前とは異なります」


 ルミナも少し驚いている。


「前は勝手だったのに」


「はい」


「なら」


 迷わず。


 《保留》


「早いな」


 セルジュ先生が言う。


「これ以上勝手に増やされたくないです」


「賢明ですね」


 セレフィア先生まで頷いた。


     


 しかし。


 扉は消えなかった。


 中央部分だけが。


 静かに左右へ開いていく。


「保留したのに!?」


「完全接続ではありません」


 ルミナが内部を見る。


「閲覧権限のみ許可されたと思われます」


「……ならまだマシか」


「入るぞ」


 セルジュ先生が先へ進む。


「先生。迷いないですね」


「お前が迷いすぎだ」


 中は。


 小さな円形の部屋だった。


 中央に。


 巨大な透明板のようなものが浮いている。


「これは……」


 レティシア学院長が近づく。


 透明板へ。


 地図が映った。


「学院地下ですね」


 セレフィア先生が呟く。


 第一層。


 第二層。


 七階層。


 管理中枢。


 そこまでは。


 知っている。


 だが。


 地図が縮小される。


「……待って」


 さらに外側へ。


 学院の地下から。


 王都全体へ。


 無数の線が伸びていた。


「これ全部?」


「古代施設と思われます」


 ルミナの声が。


 少しだけ低くなる。


 王城。


 学院。


 城壁。


 さらに。


 王都の外側まで。


 線は続いている。


「旧迷宮って」


 俺は地図を見る。


「迷宮じゃない?」


「その可能性があります」


 次の文字が浮かぶ。


 《第二管理系統》


 《王都広域防衛機構》


 部屋が静かになった。


「……防衛?」


 セレフィア先生の表情から。


 いつもの柔らかな笑みが消える。


「何から王都を守るための施設なのでしょう」


 誰も答えられない。


 そして。


 新しい文字。


 《脅威判定機能――休眠中》


 《再起動条件未達》


「じゃあ今は動かない?」


「現状では」


 ルミナが答える。


 その直後。


 地図の端。


 王都から遠く離れた位置で。


 一つだけ。


 赤い点が瞬いた。


「ルミナ」


「確認しています」


「何?」


 数秒。


 ルミナが。


 珍しく僅かに表情を硬くした。


「不明です」


「ルミナでも?」


「はい」


 赤い点は。


 一度だけ光り。


 すぐ消える。


 画面には短い一文だけが残った。


 《外部信号を一度受信》


 学院祭が終わり。


 ようやく平穏な日常へ戻れると思っていた。


 でも。


 俺たちが地下迷宮と呼んでいたものは。


 どうやら。


 学院の地下だけで終わる施設ではなかったらしい。


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