第27章 学院祭当日と、予想以上の大行列
学院祭当日
朝から学院は完全に別の場所になっていた
校門には色とりどりの旗
中庭には屋台
廊下にもたくさんの飾りが並び
普段は静かな校舎のあちこちから笑い声や呼び込みの声が聞こえてくる
「……本当に祭りだな」
「レオン様」
隣を歩いていたルミナがこちらを見る
「歩行速度が通常より十二パーセント上昇しています」
「測らなくていい」
「学院祭を楽しみにしていると推測します」
「……否定はしない」
前世では文化祭なんて早く終わればいいと思っていた。
できるだけ人の少ない場所へ逃げて
教室の隅で時間が過ぎるのを待つ。
それだけだった
でも今日は少し違う。
教室へ近づくにつれて
自分でも分かるくらい気持ちが浮ついていた。
「遅い!」
教室へ入った瞬間
クラリッサの声が飛んできた
「集合時間の十分前だけど」
「学院祭の日は三十分前!」
「そんな規則あった?」
「今作った!」
「だと思った」
教室ではもう準備が始まっている
商家出身の女生徒は会計箱を確認し
男子たちは机を運び
衣装担当の女子たちは最後の縫い目を直していた
「看板もう少し右!」
「そこだと扉に当たる!」
「魔法灯の明るさは?」
「リリアーナには任せるな!」
「失礼ですね」
「昨日廊下まで青く光ってただろ!」
普段あまり話さないクラスメイトまで今日は声が大きい
「レオン!」
給仕服を着たアーヴェルが手を上げた
「お前の担当表そこ」
「中央接客……まだ変わってないの?」
「諦めろ」
「最後まで抵抗したかった」
「レオン」
小さな声で呼ばれ
振り返る
そこにはカグラがいた
昨日合わせた巫女風メイド服
白い上衣に赤を基調とした袴風の短いスカート
腰には小さな白いエプロン
胸元には赤い組紐
長い青黒色の髪も今日は白と赤の髪飾りでまとめられている
「帯 変じゃない?」
「ちょっと待って」
近くで確認する
「大丈夫だと思う」
「そう」
カグラが身体を少し向ける
その動きに合わせて袴風の裾がふわりと揺れ
白いニーソックスに包まれた細く引き締まった脚が目に入った
華奢に見えるのに剣術で鍛えられているから立ち姿にまったく隙がない
足を半歩動かすだけでも妙に綺麗だった
さらに距離が近くなると
檜に似た香木の静かで澄んだ香りがほんの少し漂ってくる
巫女風の衣装に妙に合っている
(……これは似合いすぎだろ)
「レオン?」
「え?」
「見すぎ」
「ごめん」
「別に」
カグラはほんの少し口元を緩めた
「似合ってるならいい」
「似合ってるよ」
「なら問題ない」
それなら良かった。
「開場五分前!」
クラス委員の声が響いた瞬間
教室の空気が一気に変わった
「ルミナ 入口!」
「承知しました」
「クラリッサも!」
「任せて!」
「ヴィクトリア 案内お願い!」
「分かっていますわ」
「エリシアとソフィアは調理側!」
「はい」
「リリアーナ!」
「装飾魔法は安定しています」
「本当に?」
「爆発確率〇・〇三パーセント」
「ゼロにして!」
俺は中央担当
アーヴェルと一緒に接客する
「緊張してるか?」
「少し」
「珍しいな」
「知らない人に話しかける仕事だぞ」
「昨日まで魔獣と戦ってた奴が何言ってるんだ」
「魔獣は注文しない」
「確かに」
そして学院祭が始まった
「いらっしゃいませ!」
クラリッサの元気な声が廊下へ響く
最初の客が二人
次に三人
さらに五人
五分後には教室の前がかなり騒がしくなっていた
「……増えてない?」
十分後
廊下を見る
列
その後ろにも列
「何で!?」
入口担当の男子が叫ぶ
「最後尾が階段まで行ってる!」
「まだ開店十分だぞ!?」
そこへクラスメイトの女子が走ってくる
「噂になってる!」
「何が?」
「うちのクラス!」
「何の噂?」
「メイド喫茶!」
「それだけ?」
「あと、銀髪の美少年! 古代魔導人形! 巫女メイド!
公爵令嬢メイド!」
「……確かにこれは客寄せ欲張りセットだな」
「レオン様」
ルミナが注文票を持ってくる
「三番卓 王国紅茶二点」
「了解」
「四番卓 東方茶一点」
「了解」
「五番卓のお客様から質問です」
「何?」
「レオン様の休憩時間はいつか」
「何で?」
「不明と回答しました」
「正解!」
その瞬間
「レオン!」
クラリッサの声
「七番卓お願い!」
「今行く!」
「レオン様!」
今度はエリシア
「焼き菓子追加です!」
「持ってく!」
「こちらもお願いしますわ!」
ヴィクトリアまで呼ぶ
「はい!」
気づけば俺はずっと教室を走り回っていた
昼前
「……疲れた」
教室の裏でほんの少しだけ休憩する
隣ではアーヴェルも壁にもたれていた
「大盛況だな」
「大盛況すぎる」
「楽しくないか?」
「……」
教室の中を見る
クラリッサが笑いながら客を案内し
ヴィクトリアが上品に注文を取り
エリシアとソフィアが料理を運び
カグラが東方茶を淹れ
リリアーナが魔法灯を調整している
ルミナまで昨日より自然な笑顔で客と話していた
「……楽しい」
「だろ?」
自分でも驚くくらい素直に言えた
前世だったら絶対に逃げていた
人が多い
忙しい
知らない相手と話さなきゃいけない
苦手なものばかりなのに
今はもう少しこの騒がしさの中にいたいと思っている
「よし」
立ち上がる
「戻るか」
「休憩まだ三分だぞ」
「列が増えてる」
「働き者になったな」
「言うな」
その頃
学院地下
地上の歓声が遠く石壁越しに響く場所
封鎖された旧迷宮の奥で
誰にも見られないまま
一枚の古い石板が淡く青白く光った
《管理系統――再確認》
文字はすぐに消える
地上ではそんなことも知らず
学院祭の一日は
まだ始まったばかりだった




