第26章 メイド服の衣装合わせと、目のやり場に困る俺
学院祭まで。
あと三日。
「完成したよー!」
朝から衣装担当の女子たちが。
大きな箱を教室へ運び込んできた。
「何が?」
「衣装!」
箱を開ける。
黒。
紺。
白。
赤。
大量の布とリボン。
「東西交流喫茶なのに」
俺は一着を持ち上げた。
「何でメイド服?」
「可愛いから!」
「理由それだけ?」
「十分でしょ!」
クラスの女子たちが一斉に頷いた。
強い。
しかも。
「足元は統一しました!」
「統一?」
「白いニーソックス!」
「……ずいぶん具体的だな」
アーヴェルが肩を叩く。
「レオン」
「何?」
「顔が引きつってるぞ」
「嫌な予感がするんだよ」
「まず私!」
更衣室から。
クラリッサが飛び出してきた。
「どう!?」
「……おお」
黒を基調にした短めのメイド服。
真っ白なエプロン。
胸元には赤いリボン。
普段の剣士姿とは印象がまるで違う。
動きやすさを優先した丈らしく。
白いニーソックスに包まれた脚は。
剣術で鍛えられた健康的な線がよく分かる。
スカートから覗く太腿との境目まで含めて。
元気なクラリッサらしい衣装だった。
「似合ってる」
「ほんと!?」
「うん」
「よし!」
拳を握るな。
何の勝負だ。
「次はわたくしですわ」
ヴィクトリア。
「……メイド?」
「何ですのその反応」
濃紺を中心にした上品な衣装。
白いフリル。
金色の細い飾り。
豊かな胸元を覆う布地は露出こそないのに。
きちんと仕立てられているせいで。
女性らしい輪郭が自然に際立つ。
金色の縦巻き髪。
細い腰。
長い脚には白いニーソックス。
「高級店の店長」
「メイドですわ!」
「でも命令する側に見える」
「失礼ですわね!」
どう見ても。
客より偉そうだった。
俺へ一歩近づく。
その瞬間。
いつもの。
薔薇を混ぜた紅茶のような上品な香りが微かに漂った。
服装のせいか。
普段以上に妙に意識してしまう。
「……何ですの?」
「何でもない」
「視線が怪しいですわ」
「気のせい」
「ルミナ?」
ヴィクトリアがルミナを呼ぶ
まずい。
「レオン様の心拍――」
「呼ばなくていい!」
「私はこれ」
カグラが出てくる。
「……おお」
普通のメイド服ではない。
白い上衣。
赤を基調にした袴風の短いスカート。
腰には小さな白いエプロン。
胸元には赤い組紐。
長い青黒色の髪には。
白と赤の髪飾り。
「巫女風メイド」
「東方担当だから?」
「そう聞いた」
足元だけは他のみんなと揃えた。
白いニーソックス。
剣術で鍛えられた引き締まった脚と。
巫女装束風の赤い裾。
真っ白なニーソックスの組み合わせが。
妙に目を引く。
「どう?」
「すごく似合ってる」
「そう」
カグラが。
ほんの少しだけ嬉しそうに笑った。
「わ、私は……」
次はソフィア。
「恥ずかしいです」
淡い桃色を差し色にした。
柔らかな印象のメイド服。
胸元には細いリボンと小さなフリル。
華奢な身体に合わせた仕立てで。
普段以上に少女らしく見える。
白いニーソックスに包まれた細い脚を揃え。
何度もスカートの裾を気にしていた。
「短くありませんか?」
「普通だと思うけど」
「ほ、本当ですか?」
「うん」
「では……大丈夫です」
なぜ俺の判断で安心するんだ。
「次」
リリアーナ。
「……意外と普通」
「失礼です」
紺色のメイド服。
小柄な身体に合わせた白いエプロン。
紫色の髪。
白いニーソックス。
無表情なのも相まって。
精巧な人形みたいに見える。
「魔道具を三個搭載しています」
「普通じゃなかった!」
「胸元のリボンに魔力測定器」
「いらない」
「カチューシャに記録術式」
「もっといらない」
「スカート内部には――」
「説明しなくていい!」
「レオン様」
ルミナが前へ出た。
「評価をお願いします」
「……すごいな」
白銀と紺のメイド服。
腰まで流れる銀白色の髪。
胸元の青い結晶を囲むように。
白いフリルが配置されている。
細い腰から。
ふわりと広がるスカート。
そこから伸びる脚には。
真っ白なニーソックス。
魔導人形だからなのか。
脚の形も左右の均整も整いすぎている。
制服では少し無機質に見えたルミナが。
今は。
驚くほど可憐な少女に見えた。
「似合ってる」
「ありがとうございます」
ルミナが小さく笑う。
「レオン様の視線移動回数が通常より――」
「分析禁止」
「まだ数値を述べていません」
「述べなくていい」
「最後です」
更衣室から。
エリシアが出てきた。
「……」
俺は一瞬。
何も言えなかった。
「レオン様?」
「いや……」
王道の黒いメイド服。
白いエプロン。
栗色の長い髪には。
小さな白いカチューシャ。
柔らかな胸元を上品に包むブラウス。
腰を細く見せるエプロン。
スカートから伸びる。
すらりとした脚。
そして。
白いニーソックス。
派手ではない。
なのに。
一番自然に似合っている。
「どうでしょうか」
「すごく似合ってる」
「ありがとうございます」
エリシアが近づき。
俺の給仕服の襟を直す。
「レオン様も曲がっていますよ」
「自分で――」
「もう終わりました」
顔が近い。
栗色の髪が。
俺の肩近くへさらりと落ちる。
その瞬間。
柔らかな石鹸と。
焼き菓子みたいな淡い甘い香り。
(……これは目のやり場以前の問題だ)
「レオン様?」
「何でもない」
「顔が少し赤いですが」
「暑いだけ」
「今日は涼しいですよ?」
「気のせい!」
横を見ると。
ルミナが俺をじっと観察していた。
「何も言うなよ」
「まだ何も発言していません」
「その顔が怖い!」
「それでは接客練習!」
衣装担当の女子が手を叩く。
「クラリッサとルミナは入口!」
「はい!」
「承知しました」
「ヴィクトリアとエリシアは席案内!」
「分かりました」
「仕方ありませんわね」
「カグラは東方席中心!」
「了解」
「ソフィアとリリアーナは交代!」
「はい」
「承知しました」
「それからレオン君」
「……はい」
「中央接客」
「何それ」
「一番目立つ場所」
「やっぱり看板じゃないか!」
教室中が笑った。
改めて。
メイド服姿の女子たちを見る。
白いニーソックスまで統一された衣装。
巫女風メイドのカグラ。
古代魔導人形とは思えないほど可憐なルミナ。
そして。
なぜかその中心で接客する俺。
(……学院祭当日)
嫌な予感がする。
「レオン様」
「何?」
「集客効率は極めて高いと予測します」
「やっぱり?」
「はい」
どうやら。
俺たちの喫茶店は。
開店前から。
静かに終わる可能性が消えていた。




