第22章 ルミナ、初めての剣術部へ行く
放課後。
「よし! 今日は剣術部!」
授業が終わった瞬間。
クラリッサが立ち上がった。
「覚えてたのか……」
「もちろん!」
「忘れててもよかったのに」
「ひどい!」
俺の隣では。
ルミナがすでに教科書を片付けていた。
「剣術部への訪問準備を完了しています」
「何を準備したの?」
「授業終了まで待機しました」
「それ準備なの?」
「はい」
真顔だった。
「じゃあ行こう!」
クラリッサがルミナの手を取る。
「了解しました」
「俺も行くの?」
二人が同時に振り返った。
「昨日約束した!」
「レオン様も同行すると発言しました」
「……覚えてるよ」
逃げられなかった。
第二訓練場。
「ここが剣術部!」
クラリッサが両腕を広げる。
制服の上着は脱ぎ。
白いシャツの袖を肘まで捲っていた。
いつも大剣を振り回しているせいか。
細身に見えて腕はきちんと鍛えられている。
華奢すぎない手首から前腕へ続く引き締まった線が。
妙に目に入った。
走ってきた直後だからか。
近づいたクラリッサからは。
石鹸に混じって革の防具と、ごく薄い汗の匂いがする。
綺麗に飾った令嬢とは違う。
剣を振る少女らしい健康的な匂いだった。
(……こういうのも妙にクラリッサらしいな)
「レオン?」
「え?」
「どこ見てるの?」
「何でもない!」
「変なの」
危ない。
前世の感覚でぼんやり見ていた。
「来ましたね」
奥から声。
嫌な予感しかしない。
「セシリア先輩……」
「こんにちは」
「どうして待ち構えてるんですか」
「ルミナさんが来ると聞きました」
「情報早すぎません?」
セシリア先輩の視線が。
一直線にルミナへ向かう。
「模擬戦をお願いします」
「承認――」
「待った!」
俺が間へ入る。
「初日ですよ!」
「だからこそです」
「どういう理屈!?」
クラリッサまで剣を抱えて寄ってくる。
「私も見たい!」
「お前はそう言うと思った」
周囲の部員たちまで。
明らかに期待している。
ルミナが俺を見る。
「レオン様」
「何?」
「私も現代剣術に興味があります」
「戦いたい?」
「技術確認を希望します」
「……軽くなら」
「ありがとうございます」
セシリア先輩が即座に訓練剣を取った。
「先輩が一番嬉しそうだな……」
二人が向かい合う。
「勝敗より技術確認だからな!」
「承知しました」
「分かりました」
本当に分かってる?
「始め!」
クラリッサの声。
セシリア先輩が踏み込んだ。
速い。
斜め上。
横。
突き。
ルミナが受ける。
カンッ。
カンッ。
カンッ。
全部。
正確。
無駄がない。
「すご……」
クラリッサが呟く。
でも。
俺は別のことに気づいた。
(動きが変わってる)
最初のルミナは。
ただ効率よく防御していた。
なのに。
十合。
二十合。
打ち合うたび。
足運びが変化する。
剣の角度。
力の逃がし方。
「レオン」
いつの間にか横にいたカグラが言った。
「似てる」
「やっぱり?」
俺の動きに。
似てきている。
セシリア先輩が突く。
ルミナは半歩だけずれ。
剣の側面へ自分の剣を当てる。
力を流す。
カンッ。
先輩の剣先が逸れた。
「……それ」
俺は固まった。
以前。
俺が使った動きと。
ほぼ同じ。
「ルミナ」
「はい」
「今のどこで覚えた?」
「レオン様です」
「俺?」
「迷宮内及び学院内における戦闘動作を記録しています」
「全部?」
「はい」
リリアーナの目が輝く。
「完全模倣?」
「否定します」
「では?」
「解析後、私の機体特性へ最適化しています」
「模倣よりすごいじゃん!」
俺の声が訓練場へ響いた。
「そこまで!」
結局。
俺が止めた。
セシリア先輩が不満そうにこちらを見る。
「まだ続行可能です」
「その顔で言われても信用できません」
「どのような顔です?」
「楽しみ始めてる顔です」
「否定しません」
「ほら!」
クラリッサが勢いよく手を上げる。
「じゃあ次私!」
「今日は終わり!」
「えー!」
「私も」
カグラまで木刀を持っている。
「並ぶな!」
ルミナは三人を見る。
「剣術部は活発な組織ですね」
「活発というか」
俺はため息をつく。
「戦いたい人が多すぎる」
「好ましい環境と判断します」
「ルミナまで染まらないでくれ」
訓練場を出る頃。
外は夕焼けだった。
「お腹すいた!」
クラリッサが言う。
「みんなで食堂寄ろう!」
「寮で夕食あるだろ」
「寄り道は別!」
「別なの?」
「別!」
そこへ。
エリシア。
ヴィクトリア。
リリアーナ。
ソフィアも合流する。
「何で全員いるの?」
「呼んだ!」
クラリッサが胸を張る。
「計画済みか……」
ルミナが全員を見る。
「これは友人活動ですか?」
「そう!」
「では参加します」
即答。
そして俺を見る。
「レオン様も」
「分かってる」
「今日は素直ですね」
「逃げても捕まるからな」
みんなが笑った。
俺も。
少しだけ笑う。
以前なら。
放課後は一人で過ごすものだった。
今では。
一人になる方が珍しい。
それが。
不思議と嫌ではなかった。




