第19章 魔導人形ルミナ、まさかの編入生になる
「自我形成……興味深い」
リリアーナがさらさらとペンを走らせている。
「研究するなって」
「記録です」
「ほぼ同じだろ」
学院長室。
昨日。
俺はみんなへ前世のことを話した。
三十五歳まで別世界で生き。
死んで。
レオン・アルセリアとして生まれたこと。
人生最大級の告白だったはずなのに。
今。
みんなの視線を集めているのは。
「ルミナ」
「はい。レオン様」
俺の隣に立つ古代魔導人形だった。
腰まで真っ直ぐ流れる銀白色の髪。
白磁を思わせる滑らかな肌。
長い睫毛に縁取られた青銀色の瞳。
胸元には淡い青色の結晶。
人間ではないと分かっているのに。
精巧すぎて。
普通に綺麗な少女にしか見えない。
それどころか。
近くで見るほど妙に目を奪われる。
さらさらした銀髪が肩を滑る仕草。
細い指先。
瞬きをするたび僅かに揺れる睫毛。
そして。
すぐ隣に立つと。
雨上がりの花を思わせるような。
ごく淡い清涼な香りがした。
(魔導人形にも匂いってあるのか……?)
「レオン様」
「え?」
「先ほどから私を観察されています」
「……してない!」
「視線移動を七回確認しました」
「数えなくていい!」
性能が良すぎる。
「ルミナさん」
セレフィア先生が尋ねる。
「レオンさんから離れて生活することは可能ですか?」
「可能です」
「そうなの?」
「はい」
ルミナが俺を見る。
「ただしレオン様に生命の危険が発生した場合、現在位置を問わず救援を最優先します」
リリアーナの手が止まる。
「現在位置を問わず?」
「はい」
「距離制限は?」
「同一大陸内であれば即時転移可能です」
「……空間転移」
リリアーナの紫の瞳が輝いた。
「現代魔法ではほぼ再現不能です」
「分解しようとするなよ」
「……まだ何も言っていません」
「目が言ってる」
「質問!」
クラリッサが手を上げる。
「ルミナってどのくらい強いの?」
「戦闘能力についてですか?」
「そう!」
「純粋な対人戦闘のみで比較した場合」
ルミナが俺を見る。
「レオン様が上位です」
「俺?」
「はい」
セシリア先輩が僅かに身を乗り出した。
「つまりレオンの方が強いと」
「一対一であれば」
「なるほど」
「先輩。その顔やめてください」
「何のことでしょう」
「絶対また戦おうとしてる」
「否定はしません」
やっぱり。
「ただし」
ルミナが続ける。
「大規模殲滅能力では私が上回ります」
「大規模……?」
エリシアが困ったように笑う。
「どの程度?」
クラリッサがさらに聞く。
「ルミナ」
「はい」
「詳しく説明しなくていい」
「了解しました」
「えー!」
「聞いてどうするんだよ!」
「学院としては」
セレフィア先生が話を戻す。
「ルミナさんをレオンさんの所有物として扱うつもりはありません」
「俺もそれがいいです」
ルミナが俺を見る。
「理由を質問してもよろしいでしょうか」
「だって」
少し考える。
「自分で考えて話してる相手を」
「はい」
「俺の物ですって扱うのは嫌だから」
ルミナが止まった。
「……」
「ルミナ?」
「現在の発言を重要情報として保存します」
「そんなに重要?」
「はい」
いつもの無表情。
でも。
ほんの少しだけ。
青銀色の瞳が柔らかく見えた。
「そこで一つ提案があります」
セレフィア先生が微笑む。
「ルミナさん」
「はい」
「学院生として生活してみませんか?」
「……は?」
俺が声を出した。
「魔導人形が?」
「校則には人間でなければならないとはありません」
「そんな抜け道ある?」
「長命種や魔族系統の生徒が在籍した記録もあります」
ヴィクトリアが頷く。
「前例自体はありますわね」
クラリッサが聞く。
「ところでルミナって何歳?」
「製造から二千七百四十一年経過しています」
「……」
静かになった。
「先輩……?」
「そういう問題じゃないだろ」
「実働時間は三年八か月です」
「じゃあ後輩?」
「さらに分からなくなった!」
翌朝。
教室。
「本日から仮編入となります」
セレフィア先生の隣に。
学院制服を着たルミナが立っていた。
紺色の制服に。
白いブラウス。
銀白色の長髪。
胸元の青い結晶だけは隠さず。
淡く光っている。
教室中の視線が集まった。
「ルミナです」
丁寧に一礼。
「古代管理補助用魔導人形として製造されました」
そこまではいい。
「現在はレオン様を最上位管理者として認識しています」
「それ言う必要あった!?」
一斉に。
みんなが俺を見る。
「俺を見るな!」
そして。
ルミナの席は。
俺の隣だった。
「よろしくお願いいたします。レオン様」
「よろしく……」
エリシアが笑い。
ヴィクトリアは呆れた顔。
クラリッサは完全に面白がっている。
カグラは静かに様子を見て。
リリアーナはもう何か書いている。
ソフィアも少し離れた席からこちらを見ていた。
「レオン様」
「何?」
「質問があります」
「うん」
「友人とは」
一拍。
「どのように作るのでしょうか」
「……」
待って。
それを。
前世でほとんど友達のいなかった俺に聞く?
「先生」
「はい?」
「席替えを希望します」
「却下します」
「早い!」
教室に笑い声が広がる。
ルミナだけが。
不思議そうに俺を見ている。
どうやら。
古代魔導人形ルミナの学院生活は。
初日から。
かなり騒がしくなりそうだった。




