第18章 魔導人形を連れて帰ったら、学院中が騒ぎになった
迷宮から戻った俺たちを待っていたのは。
予想通り。
セルジュ先生の説教だった。
「お前たちは何をしていた!」
「何もしてません!」
「迷宮の地図から消えておいて何もしていないは通らん!」
「俺たちも勝手に飛ばされたんです!」
「なら順番に説明しろ!」
「長くなりますけど」
「覚悟している!」
仕方なく。
全部話した。
隠し部屋。
古代の魔導装置。
突然の転移。
管理中枢。
そして。
俺の隣に立っている銀髪の少女。
「個体名ルミナです」
ルミナが丁寧に頭を下げる。
「現在はレオン様の管理下にあります」
「そこを強調しなくていい」
「事実です」
「そうだけど」
セルジュ先生が額を押さえた。
「つまり」
「はい」
「実習へ行かせたら古代迷宮の未発見区画を見つけ」
「はい」
「千年以上前と思われる魔導人形を起動し」
「はい」
「迷宮そのものの管理権限まで得たと」
「俺も信じたくないです」
「俺もだ」
初めてセルジュ先生と意見が一致した。
その後。
俺たちは学院へ戻された。
ルミナも一緒に。
当然ながら。
ものすごく目立った。
「ねえ、あの子誰?」
「銀髪……?」
「新入生?」
「制服じゃないぞ」
「レオン・アルセリアの後ろ歩いてない?」
聞こえる。
全部聞こえる。
「……帰りたい」
「もう学院です」
ルミナが答える。
「そういう意味じゃない」
「では居室への帰還を希望しますか?」
「精神的に逃げたいって意味」
「理解しました」
「理解できるの?」
「学習します」
優秀だ。
「レオン!」
遠くから声。
嫌な予感。
赤髪が走ってきた。
「クラリッサ!」
クラリッサが笑いを堪えていた。
「レオン完全に懐かれてるじゃん」
「笑い事じゃない」
クラリッサはルミナの周囲をぐるぐる回る。
「すごい! 何回見ても本当に人間みたい!」
「観察行動を確認」
「また喋った!」
「……」
「レオンのこと何て呼ぶの?」
「……レオン様」
「ご主人様じゃないの?」
「それはやめさせた」
「えー」
「何で残念そうなんだ」
そこへカグラも来た。
ルミナと目を合わせる。
「強い?」
「戦闘能力に関する質問と判断」
「うん」
「現時点では回答を制限します」
「強そう」
「何で分かるんだよ」
「雰囲気」
カグラらしい。
さらに。
「レオン様!」
今度はソフィアだった。
「迷宮で行方不明になったと聞いて……」
「もう大丈夫」
「怪我は?」
「ないよ」
ソフィアがほっと息を吐く。
そして。
ルミナを見る。
「こちらの方は?」
「説明すると長い」
「魔導人形ルミナです」
本人が答えた。
「レオン様の所有物です」
「言い方!」
ソフィアの目が丸くなる。
「所有……?」
「違うから!」
「法的定義では……」
「黙って!」
放課後。
俺たちは学院長室へ呼ばれた。
俺。
エリシア。
ヴィクトリア。
アーヴェル。
リリアーナ。
クラリッサとカグラまで。
なぜかセシリア先輩もいる。
「どうして先輩まで?」
「古代迷宮の警備担当代表です」
「そうでしたっけ」
「今決まりました」
「絶対嘘だ」
セシリア先輩は気にせずルミナを見る。
「模擬戦は可能ですか?」
「先輩までそれ!?」
「性能確認です」
隣でカグラが小さく頷いた。
「必要」
「剣士組が怖い」
セレフィア先生もいた。
いつもの穏やかな表情。
ただし。
今日は少し真剣だった。
「まずルミナさんについてですが」
「はい」
「学院側で調査させていただいても?」
ルミナは俺を見る。
「レオン様の許可が必要です」
「俺?」
「管理者ですので」
またそれだ。
「危険なことをしないなら」
「もちろんです……しないよね?」
ルミナが頷いた。
「許可を確認しました」
リリアーナの目が輝く。
「内部術式も……」
「駄目」
「まだ何も言っていません」
「顔に書いてある」
「そして」
セレフィア先生の声が少し柔らかくなった。
「レオンさん」
「……はい」
来た。
「転移者という言葉についてです」
部屋が静かになる。
エリシアたちも。
聞いている。
「ノアさんの認証では、あなたの魂魄がこの世界とは異なる場所に由来すると」
「……そうみたいですね」
「心当たりは?」
逃げられない。
ここまで知られた以上。
全部隠す方が難しい。
「あります」
俺は小さく息を吐いた。
「俺には」
前世がある。
「この世界で生まれる前の記憶があります」
誰も喋らない。
「違う世界で三十五歳まで生きて」
少し迷った。
でも。
「そこで死にました」
エリシアの表情が変わる。
「それから」
自分の胸へ手を置く。
「気づいたらレオン・アルセリアになっていた」
静寂。
最初に口を開いたのはヴィクトリアだった。
「では」
「うん」
「あなたの妙な言葉や常識のなさは」
「だいたい前世のせい」
「全部納得してしまいましたわ!」
「そこまで!?」
クラリッサが手を上げる。
「三十五歳ってことは今十八歳だから……」
「足すな」
「精神年齢五十三?」
「足すなって!」
アーヴェルが吹き出した。
カグラは静かに俺を見る。
「だから東方の道場を懐かしいと言った?」
「……そう」
「分かった」
それだけだった。
リリアーナは既に何かを記録している。
「研究対象が増えました」
「俺は研究対象じゃない!」
ソフィアはいないのに。
なぜか彼女まで後で聞きに来そうな気がした。
エリシアは。
しばらく黙っていた。
「レオン様」
「うん」
「今まで黙っていたことを怒ってはいません」
「……ありがとう」
「ただ」
少しだけ笑う。
「もっと早く頼ってくださっても良かったのにとは思います」
胸の奥が。
少しだけ温かくなった。
「……ごめん」
「はい」
「でも」
「はい?」
「言うの怖かった」
正直に答えた。
するとエリシアは。
いつもの柔らかな笑顔を見せた。
「なら」
「?」
「今言えたので十分です」
前世の俺なら。
絶対に言えなかったと思う。
自分のことを。
誰かに知られるのが怖かったから。
でも今は。
知られても。
誰も離れていかなかった。
その事実が。
思っていた以上に嬉しかった。
「レオン様」
ルミナが隣から呼ぶ。
「何?」
「私も離れません」
「それは設定上だろ?」
「否定します」
「え?」
「現在の発言は」
ルミナがほんの少し笑った。
「私自身の判断です」
その瞬間。
部屋の全員が静かになった。
リリアーナだけが。
「自我形成……」
ものすごい勢いで紙へ何かを書き始めた。
「研究するな!」
どうやら。
俺だけでなく。
ルミナにも。
まだ色々と秘密がありそうだった。




