第17章 古代管理中枢と、魔導人形の名前
巨大な扉の向こう。
黄金色の光がゆっくり近づいてくる。
俺は剣へ手を掛けた。
「敵?」
「現時点では不明です」
銀髪の魔導人形が俺の前に立つ。
「危険が確認された場合は私が排除します」
「いや待って」
「はい」
「いきなり壊すなよ」
「……承知しました」
少し間があった。
今の間は何だ。
「レオン」
アーヴェルが横へ来る。
「あれを見ろ」
「ん?」
黄金色の光が止まった。
そこに浮いていたのは。
巨大な結晶だった。
人間より大きい。
透明な結晶の内部を無数の光が流れている。
「魔石……?」
クラリッサが呟く。
「違います」
リリアーナの声が妙に真剣だった。
「術式そのものが内部で動いています」
「どういうこと?」
「分かりません」
「また即答か」
「分からないものは分かりません」
正しい。
その時。
『管理者候補を確認』
結晶から声が響いた。
人間の声ではない。
男とも女とも分からない。
『魂魄照合開始』
「またそれ?」
『出生世界照合』
「ちょっと待て!」
もう遅かった。
『現世界出生記録――レオン・アルセリア』
全員がこちらを見る。
『魂魄起源――異界』
さらに見る。
「……」
俺は逃げたくなった。
『転移型魂魄定着を確認』
エリシアが静かに口を開く。
「転移型……魂魄?」
「あとで説明する」
「今でも構いませんよ?」
「俺が困る」
「ではあとで」
笑顔。
怖い。
『継承条件を満たしています』
「何の?」
『当施設管理権限』
「いらない」
即答した。
『回答を確認できません』
「今いらないって言った!」
『管理権限を付与します』
「人の話聞け!」
クラリッサが笑い出す。
「レオンまた変なのに選ばれてる!」
「嬉しくない!」
「剣聖に魔力制御九十九・八七」
ヴィクトリアが指を折る。
「そして今度は古代迷宮の管理者ですの?」
「並べるな!」
カグラが首を傾げた。
「平穏から遠い」
「自覚してるよ!」
『第一管理権限を付与』
床の魔法陣が一斉に光る。
俺の右手の甲へ。
小さな紋章が浮かんだ。
「うわ」
金色の円と星。
数秒で消える。
「消えた?」
エリシアが俺の手を見る。
「見た目だけです」
リリアーナが答えた。
「魔力情報として残っています」
「取れない?」
『解除には管理者本人の承認と後継者指定が必要です』
「面倒すぎる!」
だが。
悪いことばかりではなかった。
『管理者権限により帰還経路を解放します』
「それを先にやってくれ!」
壁の一部が開く。
その向こうには。
見覚えのある第一階層の通路があった。
「戻れる!」
ヴィクトリアがほっと息を吐く。
「よかった……」
俺も本気で安心した。
初回実習で行方不明。
そんな伝説はいらない。
「では帰ろう」
一歩進んだところで。
「レオン様」
「ん?」
銀髪の魔導人形が立っている。
「どうした?」
「私は?」
「……」
そうだった。
この子がいた。
「ここに残るの?」
「管理者との距離が規定値を超えた場合、自動追従します」
「つまり」
「レオン様について行きます」
ヴィクトリアが額を押さえた。
「持ち帰るしかありませんわね」
「言い方」
「実際そうでしょう!」
リリアーナはむしろ目を輝かせている。
「学院へ連れて帰れば研究できます」
「分解は禁止」
「……しません」
「今ちょっと残念そうだったよな?」
「気のせいです」
魔導人形を見る。
「そういえば」
「はい」
「ずっと名前がないままだったな」
「はい」
「不便じゃない?」
「個体識別番号で問題ありません」
「番号は?」
「第七管理補助人形 試作零号」
「長い」
クラリッサが即答した。
「名前付けようよ!」
「俺が?」
「ご主人様なんだから」
「その呼び方を広めるな!」
カグラが魔導人形を見る。
「本人はどう思う?」
「管理者による命名を希望します」
即答だった。
「……俺?」
「はい」
青銀色の瞳がまっすぐ俺を見る。
困った。
名前を付けるなんて経験はない。
俺は少し考える。
この場所。
ルミナス旧迷宮で見つけた。
胸には淡い青の光。
「じゃあ……ルミナ」
「ルミナ」
少女が初めてその言葉を確かめるように繰り返した。
「今日からお前の名前はルミナでどうだ?」
胸元の青い結晶が柔らかく光る。
「個体名称を登録」
そして。
ほんの少し笑った。
「ありがとうございます」
「……どういたしまして」
「ご主人様」
「だからそれはやめよう?」
「努力します」
「努力が必要なの!?」
第一階層へ戻った瞬間。
「お前たち!」
セルジュ先生の怒鳴り声が響いた。
遠くから教師たちが走ってくる。
ものすごく怒っている。
「……終わった」
「今回はレオンだけの責任ではありません」
エリシアが慰めてくれる。
「ありがとう」
「でも」
「何?」
「転移者のお話は別です」
「忘れてなかったか」
「もちろんです」
その後ろ。
ノアが当然のように俺の隣へ立つ。
「ご安心ください」
「何を?」
「必要であれば私が説明いたします」
「絶対やめて」
「承知しました」
俺は深く息を吐いた。
迷宮実習初日。
手に入れたもの。
古代迷宮の管理権限。
異世界出身だと知る仲間たち。
そして。
「ご主人様」
「……」
銀髪の魔導人形が一人。
どう考えても。
平穏な学院生活から。
また遠ざかっていた。




