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『キモデブニートだった俺が、剣聖スキル持ちの銀髪美少年に転生したケース』  作者: ぷっぷくクリーナー


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第14章 騒がしい日常と、次は迷宮探索らしい

 翌朝。


 教室へ入った瞬間。


 俺は扉を閉めて帰りたくなった。


「来た!」


 最初に声を上げたのはクラリッサだった。


 赤い短髪を揺らしながら一直線にこちらへ来る。


「レオン! 昨日すごかったんだって!?」


「朝から声が大きい」


「ブラックグリズリーの異常個体でしょ? 三メートル以上あったって本当?」


「たぶん」


「結晶を一撃で砕いたって?」


「そこだけ切り取るな」


 俺一人で倒したみたいになる。


「エリシアたちと五人で戦ったんだよ」


「でも最後に斬ったのはレオンでしょ?」


「アーヴェルが先に亀裂を作ったからだ」


「そこへ正確に当てるのが普通じゃないんだけど」


 正論だった。


 クラリッサの後ろからカグラも来る。


「腕」


「ん?」


「怪我したと聞いた」


「ああ。もう平気」


 右腕を軽く動かしてみせる。


 カグラは数秒見てから頷いた。


「ならいい」


 相変わらず短い。


 でも。


 わざわざ確認しに来たということは心配してくれたのだろう。


「ありがとう」


「うん」


 そこで小柄な紫髪が割り込んだ。


「結晶の破片は教師側が回収しました」


 リリアーナだった。


「朝の挨拶より先にそれ?」


「おはようございます」


「順番が逆なんだよ」


「では問題ありません」


「そういう問題でもない」


 リリアーナは気にせず続ける。


「自然生成された魔晶石ではありません。人工的な魔道具である可能性が高いそうです」


 俺の表情が少し変わった。


「誰かが魔獣につけたってこと?」


「調査中です」


「そっか」


 少し気になる。


 だが。


 それは教師たちの仕事だ。


 俺は学生である。


 事件を追い回すつもりはない。


「レオン様」


 今度は柔らかな声。


 振り返るとエリシアがいた。


「腕は本当に大丈夫なのですか?」


「大丈夫」


「昨日もそうおっしゃっていました」


「今日はミレイユ先生のお墨付き」


「それなら安心しました」


 栗色の長髪を揺らしながら微笑む。


 その顔を見た瞬間。


 昨日。


 巨熊の爪が彼女へ向いた場面を思い出した。


「……何ですか?」


「いや」


「私の顔に何か?」


「何もない」


「そうですか?」


 少し不思議そうに首を傾げる。


 俺は視線を逸らした。


 あの時。


 考えるより先に身体が動いた。


 自分でもまだ上手く説明できない。


     


「朝から随分にぎやかですわね」


 ヴィクトリアまで来た。


「原因の半分はクラリッサ」


「何で私!?」


「声量」


「元気って言って!」


「物は言いようですわね」


「ヴィクトリアに言われたくない!」


「何ですって!?」


 始まった。


 俺は席へ逃げようとした。


 だが。


「レオン様」


 今度は知らない方向から呼ばれる。


 いや。


 知っている。


 淡い桃色の髪。


 ソフィア・レイネルだった。


「おはようございます」


「おはよう」


「昨日のお話を聞きました。ご無事で良かったです」


「ありがとう」


 以前なら。


 女子から心配されただけで返事に困っていただろう。


 今は普通に言えた。


 少し成長している。


「その……」


 ソフィアが小さな包みを差し出す。


「薬草を使った湿布です。家から持ってきていたので」


「俺に?」


「はい。もう治っているなら必要ないかもしれませんが」


「いや。もらう」


 受け取る。


「ありがとう」


「はい」


 ソフィアが嬉しそうに笑う。


 その瞬間。


 何となく周囲が静かになった。


「……何?」


 エリシア。


 ヴィクトリア。


 クラリッサ。


 カグラ。


 リリアーナ。


 全員がこちらを見ている。


「何でみんな黙るんだよ」


「別に」


 エリシアが微笑む。


 少しだけ笑顔が硬い気がする。


「本当に?」


「本当にです」


 怖い。


     


 さらに。


 昼休み。


「レオン」


「……はい」


 食堂で呼び止めたのはセシリア先輩だった。


 長い淡灰金色の髪。


 学院剣術序列一位。


 相変わらず立っているだけで目立つ。


「腕を負傷したと聞きました」


「情報回るの早すぎません?」


「大丈夫ですか?」


「もう治ってます」


「では」


 嫌な予感。


「明日には模擬戦できますね」


「そうなるんですか!?」


 セシリア先輩は少し考える。


「明後日?」


「日付の問題じゃないです!」


 横でクラリッサが笑い出した。


「やっぱりセシリア先輩すごい!」


「何がだよ!」


 カグラが静かに俺を見る。


「私はその次でいい」


「予約するな!」


「東方剣術」


「内容は分かってる!」


 エリシアが口元を押さえて笑う。


 ヴィクトリアまで楽しそうだ。


 前世の俺なら。


 こんな食事は疲れるだけだったかもしれない。


 今も静かな方が好きだ。


 でも。


 うるさいのに。


 不思議と嫌ではなかった。


    


 午後。


 セルジュ先生が大きな紙束を抱えて教室へ入ってきた。


「来週の実習について説明する」


 生徒たちが静かになる。


「昨日の件で森林実習は一時中止となった」


 当然だ。


 また異常な魔獣が出たら困る。


「代わりに予定を前倒しする」


 先生が黒板へ大きく文字を書く。


 《ルミナス旧迷宮・基礎探索実習》


「……迷宮?」


 思わず声が出た。


 クラリッサが勢いよく振り返る。


「レオン知らないの!?」


「知らない」


「学院の北西にある古代迷宮だよ!」


 今度はリリアーナが説明を始める。


「確認されているだけで七階層。古代王国期以前から存在すると推定されています」


「魔物は?」


「います」


「宝箱」


「あります」


「古代遺物」


「発見例があります」


「……へえ」


「レオン様」


 エリシアがこちらを見る。


「目が輝いています」


「気のせい」


「さっきまで授業の話では死んだ目をしていましたわよ」


 ヴィクトリアまで言う。


「迷宮は別だろ」


「何が別なのです!?」


 剣と魔法。


 迷宮。


 魔物。


 宝箱。


 前世ならゲームの中でしか見られなかったものだ。


「班は?」


 俺が聞く。


 セルジュ先生の眉が上がった。


「珍しく積極的だな」


「安全確認です」


「嘘だな」


 即答された。


「基本は五人一組。ただし探索課題の一部は他班との合同になる」


 クラリッサが手を上げる。


「先生! レオンの班と合同にしてください!」


「勝手に決めるな!」


「私も」


 カグラまで手を上げた。


「東方剣術の実戦運用を確認したい」


「目的違うだろ!」


 リリアーナも小さく手を上げる。


「未発見の魔道具があれば研究したいです」


「お前は迷宮そのものが目的だな!」


 教室に笑い声が広がる。


 セルジュ先生まで笑いを堪えていた。


「合同班は当日発表する。勝手な予約は認めん」


「えー」


 クラリッサが不満そうに座る。


 俺は資料を受け取った。


 描かれているのは古い石造りの地下迷宮。


 複数の通路。


 魔物の生息区域。


 そして。


 地図の端には。


 《未調査区画》


 そう書かれていた。


「……」


 気になる。


 ものすごく気になる。


「レオン様」


 エリシアの声。


「行きたい顔をしていますよ」


「……少しだけ」


「少し?」


「かなり」


 今回は素直に認めた。


 エリシアが嬉しそうに笑う。


 来週。


 初めての迷宮探索。


 この世界へ来てから。


 また一つ。


 明日ではなく。


 少し先の日まで楽しみになっていた。


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