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『キモデブニートだった俺が、剣聖スキル持ちの銀髪美少年に転生したケース』  作者: ぷっぷくクリーナー


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第123章 人形達の密談

 

 聖連邦首都。


 白亜の大神殿は、夜の闇の中でも神々しい威容を保っていた。


 高くそびえる尖塔。


 広大な礼拝堂。


 幾千もの信徒が祈りを捧げる聖域。


 そのさらに奥深くに、歴代の大神官長ですら存在を知らない一室があった。


 聖連邦の公的な記録に、その部屋の名はない。


 扉もなければ、通路もない。


 通常の方法では、誰もそこへ辿り着けなかった。


 しかし今夜。


 その密室には、二人の少女が向かい合っていた。


 一人は、真紅の魔導人形ラプソディア。


 そして、もう一人。


 聖連邦の最高権威、教皇である。




 教皇は、息を呑むほど美しかった。


 見た目の年頃は、ルミナやラプソディアとさほど変わらない。


 少女から大人の女性へと移り変わる、その境目にいるような可憐な容姿。


 だが、その美しさは人間の少女とは根本的に異なっていた。


 透き通るような肌。


 彫刻家が生涯を費やしても再現できないほど、精緻に整った目鼻立ち。


 伏せられた睫毛の一本に至るまで、まるで最初から完璧な形として生み出されたかのようだった。


 そこには、人間が生まれ持つ微細な不均衡さえ存在しない。


 美しい。


 あまりにも美しすぎる。


 しかし、その姿を前にした者が最初に抱くのは、恋情でも憧憬でもなかった。


 畏怖である。


 人の形をしていながら、人の手が届かないところに存在している。


 そう錯覚させるほどの、絶対的な美貌。


 身にまとっているのは、純白の法衣。


 金糸による精巧な刺繍が施されていたが、その豪奢な装飾さえ、教皇自身の美しさを引き立てる背景にすぎなかった。


 静かに微笑めば、聖画から抜け出した天使のような慈愛が宿る。


 けれど、その微笑みが本当に心から生まれたものなのか、見抜くことは難しい。


 若々しい少女の姿。


 しかし、そこに宿るのは、幾世代もの人間を見送ってきたかのような静けさだった。


 もし神が人の姿を取るとしたら、このような姿なのかもしれない。


 信徒たちが教皇を神聖視するのも、無理からぬことだった。


 ――もっとも。


 その美貌の秘密を知る者は、聖連邦の中にはほとんど存在しない。


 教皇は、人間ではなかった。


 古代文明によって生み出された、魔導人形。


 それが、聖連邦の頂点に君臨する存在の正体だった。


 そして今夜、教皇の前に座っているラプソディアもまた、同じく人ならざる存在である。



 ラプソディア「……相変わらず、お綺麗ね」


 ラプソディアは楽しげに微笑んだ。


 ラプソディア「何度会っても感心してしまうわ。そのお姿、昔と少しも変わらないのね」


 教皇「あなたも同じでしょう、ラプソディア」


 ラプソディア「ふふっ。それもそうね」


 二人は顔を見合わせた。


 その光景だけを見れば、美しい少女たちが人知れず談笑しているようにも見える。


 だが、実際には違う。


 一人は聖連邦の頂点に君臨する教皇。


 もう一人は、魔界と王国の和平交渉の裏で独自の目的を追うラプソディア。


 そして二人とも、普通の人間とは決定的に異なる秘密を抱えていた。


 ラプソディア「それにしても、不思議なものね。あなたの信徒たちは、その美貌を神の祝福だと信じているのでしょう?」


 教皇「人々が何を信じるかは、人々自身が決めることです」


 ラプソディア「……ふふっ。実に教皇らしいお答えだこと」


 ラプソディアは優雅に脚を組んだ。


 その赤い瞳が、教皇をまっすぐに見つめる。


 ラプソディア「でも、私の前でまで聖人を演じる必要はないでしょう?」


 短い沈黙。


 教皇は、わずかに微笑んだ。


 教皇「……そうですね。今は、私たち二人だけですから」


 ラプソディア「ええ。だからこそ、今夜は遠慮なくお話ししましょう」


 ラプソディアの笑顔が深まった。


 ラプソディア「この世界を、これからどうするのか。」


 聖連邦の頂点に立つ、美しすぎる教皇。


 真紅の魔導人形ラプソディア。


 二人だけの密談が、静かに始まった。



 卓上には、セレスティア王国、聖連邦、魔境を中心とした地図が広げられていた。


 ラプソディアは王国の西方へ指を置いた。


 ラプソディア「王国と聖連邦の戦争は、思った以上に長引いているわね」


 教皇「戦況は承知しています」


 ラプソディア「王国は魔界からの援助によって息を吹き返した。聖連邦も簡単には退けない。困ったものね」


 教皇「あなたは、どちらの勝利を望んでいるのですか?」


 ラプソディア「どちらでも構わないわ」


 あまりにもあっさりとした返答だった。


 教皇「……和平交渉に携わる者の言葉とは思えませんね」


 ラプソディア「だって、勝った国が世界を救うとは限らないでしょう?」


 ラプソディアは笑顔のまま続けた。


 ラプソディア「むしろ、どちらかが完全に勝ってしまう方が面倒かもしれないわ」


 教皇「……その理由は?」


 ラプソディア「勝者は、自分たちが正しかったと信じたがるもの。敗者は、その正しさを認めたくないものよ」


 教皇「それが戦争というものでしょう」


 ラプソディア「ええ。だから、人間って退屈しないのよね」


 ラプソディアは楽しげに笑った。


 一方、教皇は静かに地図を見つめていた。


 教皇「……あなたの関心は、戦争そのものにはないようですね」


 ラプソディア「さすが。話が早くて助かるわ、オラトリア」


 彼女は地図の北方へ指を滑らせた。


 ラプソディア「魔境の魔力不足。北境の古代施設。そして、王都地下の封印」


 最後の言葉を口にしたとき、教皇オラトリアの視線がわずかに動いた。


 ラプソディア「……ふふっ。やっぱり、気になる?」


 オラトリア「続けてください」


 ラプソディア「この世界は、ずいぶん長いこと、古い仕組みに頼りきっているでしょう?」


 オラトリア「……そうですね」


 ラプソディア「その仕組みが、今になって悲鳴を上げ始めている」


 ラプソディアは地図の中央に指を置いた。


 ラプソディア「人間は領土を奪い合い、魔族は生き延びるために魔力を求める。でも、その根本にある問題は、剣や魔術で殴り合っても解決しないわ」


 オラトリア「あなたは、魔力循環網に手を加えるつもりなのですか?」


 ラプソディア「……どうかしら」


 ラプソディアは微笑んだ。


 ラプソディア「でも、いつまでも壊れかけた仕組みにしがみつくのは、賢明ではないと思わない?」


 オラトリア「修復できるとは限りません」


 ラプソディア「ええ」


 オラトリア「再編した結果、何が起きるかもわかりません」


 ラプソディア「そのとおりね」


 オラトリア「それでも実行するつもりなら、あなたは危険です」


 ラプソディアは、くすりと笑った。


 ラプソディア「あら。今さら?」


 冗談めかした返答。


 だが、その赤い瞳には、一瞬だけ冷たい光が宿った。




 オラトリア「……魔王は、この話を知っているのですか?」


 ラプソディア「魔王陛下?」


 ラプソディアは頬に指を添えた。


 ラプソディア「あの子は、魔境の民を救うことで頭がいっぱいよ」


 オラトリア「……」


 ラプソディア「とても優しい子。人間との和平を本気で望んでいる。自分が傷つくことなんて、きっと二の次なのでしょうね」


 オラトリア「それを利用するつもりですか?」


 ラプソディア「まあ、嫌な言い方」


 ラプソディアは肩をすくめた。


 ラプソディア「私は、あの子が望む未来を否定したくないだけよ」


 オラトリア「……同じ未来を望んでいるとは言わないのですね」


 短い沈黙。


 やがてラプソディアは、少しだけ笑みを深めた。


 ラプソディア「……本当に、あなたには敵わないわね」


 しかし、肯定も否定もしなかった。


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