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『キモデブニートだった俺が、剣聖スキル持ちの銀髪美少年に転生したケース』  作者: ぷっぷくクリーナー


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第12章 初めての校外実習と、濃すぎる班

「私も、あなたの好きな条件に入る?」


 カグラに真正面からそう聞かれ、俺はしばらく答えられなかった。


 どうして最近、女子と話すたびにこの質問をされるんだ。


「……入る部分はある」


「どこ?」


「静かなところ」


「うん」


「無理に喋らなくても平気なところ」


「うん」


「人の秘密をしつこく聞かないところ」


「うん」


 カグラが満足そうに頷く。


「では、かなり入る」


「自分で判定するな」


「でも剣の稽古はしたい」


「そこが減点」


「改善は難しい」


「正直だな」


 隣でアーヴェルが声を上げて笑っていた。


「レオン、お前は剣では無敵に近いのに、こういう話になると本当に弱いな」


「得意分野と苦手分野があるんだよ」


「苦手の差が激しすぎる」


「うるさい」


 それでも以前の俺なら、こんなふうに誰かと冗談を言い合うことすらなかった。


 その変化について考え始めたところで、道場の扉が開いた。


「皆さん、まだ残っていたのですね」


 入ってきたのはセレフィア先生だった。


「先生?」


「明日の予定についてお知らせに来ました」


 嫌な予感がする。


 この学院へ来てから、教師がわざわざ直接伝えに来る予定で平穏だったことがない。


「明日は一年生合同の校外実習です」


「……校外?」


「はい」


 セレフィア先生は穏やかに微笑んだ。


「学院北部の演習森林で、魔獣討伐と野外行動の基礎訓練を行います」


 俺は木刀を持ったまま固まった。


「魔獣って、本当にいるんですか」


「もちろんですよ」


「そういえば異世界だった……」


「何のお話です?」


「何でもありません」


 完全に学園生活へ馴染み始めていたせいで忘れかけていた。


 ここは魔法も魔獣も存在する世界なのだ。


     


 翌朝。


 学院北門には一年生が集められていた。


 普段の制服ではなく、動きやすい実習服に軽装鎧。それぞれ剣や杖、弓など得意な武器を携帯している。


「本日の実習では五人一組で行動します」


 セレフィア先生が名簿を読み上げる。


 俺は静かに祈っていた。


(普通の班。頼む。目立たない人たちで)


「第七班。レオン・アルセリア」


 来た。


「エリシア・ローゼンベルク」


 栗毛のエリシアがこちらを見る。


「よろしくお願いします」


「こちらこそ」


「ヴィクトリア・グランベルク」


「当然ですわね」


「何が当然なんだ」


「同じ班になる予感がしていましたの」


 嫌な予感の間違いではないだろうか。


「アーヴェル・クロイツ」


「よろしく頼む」


「お前まで?」


「何か不満か」


「いや、男が一人増えて安心した」


 アーヴェルが微妙な顔をした。


「最後に、リリアーナ・エルメスティア」


「よろしくお願いします」


 紫髪の小柄な魔術師が杖を抱えてこちらへ来る。


 俺は五人の顔を見た。


 剣術序列十二位の俺。


 首席入学生アーヴェル。


 高精度魔術制御のエリシア。


 公爵令嬢で光属性適性の高いヴィクトリア。


 学年トップクラスの魔力量を持つリリアーナ。


「……先生」


「はい?」


「班分け、作為的じゃないですか?」


 セレフィア先生はにっこり笑った。


「偶然ですよ」


「今、少し間がありましたよね」


「偶然です」


「目を逸らさないでください」


     


 演習森林へ入って最初の一時間は、驚くほど平和だった。


 エリシアが地図を確認し、ヴィクトリアが周囲を警戒する。


 アーヴェルと俺が前衛。


 リリアーナは後方から魔力反応を探す。


 俺が何も言わなくても自然に役割が決まった。


「意外とまともだな」


 思わず口にすると、ヴィクトリアがこちらを睨んだ。


「何を想像していましたの?」


「もっと揉めるかと」


「私たちを何だと思っていますの!」


「個性の強い集団」


「否定しづらいですわね……」


 エリシアが笑う。


「でも、レオン様も十分個性的ですよ」


「俺は普通だ」


 四人が一斉にこちらを見た。


「……何だよ」


「何でもありません」


 声まで揃っていた。


 納得できない。


 しばらく進むと、リリアーナが突然立ち止まった。


「魔力反応」


 全員の表情が変わる。


「距離は?」


 アーヴェルが尋ねる。


「前方約百二十メートル。三体……いえ、四体」


 木々の間から低い唸り声が聞こえる。


 やがて姿を現したのは、大型犬ほどもある灰色の獣だった。


「グレイウルフです」


 エリシアが剣を抜く。


 俺も腰の訓練用ではない実戦剣へ手を添えた。


 実習とはいえ本物の魔獣だ。


 少し緊張する。


「レオン」


 アーヴェルが横へ並ぶ。


「右二体は俺が」


「じゃあ左」


「一人一体では?」


「四匹しかいないだろ」


「……そうだった」


 俺たちがそんな話をしていると、ヴィクトリアが呆れた。


「前衛だけで終わらせないでくださる?」


 彼女が片手を上げる。


「《光鎖》!」


 淡い金色の光が地面を走り、一体のグレイウルフの脚へ絡みついた。


「今ですわ!」


 エリシアが走る。


 剣の腹で魔獣の頭部を打ち、気絶させる。


 リリアーナも杖を向けた。


「《風圧》」


 空気の塊が二体目を横から吹き飛ばす。


 アーヴェルが三体目を制圧。


 残る一体が俺へ飛びかかってきた。


(斬る必要はないな)


 半歩横へ。


 顎の下へ剣の柄を軽く当てる。


 グレイウルフは勢いを失い、そのまま地面を転がった。


 静かになる。


「……終わった?」


 俺が聞くと、ヴィクトリアが腰へ手を当てた。


「あなた、また一人で全部やろうとしましたわね?」


「してない」


「最初に『じゃあ左』と言いましたでしょう!」


「癖で」


「直しなさい!」


 エリシアも少し困ったように微笑む。


「班なのですから、頼ってください」


「……善処します」


「絶対しない返事ですわ!」


     


 その後も何度か小型魔獣と遭遇した。


 ただ、不思議なことに俺の出番はほとんどなかった。


 エリシアは思っていた以上に状況判断が早い。


 ヴィクトリアは派手に見えて、仲間へ当たらないよう魔法の角度をかなり考えている。


 リリアーナも魔力が強いだけではなく、援護へ回れば非常に優秀だった。


 アーヴェルは言うまでもない。


(俺が何もしなくても十分強いな)


 それが少し嬉しかった。


 何でも自分一人でやらなくていい。


 セレフィア先生が言っていたことを、ようやく少し実感した。


 昼頃。


 俺たちは森林中央の小川へ到着した。


「ここで昼食にしましょう」


 エリシアが布を広げる。


 学院から支給された携帯食のほかに、彼女は小さな包みを持ってきていた。


「これ、よろしければ」


 中には焼き菓子が入っていた。


「エリシアが作ったの?」


「はい。昨夜少しだけ」


「すごいな」


 一つもらう。


 蜂蜜の甘さと、木の実の香り。


「……美味しい」


「本当ですか?」


「ああ」


 エリシアの顔が明るくなる。


「よかった……」


 その横からヴィクトリアが一つ取った。


「わたくしにもくださいな」


「もちろんです」


「俺にだけじゃないんだな」


 なぜか口から出た。


 エリシアが一瞬止まる。


「……レオン様だけの方がよろしかったですか?」


「え」


 今度は俺が止まった。


「いや、そういう意味じゃ」


「冗談です」


 エリシアが笑う。


 完全にからかわれた。


「最近強くなったな、エリシア」


「誰かさんの影響かもしれません」


「俺?」


「秘密です」


 またそれだ。


     


 昼食を終えて立ち上がった時だった。


 リリアーナが突然、森の奥を向いた。


「……変」


「何が?」


 彼女の表情がいつもより真剣だ。


「魔力反応があります」


 アーヴェルが剣へ手を掛ける。


「魔獣か?」


「分かりません」


「どのくらい?」


「一つ。でも……大きい」


 俺も森を見る。


 何も見えない。


 鳥の声だけが聞こえる。


 だが。


 ぞくり。


 剣聖スキルとは違う、本能的な警戒が走った。


「全員、武器を」


 自分でも驚くほど低い声が出た。


 四人がすぐに構える。


 次の瞬間。


 森の奥で、木が一本倒れた。


 ズン――。


 さらにもう一本。


 何か巨大なものが近づいてくる。


「実習区域に大型魔獣はいないはずですわ」


 ヴィクトリアの声に緊張が混じる。


「そのはずです」


 エリシアも剣を握り直す。


 やがて木々の間から、それが現れた。


 黒い獣。


 熊に似ている。


 だが大きさがおかしい。


 三メートル以上。


 肩や背中から黒い結晶のようなものが突き出し、目は不自然な赤色に光っている。


 リリアーナが息を呑んだ。


「ブラックグリズリー……?」


「違う」


 アーヴェルが即座に否定した。


「俺も見たことがある。普通はあんな結晶はない」


 獣がこちらを見る。


 瞬間。


 地面が震えるほどの咆哮が森に響いた。


「グオオオオオオッ!」


 ヴィクトリアの顔から血の気が引く。


「これは……実習の範囲ではありませんわよね?」


「たぶんな」


 俺は剣を抜いた。


「先生たちへ信号を」


 リリアーナがすぐ緊急用の魔導具を取り出す。


 だが。


「……反応しません」


「何?」


「通信魔法が乱されています」


 黒い熊の背中にある結晶が、不気味な紫色の光を放っていた。


「魔力妨害……?」


 エリシアが呟く。


 俺は四人より一歩前へ出た。


「レオン」


 アーヴェルが隣へ来る。


「一人でやるな」


「……分かってる」


 自然にそう答えられた。


「俺たちでやろう」


 アーヴェルが頷く。


 エリシア。


 ヴィクトリア。


 リリアーナ。


 全員が構えた。


 前世の俺なら、危険なものを見れば誰より先に逃げただろう。


 今も怖くないわけではない。


 でも。


 隣には仲間がいる。


 なら、逃げる前にできることがある。


 黒い魔獣が前脚を地面へ叩きつける。


 土が弾けた。


「来るぞ!」


 俺たちにとって初めての、本当の戦闘が始まった。

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