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『キモデブニートだった俺が、剣聖スキル持ちの銀髪美少年に転生したケース』  作者: ぷっぷくクリーナー


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第112章 魔王との会話


 魔王の居城にある庭園。


 夕暮れの柔らかな光が、青白い花々を照らしていた。


 小さな卓を挟んで向かい合う二人。


 一人は、セレスティア王国の銀髪剣聖、レオン・アルセリア。


 もう一人は、長い銀白色の髪を持つ、魔境を統べる美しい女王だった。


 そして、たった今。


 二人は互いに、異世界で生きていた記憶を持つことを知ったのである。


レオン「……本当に、陛下も異世界から来たんですか?」


魔王「はい。本当ですよ」


 魔王は穏やかに微笑んだ。


魔王「私も驚きました。レオンさんにも、以前の世界の記憶があるなんて」


レオン「俺もです。まさか、魔王陛下とこんな話をすることになるなんて」


魔王「ふふ。私が魔王だからですか?」


レオン「……まあ、それもあります」


 二人は顔を見合わせ、小さく笑った。


 レオンは、前世で人付き合いが苦手だったことや、この世界に生まれ変わってからの苦労を少しだけ話した。


 学園へ入学したこと。


 目立たずに過ごそうとしたのに、なぜか次々と騒動に巻き込まれたこと。


 そして、今では大勢の仲間に囲まれていること。


魔王「……楽しそうですね」


レオン「いやあ、毎日大変ですよ」


魔王「ふふ。でも、皆さんのことが大切なのでしょう?」


レオン「……はい」


 レオンは素直に頷いた。


 魔王は嬉しそうに微笑む。


魔王「それは、とても素敵なことだと思います」


 その笑顔を見ていると、不思議と肩の力が抜けた。


 初めて会った女性なのに、どこか懐かしい。


 包み込まれるような安心感。


 レオンは、その理由の一端をようやく理解した気がしていた。


   


 しばらくして、レオンは魔王の銀白色の髪へ目を向けた。


レオン「……それにしても、陛下の髪は綺麗ですね」


魔王「……ありがとうございます」


 魔王は少し照れたように微笑み、髪を一房すくった。


魔王「でも、以前は黒髪だったんですよ」


レオン「えっ、そうなんですか?」


魔王「はい。魔王の座を継いだときに、変わってしまったのです」


 歴代の魔王が受け継いできた、膨大な魔力。


 その力を継承した結果、彼女の髪は銀白色へ変わったのだという。


レオン「……そんなことがあるんですね」


魔王「最初は、鏡を見るたびに驚きました」


 彼女は小さく笑った。


魔王「自分なのに、知らない人が映っているようで」


レオン「……何となく分かる気がします」


 レオン自身も、前世とはまったく違う容姿になっている。


 銀髪の美少年になった自分を、最初はなかなか受け入れられなかった。


レオン「俺も、初めて今の自分を鏡で見たときは驚きましたから」


魔王「ふふ。そうでしたか」


 再び穏やかな笑いが生まれる。


 しかし、レオンはふと気づいた。


 魔王の笑顔には、どこか寂しさが混じっている。


 美しい銀白色の髪。


 青銀色の仮面。


 魔王という立場。


 それらは、彼女が背負う大きな責任の証でもあるのだろう。


    


レオン「……そういえば、魔境では魔力の流れに問題が起きているんですよね?」


 魔王は茶器を置いた。


魔王「……ええ」


 その声が、ほんの少しだけ静かになった。


魔王「この土地を支えてきた魔力の流れが、以前ほど安定しなくなっているのです」


レオン「……深刻なんですか?」


魔王「場所によっては、すでに暮らしに影響が出ています」


 魔王は庭園の向こうへ視線を向けた。


魔王「魔力に支えられてきた土地ですから。流れが衰えれば、それまで当たり前だったことが難しくなってしまいます」


レオン「……なるほど」


魔王「皆、工夫しながら暮らしてくれています。私たちも、できることを探しているところです」


 その口調は、あくまで穏やかだった。


 自分がどれほど苦労してきたかを語ることはない。


 しかし、レオンは気づく。


 彼女の素顔には、かすかな疲労が浮かんでいた。


 細い指先が、茶器の取っ手を少しだけ強く握っている。


(……この人、相当無理してるんじゃないか?)


 昼間、謁見の間で見た魔王は堂々としていた。


 だが、今は違う。


 威厳ある仮面を外した彼女は、思っていた以上に華奢で、どこか儚げだった。


レオン「……大変なんですね」


魔王「……そうですね」


 魔王は小さく微笑んだ。


魔王「ですが、皆が力を尽くしてくれています。私だけが大変なわけではありませんよ」


 その答えに、レオンは何も言えなかった。


 きっと、彼女はいつもこうなのだろう。


 自分の苦労を口にするより、周囲の人々のことを先に考える。


 そして、疲れていても穏やかに笑う。


 レオンは、それ以上踏み込まなかった。


    


 話題は、北境戦役へ移った。


レオン「……そういえば、停戦後は王国軍の捕虜も治療してくださったそうですね」


魔王「ええ。怪我をしている方を、そのままにはできませんから」


 それは、何でもないことのように語られた。


魔王「帰れる方には、できるだけ早く故郷へ戻っていただきたいと思っています」


レオン「……そうですね」


魔王「待っているご家族も、いらっしゃるでしょうから」


 そこで、魔王は少しだけ言葉を止めた。


 庭園を吹き抜ける風が、銀白色の髪を揺らす。


魔王「……以前、争いではなく、話し合いで道を開こうとした方がいたのです」


レオン「……魔界の人ですか?」


魔王「はい」


 魔王は静かに頷いた。


魔王「その方の願いは、まだ叶っていません」


レオン「……そうなんですね」


魔王「ですが、今はようやく、話し合いが始まりました」


 その声には、わずかな安堵があった。


 しかし、彼女の瞳はどこか遠くを見つめている。


魔王「……もう少し早く、ここまで来られたらよかったのですが」


 ほんの小さな呟きだった。


 魔王はそれ以上、何も言わなかった。


 レオンも、すぐには答えられなかった。


 北境で見た光景が、脳裏をよぎる。


 負傷した兵士。


 焼けた村。


 故郷を失った人々。


 戦死者の名が刻まれた慰霊碑。


 魔王が何を考えているのか、すべてが分かるわけではない。


 だが、彼女が決して戦争の犠牲を軽く考えていないことだけは伝わってきた。


(……きっと、いろんなことがあったんだろうな)


 魔境の衰退。


 王国との戦争。


 多くの犠牲者。


 そして、ようやく始まった和平。


 目の前の女性が、それらすべてと向き合ってきたのだろう。


 彼女は自分の苦労を大げさに語らない。


 誰かを責めることもしない。


 ただ、時折言葉を止める。


 そして、静かに微笑む。


(……本当は、ずっと苦しかったんじゃないか?)


 レオンは、そう感じた。


レオン「……陛下」


魔王「はい?」


レオン「俺の故郷も、戦争でずいぶん被害を受けました」


魔王「……ええ」


レオン「だから、戦争が起きてよかったとは思えません」


魔王「……はい」


 魔王は、静かに耳を傾けていた。


レオン「でも……今日、陛下と話せてよかったです」


魔王「……そうですか?」


レオン「はい。知らなかったことが、たくさんありましたから」


 魔王は少し驚いたように彼を見つめた。


 そして、穏やかに微笑む。


魔王「……私もです。レオンさんとお話しできて、よかったです」


 夕暮れの風が、二人の間を通り抜ける。


 レオンは安易な慰めを口にしなかった。


 魔王も理解や許しを求めなかった。


 ただ、互いの知らなかった事情に少しだけ触れた。


 それだけだった。


 だが、レオンの中で魔王という存在は、確かに変わり始めていた。


 美しく、優しく、包容力のある女性。


 そして、自分には想像もつかないほど大きなものを背負いながら、それでも穏やかに笑おうとしている人。


(……強い人なんだな)


 剣の強さとは違う。


 魔力の大きさとも違う。


 レオンは初めて、そういう強さがあることを知った気がした。


魔王「……お茶、もう一杯いかがですか?」


レオン「はい。いただきます」


 魔王は微笑み、茶器へ静かに茶を注いだ。


    


 翌朝。


 王国の訪問団は、引率教師たちと魔界の街を見学することになった。


 城門を抜けると、眼下には王国とはまったく違う景色が広がっていた。


 黒紫色の山々が連なり、断崖には青白く輝く鉱脈が走っている。


 淡い紫色を帯びた空の下、大小の尖塔が立ち並び、石造りの街路を様々な種族の住民が行き交っていた。


 角のある商人、翼をたたんで歩く若者、獣耳の子供たち。


 魔石を使った街灯には柔らかな光がともり、窓辺には色鮮やかな花が飾られている。


レオン「……へえ、すごいな」


クラリッサ「なあ、レオン! 魔界ってもっと怖いところだと思ってたぜ!」


ヴィクトリア「クラリッサ、失礼ですわよ!」


クラリッサ「でも、街がすっげえ綺麗じゃん!」


ヴィクトリア「……それには同意しますわ」


エリシア「建物も素敵ですね。王都とは違う美しさがあります」


アーヴェル「軍事施設ばかりを想像していたが、当然ながら民の生活があるわけだな」


 レオンは頷いた。


 戦場で目にした魔王軍と、今ここで暮らす人々。


 どちらも魔界の一部なのだ。


 市場には見慣れない果物が並び、露店から香ばしい匂いが漂ってきた。


クラリッサ「うおっ! あれ、うまそう!」


ヴィクトリア「あなた、さっき朝食をいただいたばかりでしょう!」


レオン「……クラリッサの食欲は、魔界でも変わらないな」


 少し離れた場所では、マリアベルとリリアーナが街灯の魔力回路に注目していた。


マリアベル「この構造、王国の街灯とは違うわね。面白いわ!」


リリアーナ「魔力の分配方法が独特です」


セレフィア「マリアベルさん。分解してはいけませんよ」


マリアベル「分かっているわよ。まずは観察からね」


 その「まずは」という言葉に、レオンは妙な不安を覚えた。


     


 昼過ぎ。


 一行は街を見下ろす高台へ向かった。


 青白く輝く森が遠くまで続き、その向こうには黒い山並みが広がっている。


 渓谷を流れる川は、底に沈む魔石の光を映して淡く輝いていた。


ソフィア「……綺麗ですね」


ミレイユ「薬草も珍しいものが多そうだね」


ソフィア「はい。できれば現地の薬師の方から、お話を伺いたいです」


カグラ「……風の匂いも違う」


セシリア「剣術も建築も、王国とは異なる発展をしてきたのでしょうね」


 フィオナは眼下の道を見渡していた。


フィオナ「街の外側は険しい地形だ。守るには有利だが、物資を運ぶには苦労しそうだな」


セルジュ「よく見ている。戦場とは違う目で地形を観察するのも、今回の目的だ」


 レオンはさらに遠くを見た。


 美しい森の向こうには、緑の乏しい大地が広がっている。


 青白く輝く魔力の筋も、途中で細く途切れていた。


(……あれが、魔王陛下の言っていた魔力の衰えなのか)


 昨夜の会話が胸によみがえる。


ルミナ「レオン様」


レオン「どうした、ルミナ?」


ルミナ「遠方の魔力の流れが不安定です」


レオン「……やっぱり、そうなのか」


ルミナ「はい。場所によって大きな差があります」


 ルミナは遠くの山々を静かに見つめていた。


ルミナ「原因は、まだ分かりません」




 夕方。


 一行は居城へ戻り、食事を囲みながら今日の見学について語り合っていた。


クラリッサ「いやあ、魔界って面白いな! 食い物もうまいし!」


ヴィクトリア「食べ物の感想ばかりですのね……」


クラリッサ「街も綺麗だったじゃん!」


エリシア「私は、皆さんが普通に暮らしている姿を見られてよかったです」


アーヴェル「ああ。敵軍として知っていた相手の、その向こう側を見た気がする」


マリアベル「魔導技術も面白かったわ。明日はもっと詳しく見学したいわね!」


リリアーナ「記録することが多そうです」


フィオナ「実際に足を運ばなければ分からないこともある。来てよかったな」


 ルミナも静かに頷いた。


ルミナ「レオン様。私も多くのことを知りました」


レオン「俺もだよ」


ルミナ「……魔界は、思っていたよりも穏やかな場所です」


レオン「そうだな」


 レオンは窓の外へ目を向けた。


 夕暮れに染まる街。


 家路を急ぐ住民たち。


 そして、遠くに広がる魔力の衰えた大地。


 魔王が守ろうとしているもの。


 ヴェルセリアたちが戦ってきた理由。


 そして、ここで暮らす人々の日常。


(……まだまだ、知らないことばかりだな)


 レオンは、昨夜の魔王の穏やかな微笑みを思い出した。


 彼女が抱える苦悩のすべてを知ったわけではない。


 だが、あの笑顔の奥にあるものを、少しでも理解できるようになりたいと思った。


 窓の外では、魔界の街灯が一つ、また一つと輝き始めていた。


 ヴェルセリアとの修行も、まだ終わっていない。


 新しい剣も、これからだ。


 そして魔界には、まだ知らない景色が数多く残されている。



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