第111章 魔界での修行
王立セレスティア学園。
机の上に置かれた二つの剣身を見つめながら、レオン・アルセリアは深いため息をついていた。
西方諸国連合の少年剣士オスティナート。
十三歳ほどにしか見えない、少女のように可憐な少年。
その少年に、レオンは完敗した。
愛剣を折られたばかりか、自慢の《剣聖》の力さえ通用しなかったのである。
レオン「……参ったなあ」
さらに、その少年を圧倒してみせたシオン・アルトゥス。
あの男の強さは、まるで底が知れなかった。
レオンは折れた剣を手に取り、静かに呟いた。
レオン「……もっと強くならないと」
そこで、一人の女将軍の姿が脳裏をよぎった。
ヴェルセリア・ドラグレイン。
北境戦役で剣を交えた、竜族の強大な武人。
レオンは激闘の末に彼女の片方の角の先端を斬り落としていたが、その実力は今でも鮮明に覚えている。
レオン「……よし。魔界に行こう」
アーヴェル「お前、今度は何を言い出した?」
隣で話を聞いていたアーヴェルが、呆れた顔をする。
レオン「ヴェルセリア将軍に修行を頼んでみようと思って」
アーヴェル「相変わらず、発想が飛躍するな」
レオン「でも、あの人は本当に強かったんだ」
アーヴェルはしばらく考えたあと、腕を組んだ。
アーヴェル「……ならば、北境戦役の選抜隊で訪問するのはどうだ?」
レオン「……みんなで?」
アーヴェル「ああ。停戦後の親善交流にもなる。学院として正式に申し込めば、双方に利があるだろう」
この提案は、予想以上に早く広まった。
クラリッサ「魔界で合同訓練!? すっげえ面白そうじゃん!」
ヴィクトリア「クラリッサ! 喧嘩を売りに行くわけではありませんのよ!」
クラリッサ「分かってるって! 模擬戦は交流の一つだろ?」
ヴィクトリア「あなたの場合、途中から本気になるのが目に見えていますわ!」
レオン「……否定できないな」
クラリッサ「レオンまで!?」
久しぶりに教室へ明るい笑い声が戻った。
北境で戦った仲間たちが、今度は和平のために魔界へ向かう。
それは、誰もが少し前まで想像できなかったことだった。
マリアベル「魔界の魔導技術を直接見られるなんて、貴重な機会だわ!」
リリアーナ「魔力回路の構造を比較したいです」
マリアベル「そうね。許可がもらえれば、研究施設も見学したいわ」
レオン「先輩、勝手に実験しないでくださいね」
マリアベル「失礼ね。ちゃんと許可は取るわよ」
レオン「……少し安心しました」
マリアベル「ただ、珍しい魔導具があったら、できるだけ詳しく調べさせてもらいたいわね」
レオン「……やっぱり不安だ」
傍らでは、セシリアが静かに頷いていた。
セシリア「ヴェルセリア将軍の剣には、私も興味があります」
レオン「セシリア先輩もですか?」
セシリア「はい。あの方の技術から学べることは多いはずです」
エリシアは微笑み、カグラも静かに賛同した。
ソフィアは医療技術の交流に関心を示している。
ルミナはレオンの隣で、いつもどおり落ち着いていた。
ルミナ「レオン様。私も同行いたします」
レオン「ありがとう、ルミナ」
ルミナ「お役に立てるよう努めます」
こうして訪問団が編成された。
レオン、アーヴェル、セシリア、ヴィクトリア、クラリッサ、エリシア、カグラ、リリアーナ、マリアベル、ソフィア、ルミナ。
引率は、セルジュ、セレフィア、ミレイユの三名。
そして、北境で最後の一人が合流する予定だった。
王都を出発した一行は、北境のアルセリア辺境領へ向かった。
街道沿いには、まだ戦争の傷跡が残されていた。
修復中の家屋。
焼けたままの畑。
そして、戦死者の名が刻まれた慰霊碑。
学生たちの表情が自然と引き締まる。
ソフィア「……まだ治療を必要としている方が大勢いらっしゃるのですね」
ミレイユ「そうだねぇ。戦争が終わっても、傷まで消えるわけじゃないから」
ソフィア「はい。もっと勉強しなければと思います」
やがて、一行は辺境の駐屯地へ到着した。
そこでは、一人の女騎士が待っていた。
レオン「フィオナ!」
フィオナ「久しぶりだな、レオン」
フィオナ・レーヴェン。
辺境領に勤務する騎士であり、レオンにとっては幼い頃から馴染みのある女性だった。
レオン「まさか、フィオナまで同行してくれるとは思わなかったよ」
フィオナ「辺境伯から正式な同行命令を受けた。魔界への訪問なら、北境の事情を知る者も必要だろう」
レオン「それは助かるよ」
フィオナ「それにしても、お前は相変わらずだな。かつての敵将に修行を申し込むとは」
レオン「ははは……やっぱり変かな?」
フィオナ「少なくとも、普通は思いつかない」
そう言いながらも、フィオナの表情は穏やかだった。
こうして、訪問団は総勢十五名となった。
一方、魔界。
魔王の居城では、王国からの訪問団を迎える準備が進められていた。
ヴァルガス「ヴェルセリア。王国の選抜隊が来るそうだ」
ヴェルセリア「ほう。北境で戦った者たちか」
ヴァルガス「ああ。銀髪剣聖も一緒だ」
ヴェルセリア「……レオン様が!?」
ヴェルセリアは思わず立ち上がった。
ヴァルガスが愉快そうに眉を上げる。
ヴァルガス「おや、ずいぶん嬉しそうだな」
ヴェルセリア「そ、そのようなことはない!」
ヴァルガス「まだ何も言っていないぞ」
ヴェルセリア「……ヴァルガス!」
ヴァルガスは笑った。
ヴァルガス「三百年近く剣と戦場に生きてきたお前が、まさかこんなことで慌てるとはな」
ヴェルセリア「私は純粋に、彼の剣を評価しているのだ!」
ヴァルガス「ああ。それは俺も分かっているさ」
ヴァルガスは少しだけ声を和らげる。
ヴァルガス「せっかくの機会だ。しっかり剣を教えてやるといい」
ヴェルセリア「無論だ」
ヴァルガス「ただし、嬉しさのあまり手加減するなよ?」
ヴェルセリア「するものか!」
即答だった。
ヴァルガスは再び大笑いした。
数日後。
魔王の居城に、王国の訪問団が到着した。
出迎えたのは、ヴァルガスとヴェルセリアをはじめとする魔王軍の幹部たちだった。
ヴェルセリア「王国の皆、よく来てくれた。今回は客人として歓迎しよう」
セルジュ「ご厚意に感謝する。学生たちにとっても貴重な経験となるだろう」
互いに礼を交わす。
つい先日まで、戦場で剣を向け合っていた者たち。
その双方が、今は同じ場所に立っていた。
レオン「お久しぶりです、ヴェルセリア将軍」
ヴェルセリア「……ああ。久しいな、レオン」
レオンは彼女の角へ視線を向けた。
片方の角は、先端が短くなったままだった。
レオン「あの……角の傷、大丈夫ですか?」
ヴェルセリア「……っ!」
彼女は一瞬だけ目を見開く。
ヴェルセリア「問題ない。あれは正々堂々とした戦いの証だ」
レオン「それならよかったです」
ヴェルセリア「……うむ」
頬がわずかに赤くなる。
その様子を、クラリッサが興味深そうに眺めていた。
クラリッサ「なあ、あの将軍、レオンを見ると嬉しそうじゃない?」
ヴィクトリア「クラリッサ! そういうことを大声で言うものではありませんわ!」
ヴェルセリア「わ、私は別にレオン様が来たからといって……!」
その場が静まり返った。
ヴァルガス「……誰もそこまでは聞いていないぞ?」
ヴェルセリア「ヴァルガス!」
思わず笑い声が上がる。
かつての敵同士とは思えない、穏やかな空気だった。
謁見の間。
王国の一行は、魔王と正式に対面した。
長い銀白色の髪。
漆黒の衣装には、繊細な銀の装飾。
そして顔の上半分を覆う、青銀色の優美な仮面。
そこに立つ女性は、美しさと威厳を兼ね備えていた。
魔王「王国からの客人たちよ。遠路、よく参った」
学生たちは自然と姿勢を正した。
魔王「かつて戦場で剣を交えた者たちが、今度は互いを理解するために訪れてくれた。私は、そのことを嬉しく思う」
その言葉に、レオンは静かに耳を傾けた。
魔王「そなたがレオン・アルセリアか」
レオン「はい。お目にかかれて光栄です」
魔王「ヴェルセリアから話は聞いている。見事な剣士だそうだな」
レオン「……ありがとうございます」
その声を聞いた瞬間。
レオンは、不思議な感覚に襲われた。
(……あれ?)
何だろう。
初めて会ったはずなのに、どこか懐かしい。
威厳ある声なのに、そこには相手を包み込むような温かさがあった。
銀白色の髪も、優雅な立ち姿も美しい。
だが、それ以上に心を引かれたのは、その柔らかな包容力だった。
(……何で、こんなに安心するんだろう)
魔王「……どうした?」
レオン「い、いえ! 何でもありません!」
魔王は小さく笑った。
魔王「ふふ。緊張する必要はない。今のそなたたちは、我が国の客人なのだからな」
レオンは頭を下げた。
しかし、その不思議な懐かしさは、なかなか消えなかった。
その夜。
王国の訪問団を歓迎する会食が開かれた。
大広間には美しい燭台が並び、長い食卓には魔界各地の料理が用意されている。
学生たちも礼装に着替えていた。
レオンは濃紺の礼服。
アーヴェルも落ち着いた色合いの正装をまとい、ヴィクトリアやエリシアたちは華やかな衣装に身を包んでいる。
そんな中、広間の入口で小さなどよめきが起こった。
レオン「……あれ?」
レオンも顔を向ける。
そして、思わず目を見開いた。
そこに立っていたのは、ヴェルセリア・ドラグレインだった。
普段の重厚な軍装は身につけていない。
代わりにまとっていたのは、深い夜空を思わせる濃紺のドレスだった。
上質な絹を幾重にも重ねた生地は、歩くたびに柔らかな光沢を帯びる。
肩から胸元にかけては品よく仕立てられ、細かな銀糸の刺繍が優雅な曲線を描いていた。
その模様は、竜の翼と古い竜族の紋章を組み合わせたものだった。
腰元はすっきりとした造りで、裾へ向かって布がゆるやかに広がっている。
長い裾には、小粒の青銀色の宝石が星々のように縫い込まれ、燭台の光を受けて控えめに輝いていた。
背中には薄い銀紗の飾り布が垂れ、竜の翼を思わせる優美な曲線を描いている。
首元には澄んだ青色の宝石をあしらった銀の首飾り。
耳元には小さな銀の耳飾り。
髪も丁寧に整えられ、一部を編み込んで後ろへ流していた。
その頭部には、竜族特有の二本の角。
片方の先端は短くなっていたが、それさえも歴戦の武人としての誇りを感じさせた。
高貴な令嬢のような美しさと、竜族の女将軍としての威厳。
二つが見事に調和していた。
レオン「……ヴェルセリア将軍?」
ヴェルセリア「……レオン」
彼女は少し照れたように微笑む。
ヴェルセリア「その……今日は会食なのでな。久しぶりに礼装を着てみたのだが……」
わずかに言葉を詰まらせる。
ヴェルセリア「……どうだろうか?」
レオン「すごく綺麗です」
ヴェルセリア「…………!」
女将軍が固まった。
レオン「いつもの鎧姿も格好いいですけど、ドレスも本当によく似合っています」
ヴェルセリア「そ、そうか……」
頬が、みるみる赤く染まる。
ヴェルセリア「……ありがとう、レオン様」
その声は、普段の堂々とした女将軍とは思えないほど小さかった。
ヴァルガス「ははっ! 戦場では敵の大軍を前にしても動じないお前が、褒められただけでこの有様か」
ヴェルセリア「ヴァルガス!」
ヴァルガス「いや、似合っているぞ。三百年近く武人一筋だったお前にも、こういう日が来るとはな」
ヴェルセリア「それ以上言うな!」
周囲から笑いが漏れる。
エリシア「本当に素敵ですね、ヴェルセリア将軍」
ヴィクトリア「ええ。あの刺繍も素晴らしいですわ。竜族の伝統意匠なのでしょうね」
クラリッサ「すっげえ! 鎧姿と全然違うじゃん!」
ヴィクトリア「クラリッサ! もう少し言葉を選びなさい!」
クラリッサ「褒めてるんだって!」
セシリアも、静かにヴェルセリアを見つめていた。
セシリア「……美しいですね」
そして、少し考えてから続ける。
セシリア「ただ、あの裾では剣を振る際に不利になりそうです」
レオン「セシリア先輩、今は会食ですから!」
セシリア「……そうでした」
また笑いが起こった。
魔王が広間へ姿を現すと、会食が始まった。
ヴェルセリアのドレス姿を褒める魔王。
嬉しさを隠せず、また頬を赤くする女将軍。
それを温かくからかうヴァルガス。
そして、その理由をまったく理解していないレオン。
魔界の夜は、穏やかな笑いに包まれていた。
翌朝から、合同訓練が始まった。
セルジュとヴァルガスが訓練全体を監督する。
クラリッサは魔王軍の武人たちと模擬戦を行い、ヴィクトリアは光魔術による防御訓練に参加した。
カグラは魔族の剣士たちと東方剣術について意見を交わす。
エリシアとリリアーナは魔術師たちと魔力制御について研究し、マリアベルはセレフィアの監督のもと魔導技術の視察を始めた。
ソフィアとミレイユは医療担当者たちとの交流に参加する。
フィオナは辺境騎士として、王国の防衛戦術について説明していた。
アーヴェルは魔王軍の組織的な戦術に興味を示している。
そして、セシリアとルミナが見守る中、レオンはヴェルセリアと向かい合っていた。
ヴェルセリア「全力で来い。今のお前の剣を見せてみろ」
レオン「はい!」
鋭い踏み込み。
強烈な斬撃。
しかし――。
キィン!
レオンの剣は軽く逸らされた。
次の瞬間、ヴェルセリアの剣先が喉元で止まっていた。
ヴェルセリア「一本だ」
レオン「……参りました」
再び挑戦する。
しかし、結果は変わらない。
ヴェルセリア「お前の剣は速い。だが、攻撃の前に意図が見えている」
レオン「……どういうことですか?」
ヴェルセリア「視線、肩の動き、重心、呼吸。そのすべてが次の一撃を語っている」
ヴェルセリアは剣を構えた。
次の瞬間。
レオンの目の前に剣先が現れた。
レオン「……っ!?」
踏み込みが見えなかった。
いや、動いていたはずなのだ。
しかし、いつ攻撃が始まったのか分からなかった。
ヴェルセリア「これが《無拍子》の基本だ」
レオン「……すごい」
ヴェルセリア「剣を振る前に、振ることを悟らせるな」
そこから、厳しい修行が始まった。
構え。
呼吸。
視線。
踏み込み。
そして、剣を振る瞬間。
レオンは何度も繰り返し、ヴェルセリアの指導を受けた。
数日が過ぎた頃。
ようやく、わずかな成果が現れ始める。
しかし、まだ《無拍子》を完全に習得したわけではなかった。
その日の夕暮れ。
修行を終えたレオンは、着替えを済ませたあと、一人で城内を歩いていた。
(……ヴェルセリア将軍、本当に強いな)
あの剣を完全に読める日は、まだ遠い。
だが、以前より少しずつ上達している実感はあった。
そんなことを考えながら歩いていると、いつの間にか見知らぬ中庭へ出ていた。
石畳の小道。
静かに流れる水路。
青白い花々が、夕暮れの風に揺れている。
レオン「……綺麗な場所だな」
思わず足を止めた。
そのときだった。
魔王「……あら?」
柔らかな声が聞こえた。
振り返ったレオンは、目を見開いた。
レオン「……魔王陛下!?」
庭園の一角に、魔王が立っていた。
そこには、謁見の間で見た青銀色の仮面はなかった。
長い銀白色の髪が夕暮れの光を受けて淡く輝いている。
公務を終えたのか、華美な装飾を抑えた落ち着いた衣装を身につけていた。
仮面に隠されていた素顔。
整った顔立ち。
穏やかで、どこか優しげな瞳。
その美しさに、レオンは思わず言葉を失った。
魔王「ふふ。レオンさんでしたか」
レオン「す、すみません! 勝手に入ってしまって!」
魔王「いいえ。ここは立ち入りを禁じている場所ではありませんよ」
魔王は優しく微笑んだ。
魔王「修行は終わったのですか?」
レオン「はい。さっき終わったところです」
魔王「そうですか。お疲れさまでした」
その声を聞いて、レオンは再び不思議な感覚を覚えた。
(……やっぱり、どこか懐かしい)
初めて会ったはずなのに、落ち着く。
柔らかな声も、穏やかな微笑みも、まるで以前から知っているもののようだった。
魔王は庭園の小さな卓へ目を向けた。
そこには、一人分の茶器が置かれていた。
魔王「私は、ここで少し休んでいたところなんです」
レオン「そうだったんですね」
魔王「……よろしければ、レオンさんも少し休んでいきませんか?」
それは、あらかじめ用意された招待ではなかった。
偶然出会った相手への、ごく自然な誘いだった。
レオン「……いいんですか?」
魔王「もちろんです。お茶なら、もう少しありますから」
魔王は柔らかく微笑んだ。
レオン「それじゃ……お言葉に甘えて」
レオンは彼女の向かいに腰を下ろした。
魔王はもう一つ茶器を用意し、温かな茶を注ぐ。
魔王「どうぞ」
レオン「ありがとうございます」
ひと口飲む。
穏やかな香りが広がった。
レオン「……おいしいです」
魔王「ふふ。よかった」
その笑顔を見て、レオンはまた少し胸が温かくなる。
戦場では敵国の君主だった女性。
だが、こうして向かい合っていると、彼女は驚くほど優しく、親しみやすかった。
魔王「ヴェルセリアとの修行は、いかがですか?」
レオン「すごく勉強になっています。でも、まだ全然勝てなくて」
魔王「彼女は長く剣の道を歩いてきましたから」
レオン「はい。本当にすごい人です」
魔王は嬉しそうに頷いた。
魔王「ふふ。本人が聞いたら、とても喜ぶでしょうね」
レオン「そうだといいんですけど」
二人は、しばらく穏やかな雑談を続けた。
戦争のこと。
魔界の暮らし。
学園の仲間たち。
そして、慣れない土地で生活する苦労。
話題が移るうちに、魔王がふと呟いた。
魔王「……私も、こちらの世界へ来たばかりの頃は、何も分からなくて大変でした」
レオン「……え?」
レオンは茶器を持つ手を止めた。
レオン「こちらの世界へ……?」
魔王は、不思議そうに首を傾げる。
魔王「……どうしました?」
レオン「いえ、その言い方が少し気になって……」
夕暮れの庭園に、静かな風が吹く。
レオンは、ゆっくりと問いかけた。
レオン「……魔王陛下。もしかして、あなたも別の世界から来たんですか?」
魔王は目を丸くした。
そして、レオンの言葉に含まれた意味に気づく。
魔王「……『あなたも』、ですか?」
レオン「……あ」
思わず口が滑った。
だが、魔王は驚きながらも優しく微笑んでいた。
魔王「……レオンさんも、なのですね?」
レオンはしばらく迷い、静かに頷いた。
レオン「……はい。俺も、別の世界で生きていた記憶があるんです」
魔王はゆっくりと茶器を置いた。
魔王「……そうだったのですね」
そして、どこか安心したように微笑む。
魔王「実は、私もそうなのです」
レオン「……本当ですか!?」
魔王「ええ。本当ですよ」
レオンは、思わず彼女を見つめた。
初めて出会ったときから感じていた、あの不思議な懐かしさ。
その理由の一端を、ようやく理解した気がした。
自分以外にも、この世界へ来た者がいる。
しかも、目の前の魔王がそうだったとは。
魔王もまた、レオンという青年に特別な親近感を覚え始めていた。




