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『キモデブニートだった俺が、剣聖スキル持ちの銀髪美少年に転生したケース』  作者: ぷっぷくクリーナー


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110/122

第110章 記憶なき剣士

 

 ――時は、遡る。


 人里離れた荒野を、一人の少年が歩いていた。


 銀色の髪に、少女と見間違えるほど整った顔立ち。年の頃は十三歳ほどだろうか。


 身にまとった見慣れない衣装は、ひどく汚れ、ところどころ破れていた。


 少年の名は、オスティナート。


 彼には、過去の記憶がほとんどなかった。


 どこから来たのか。なぜ一人で歩いているのか。自分に家族はいるのか。


 何一つ思い出せない。


 ただ、自分の名前だけは覚えていた。


 オスティナート「……どちらへ向かえばよいのでしょうか」


 立ち止まり、辺りを見渡す。


 見渡す限りの荒野だった。


 少し考えてから、少年は再び歩き始めた。


 行く当てはない。


 それでも、何か大切なことをしなければならない気がしていた。




 しばらくして、遠くから悲鳴が聞こえてきた。


 村人「助けてくれぇっ!」


 女性「お願い! その子だけは!」


 オスティナートは足を止めた。


 視線の先には、小さな農村があった。


 だが、村からは黒煙が立ち上っている。


 武装した男たちが家々を荒らし、食糧や金品を奪っていた。


 盗賊頭「さっさと食い物を出せ! 逆らえば村ごと焼くぞ!」


 村人「お願いです! それを持っていかれたら、冬を越せません!」


 盗賊「知るかよ!」


 盗賊が村人を殴り倒す。


 近くでは、幼い子供が泣き叫んでいた。


 オスティナートは、その光景を見て足を止めた。


 何をすべきなのか、考えるまでもなかった。


 オスティナート「恐れ入りますが、その方々への暴力をおやめください」


 盗賊頭「ああ? 何だ、この小娘は?」


 オスティナート「直ちに武器を収めてください」


 盗賊頭「ふざけるな! やっちまえ!」


 盗賊の一人が剣を振り上げた。


 次の瞬間、その剣が宙を舞った。


 盗賊「なっ!?」


 オスティナートは弾き飛ばした剣を受け取ると、襲いかかる盗賊たちを次々と迎え撃った。


 動きは速く、正確だった。


 斬撃を受け流し、武器を弾き、相手を無力化する。


 自分がどこで剣を学んだのか、少年にも分からない。


 だが、剣を握れば身体が自然に動いた。


 十数人の盗賊たちは、ほどなく戦意を失った。


 盗賊頭「ば、化け物だ!」


 逃げ出す盗賊たちを、オスティナートは追わなかった。


 オスティナート「危険はなくなりました。お怪我をされた方はいらっしゃいますか?」


 村人たちは、しばらく呆然としていた。


 やがて村長が歩み寄り、深々と頭を下げた。


 村長「ありがとう! 本当に助かった!」


 オスティナート「感謝は不要です」


 村長「そんなことを言わずに、せめて休んでいきなさい」


 オスティナート「……承知しました」


 こうして少年は、村長の家に招かれた。



 村長の娘「まあ! こんなに可愛い女の子が村を救ってくれたの?」


 村長の娘は、少年の姿を見るなり驚いた。


 そして、汚れた衣装に目を留める。


 村長の娘「その服、どうしたの? あちこち破れているじゃない!」


 オスティナート「……覚えていません」


 村長の娘「覚えていない?」


 オスティナート「はい」


 村長の娘「そう……。とにかく着替えましょう。私の服を貸してあげる!」


 娘は衣装箱から、可愛らしい服を何着も取り出した。


 着替えを手伝う際、少年が男の子であることに気づいたが、用意した服がよく似合いそうなので、そのまま勧めることにした。


 村長の娘「あら、男の子だったのね。でも、これも似合うと思うわ」


 オスティナート「お任せします」


 少年は特に気にすることなく、渡された服を身につけた。


 村長の娘「ほら! やっぱり可愛い!」


 オスティナート「ありがとうございます」


 村長の娘「そういえば、名前を聞いてなかったわね」


 オスティナート「オスティナートです」


 村長の娘「素敵な名前ね!」


 娘は満足そうに笑った。


 少年は特に反応しなかった。


 名前を褒められたからといって、何か感じるわけではなかった。


 その晩、食卓を囲みながら、娘は少年に尋ねた。


 村長の娘「ねえ、オスティナート。あなたはどこから来たの?」


 オスティナート「……分かりません」


 村長の娘「お家は?」


 オスティナート「覚えていません」


 村長「記憶がないのか?」


 オスティナート「はい。自分の名前以外、ほとんど思い出せません」


 村長と娘は顔を見合わせた。


 村長「そうか。なら、しばらくこの村にいなさい」


 オスティナート「よろしいのですか?」


 村長「もちろんじゃ。行く当てもないのだろう?」


 オスティナート「……はい」


 村長の娘「決まりね! よろしく、オスティナート!」


 娘は笑顔で手を差し出した。


 少年はその手を見てから、静かに握り返した。




 それから、いくつもの日が過ぎた。


 オスティナートは村で暮らすようになった。


 畑仕事を手伝い、薪を運び、壊れた柵を直す。


 森に危険な獣が現れれば追い払い、迷子の子供がいれば探しに行った。


 村人たちは、そんな少年を自然に受け入れていった。


 村人「オスティナート、薪を運んでくれてありがとう!」


 オスティナート「作業を完了しました」


 村人「ははは。そんな堅苦しく言わなくてもいいんだぞ」


 近くにいた老婆が笑う。


 村の老婆「そういうときは『どういたしまして』でいいんだよ」


 オスティナート「どういたしまして」


 村の老婆「そうそう」


 別の日。


 村の子供が転んで泣いていた。


 オスティナート「軽い擦り傷です。歩行に支障はありません」


 子供「うえええん!」


 子供はますます泣き出した。


 村長の娘「もう、オスティナート。まずは優しく声をかけてあげなさい」


 オスティナート「……分かりました」


 少年は子供の前にしゃがんだ。


 オスティナート「痛かったですね。もう大丈夫ですよ」


 子供は少しずつ泣き止んだ。


 村長の娘「うん。その方がいいわ」


 こうした日々の中で、少年の話し方は少しずつ変わっていった。


 最初から敬語は使えたが、それはどこか事務的なものだった。


 村人たちと接するうちに、自然な気遣いや感謝の言葉を覚えていく。


 子供たちもオスティナートによく懐いた。


 子供「オスティナート! 今日も一緒に遊ぼう!」


 オスティナート「はい。喜んで」


 子供「やったぁ!」


 村の広場に、子供たちの笑い声が響く。


 村長の娘は、そんな光景を眺めていた。


 村長の娘「すっかり村に馴染んだわね」


 オスティナート「皆様によくしていただいていますので」


 村長の娘「そういう自然な言い方、前はできなかったのよ?」


 オスティナート「そうでしたか?」


 村長の娘「そうよ。最初は何を聞いても『問題ありません』ばっかりだったもの」


 オスティナート「……それは、少々お恥ずかしいですね」


 村長の娘「ふふっ。今の方がずっといいわ!」


 オスティナートは小さく微笑んだ。


 過去の記憶は戻らなかった。


 だが、村での新しい思い出は増えていった。




 しかし、村の暮らしは豊かではなかった。


 重い税の負担に加え、病気に苦しむ子供たちもいた。


 ある日、オスティナートは病床の子供を見舞った。


 オスティナート「具合はいかがですか?」


 病気の子供「今日は、ちょっと苦しい……」


 オスティナート「そうですか。何かできることはありますか?」


 病気の子供「じゃあ、お話して」


 オスティナート「もちろんです」


 少年は子供のそばに座り、村での出来事を話した。


 森で見つけた珍しい花。


 村長の娘が新しい服を選ぶのに夢中になっていたこと。


 広場で子供たちと遊んだこと。


 しばらくすると、子供は小さく笑った。


 だが、専門の医師と高価な薬がなければ、病状の改善は難しいという。


 オスティナートには優れた剣技があった。


 それでも、病気を治すことも、村の税を減らすこともできなかった。


 オスティナート「……私の剣では、救えないものもあるのですね」


 村長「誰にでも、できないことはあるさ」


 オスティナート「ですが、皆様のお役に立ちたいのです」


 村長は頷いた。


 村長「その気持ちだけでも、十分ありがたいよ」


 オスティナートは、村の人々を大切に思っていた。


 なぜ人を守ろうとすると、これほど身体が自然に動くのか。


 その理由は分からない。


 だが、この村を守りたいという思いは、確かに自分自身のものだった。




 やがて、盗賊団を一人で撃退した少年の噂は領主の耳に届いた。


 数日後、領主が護衛騎士を連れて村を訪れた。


 領主「お前が、盗賊団を撃退した少年か?」


 オスティナート「はい。オスティナートと申します」


 領主「剣の腕を見せてもらいたい」


 オスティナート「承知しました」


 村の広場で模擬戦が行われた。


 結果は圧倒的だった。


 領主の護衛騎士たちは、誰一人として少年にまともな一撃を与えられなかった。


 領主「素晴らしい! その力を我が軍に貸してもらいたい」


 オスティナート「戦争に参加するということでしょうか?」


 領主「そうだ」


 少年は少し考えた。


 オスティナート「争いは望んでおりません。私は、誰かを守るために剣を使いたいのです」


 領主「ならば、取引をしよう」


 領主は村を指し示した。


 領主「お前が軍に協力するなら、この村の税を免除する」


 オスティナートが顔を上げた。


 領主「さらに、病気の子供たちの治療費も負担しよう」


 オスティナート「……本当でしょうか?」


 領主「正式な文書にも残そう」


 少年はしばらく考えた。


 戦争に参加すれば、人を傷つけることになる。


 しかし、村の人々の暮らしを助け、病気の子供たちを救える。


 オスティナート「……分かりました」


 少年は頭を下げた。


 オスティナート「お約束を守っていただけるのでしたら、私の剣をお貸しいたします」


 領主「約束しよう」


 領主は実際に村の税を免除し、医師と薬を手配した。


 子供たちの治療も始まった。


 そのことを確認したオスティナートは、西方諸国連合軍への参加を決めた。




 出発の日。


 オスティナートは、領主から支給された騎士服を身につけていた。


 村長の娘が少年の襟元を整える。


 村長の娘「本当に行くのね」


 オスティナート「はい。お約束しましたので」


 村長の娘「帰ってきたら、また可愛い服を選んであげるわ」


 オスティナート「楽しみにしております」


 娘は笑ったが、その表情には少し寂しさもあった。


 家の外では、村人たちが見送りに集まっていた。


 その中には、治療を受けて回復し始めた子供もいた。


 子供「オスティナート! もう行っちゃうの?」


 オスティナート「はい。しばらく村を離れます」


 子供「もっと一緒に遊びたかったのに!」


 別の子供「帰ってきたら、また森に連れていってね!」


 オスティナート「はい。お約束します」


 子供たちは名残惜しそうに少年の袖をつかんだ。


 病気だった子供も、ゆっくり近づいてくる。


 病気の子供「……また、お話してくれる?」


 オスティナートは膝をつき、子供と目を合わせた。


 オスティナート「もちろんです。帰ってきたら、たくさんお話しましょう」


 病気の子供「約束だよ?」


 オスティナート「はい」


 少年は差し出された小さな手を握った。


 やがて村長が前に出た。


 村長「オスティナート。この村は、いつでもお前さんの帰る場所だ」


 オスティナート「ありがとうございます。必ず帰ってまいります」


 少年は村人たちに頭を下げ、街道へ歩き出した。


 背後から、子供たちの声が響く。


 子供「オスティー! 絶対帰ってきてねー!」


 オスティナートは足を止め、振り返った。


 そして、笑顔で手を振った。


 自分が何者なのかは、今も分からない。


 なぜこれほど強いのかも、思い出せない。


 だが、帰る場所はできた。


 その場所を守るため、少年は西方諸国連合軍へ向かった。




 ――そして現在。


 西方諸国連合軍の本陣。


 オスティナートは、次の出撃命令を待っていた。


 先日の戦いで剣を交えた、レオン・アルセリア。


 そして、その危機に現れた銀髪の青年、シオン・アルトゥス。


 シオンの姿を見たとき、オスティナートには奇妙な感覚があった。


 初めて会うはずなのに、以前にも同じ人物と向き合ったことがある。


 そんな確信に近い感覚だった。


 オスティナート「……シオン・アルトゥス様」


 少年は、その名を呟いた。


 なぜ知っているのかは分からない。


 しかし、彼と対峙した記憶の断片が、確かに浮かんでいた。


 オスティナート「……不思議な方ですね」


 少年は小さく呟き、窓の外へ目を向けた。


 遠く離れた村の人々は、元気にしているだろうか。


 村長の娘は、また新しい服を用意しているかもしれない。


 子供たちも、きっと広場で遊んでいるだろう。


 オスティナート「次のお休みには、帰りたいですね」


 少年は穏やかに微笑んだ。


 彼が戦場で剣を振るうのは、名誉のためでも、戦争を好むからでもない。


 ただ、村の人々を守るためだった。


 しかし、王国軍の兵士たちにも、それぞれ守るべき人々がいる。


 オスティナートも、そのことを頭では理解していた。


 それでも今は、自分を迎え入れてくれた村の人々との約束を優先している。


 記憶を失った可憐な少年剣士。


 その正体を、彼自身も、村の人々も、王国軍も知らない。



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