討伐の勘所
まさか、私が前衛になるわけにもいかないし……。
「あの……、先ほどの魔法を当てると倒せるんですか?」
「一応一発で倒せますが……、
詠唱の途中でぶつかってくるので、今まで倒したのは十匹くらいなのですよ」
一発で倒せるというのは、弱くはないのだろう。
経験不足か?
「冒険者を始めてどれくらいですか?」
「半月です」
半月か。
確かに経験不足はあるだろうが、合計で3Gくらいか……。
なかなかシビアな職業だな。
一発で倒せるということは、
十分な距離から攻撃すれば良いのでは?
「あの……、魔法が届く範囲はどの程度ですか?」
「あの魔法なら30mほどの距離は届きますけど、遠くにいくほど威力が弱まります」
「でしたら、
スライムを先に見つけて、その後物陰に隠れて、物陰から撃ってみればどうでしょう」
「おぉ」
アイリスは目を見開いた。
「やってみます」
アイリスは、嬉しそうに言った。
ワクワクしているのは、明らかだった。
単純なことなのに……。
アイリスは、なぜ気が付かなかったのだろうか。
私は周りを探し、アイリスにスライムの場所を教える。
「あの木の陰にいます。こっち側から狙うと良いと思います」
「わかりました」
アイリスは、スライムに気が付かれないよう、慎重に場所を移動する。
アイリスは、杖で空間に線を書き始める。
「火の精霊サラマンドラよ。古の契約により、我に力を与えたまえ。ファイアボール!」
火の球がスライムに一直線に放たれる。
(ぼん)
という小さな音と共に、
スライムに穴が開き、中から液体がこぼれてきた。
そして透明の水晶のような物体が見えた。
思った通り、簡単に倒せた。
このパターンなら、無理もないだろう。
一日三匹討伐して、旅費に充てれば良いだろう。
私はアイリスと共にスライムの死骸に近づく。
しかしスライムというのは、
実に不思議な形状をしている。
口はどこに?
クラゲと似た形状なら、下になる所だろうか。
見た目は半透明だが、
消化器官はどこなのだろうか。
「このスライムというのは、何を食べているのですか?」
「主に動物の死骸などを食べています」
「スカベンジャーですか」
「スカベンジャー?」
「あぁ。主に死肉を漁る生物のことです。
エビやカニ、ダンゴムシの類もスカベンジャー。
ダンゴムシもエビやカニと同じ甲殻類です。遠い親戚のようなものですね」
「ダンゴムシ?」
「この世界にはダンゴムシはいないですか。
触ると丸まる虫のことです」
「あぁ、います。落ち葉の下とかに。
あれが陸のエビなのですか?」
「まぁ似たものです。種類や条件によっては、水の中でもしばらく生きます」
「完全にエビですね。美味しいのですか?」
アイリスは前のめりだ。
深海生物オオグソクムシは、エビとスルメの中間のような味がすると聞いたことがある。
しかしダンゴムシは、知らない。
「食べたことがないのでわかりません」
「今度食べてみますね」
「はは」
コメントに困ってしまった。
それより、
スライムがスカベンジャーだとすると、
討伐しすぎは良くないのではないだろうか?
「スライムは害があるのですか?」
「普段は困らないのですが、数が増えすぎると、農家の堆肥やし尿を食べてしまうのです」
「つまり、肥料の取り合いになると」
「そうです。ですから一定数の間引きが必要で、この森で毎日十匹の討伐が決まっているのです」
「なるほど」
これなら、環境に悪影響を与えず、討伐できそうだ。
環境的にも倫理的にも問題はない。
「ただですね。スライム討伐は不人気なので、この森では、あと三百匹までは討伐しても良いことになってます」
「その三百匹を過ぎると、あとは十匹ずつという感じですか?」
「そうです」
「あの。先ほどのファイアボールというのは、一日最大何発まで撃てますか?」
「学校で習っていた時は、十発まで撃てました」
「というと、もしかして、制限数は上がるのですか?」
「そうですね。毎日練習すると、数が撃てるようになります」
「それは、魔物の討伐数とは別ということですか?」
「そうですね。魔力量という呼び名ですが、魔力量は、討伐などとは関係なく、使った量に応じて増えます」
「なるほど、筋肉と同じですね」
「筋肉も使えば増えるんですか。なるほど。たしかに……。お金は?」
「お金は増えませんが、いろんな経験をすると、使い方は上手くなるでしょうね」
「ほぉ。進さんは、なんでもご存じですね」
「長く生きているだけですよ」
「おいくつなのですか?」
「三十八歳です」
「へぇ。だから物知りなのですね」
「そういうことです」
私は考えた。
この場で、スライムをしばらく討伐し続けて、お金を十分に貯めてから移動するべきか。
それとも移動しつつ、最低限のお金を稼いでいくか。
どちらが良いだろう。
「アイリス。この場で、しばらくスライムを討伐し続けて、お金を十分に貯めてから移動するか? もしくは移動しつつ、最低限のお金を稼いでいくか。どちらが良いですか?」
「うーん。わかりません」
「そうか。神様はどっちが良いと思いますか?」
「難しいですね。あなたにお任せします」
「そうですか」
私は考えた。
まず、
アイリスはスライムを物陰から倒せるくらいには強い。
しかし、
ここから先、強力な魔物などはいないのだろうか?
もしいるなら、ここで最低限の力は身につけておきたい。
早めにこの旅を終えると考えるなら、先に行くのも一つだ。
しかし、それで実際に早く行けるのか?
お金を稼ぎ、馬車で一気に移動したほうが早くないか。
そうか……。
全てのデータに不確実な要素が多く、計算ができないのか。
しかし、
ここでスライムを倒し続けるのであれば、多少は計算がシンプルになる。
「では、私が良いというまで、この場所でスライムを倒し続けましょう」
「はい。じゃあ今日はあと九匹倒しましょう」
「いえ。あと八匹で良いです」
「なぜですか? 余力はありますよ」
「ファイアボールが撃てなくなった時、
もし危ない目に遭ったらどうしますか?
余力は残しておきましょう」




