初めて
「それでは、一度、冒険者ギルドを覗いてみましょう」
神は、冒険者ギルドの様子を映し出す。
石造りの建物。
中世ヨーロッパの建物のように見えた。
ギルドに張られた掲示物が映し出される。
書かれている字は見たことのない字だが、なぜか認識はできる。
「見知らぬ言語ですが、認識はできます。これはなぜですか?」
私は尋ねた。
「私のほうで調整しています。
ほら、アイリスも調整しているから話せるのですよ」
「そうなのですか?」
私は首を傾げる。
「試しにやってみましょう」
「あふびうっゆづふどね」
神は言った。
「何を言っているのですか?」
「ふえふゆじゅいこふちゅでしょ」
アイリスは言った。
「と……いう具合です」
神は笑った。
なるほど、
認識に介入して、言語を読めたり、理解できるようにしているのだろう。
しかし、どのようなアルゴリズムで動いているのか。
私はその技術に興味を覚えた。
「わかりました。その技術もぜひ、教えていただければ」
「機会があれば」
神はそう言った。
「それで、薬草採取は単価が低いのですね。
安全性を考えれば、薬草採取のほうが良さそうですが」
画面の単価を見ながら、
私は言った。
「進さん、甘いですね。
薬草採取が安全?
実はそんなこともないのですよ。
質の良い薬草は、高所だったり、人里離れた場所だったり、意外と危険なのです。
逆に低レベルの魔物のほうが、安全だったりします」
アイリスは胸を張った。
「なるほど。そうなのか。
たしかに……、それはあるかもしれない」
「そうですよ。
私がガツンと稼いで見せますから、見ていてください」
「そういう事であれば……、
まずはついて行きましょう」
一抹の不安を感じてはいたが、
何事も現場に行ってみなければ、
正確な事は判断できない。
私は、アイリスについていく事に決めた。
「私も見ていますので、用があれば、呼んでください」
神は薄くなっていく。
「神様。私……頑張りますから、活躍を見ていてくださいね」
アイリスは手を振った。
それから……、
アイリスは、
冒険者ギルドに行き、
スライムという魔物の討伐を受注する。
一匹討伐するごとに0.3Gの報酬だそうだ。
聞き慣れない名前だが、
弱い魔物のようだ。
討伐の道すがら、
私はアイリスと話す。
まずは経済的な事情を知っておきたい。
「この世界の宿屋の相場は、いくらくらいなのですか?」
「そうですね。安いところで0.1G。冒険者がよく使うのは0.3Gくらいです」
「食事は?」
「一日で0.1Gくらい。生活費はだいたい0.4G。月だと12Gくらいですね」
これまで見聞きした様子から、この世界の基礎教育は十分に整備されていない可能性があるとは思っていたが、掛け算は一般的なのだろうか。
私はこの世界の学力レベルに興味を抱いた。
「11Gを四人でわけると、いくらずつになる?」
「そういう時はですね。1Gずつ、四人に配っていくんです」
なるほど。
海外では、そういう計算をする所もある。
その類か。
「1G余るよね。それは」
「次はその1Gを両替して、0.1Gにします。そして四人に配っていくんです」
「残りは0.2G。これは?」
「次はその0.2Gを両替して、0.01Gにします。そして四人に配っていくんです」
なるほど、この世界には割り算という概念はない。
もしくはアイリスは知らないのか……。
試しに言ってみよう。
「2.75G」
「えっ!すごい。なんで一瞬でわかるんですか?」
「これは割り算という計算方法です」
「割り算ですか……。
聞いたことありません。
進さん。天才ですね」
割り算で天才扱いか……。
この世界では、
数学の分野では、かなり遅れていそうだ。
「これは、私の世界で八歳~九歳くらいの子供が習う計算です」
「えっ。私十五歳ですよ」
あぁ、しまった。
このままでは、アイリスの自己評価が下がってしまう。
「私の世界では、誰も魔法は使えません。教育の方向性が違うだけです。お気になさらないでください」
「そうですか……」
「学ぶ事は好きなのですか?」
「はい。大好きです」
アイリスは、無邪気に笑った。
「そうですか……、私は、大学の教授をしています。つまり教師です」
「じゃあ、私に進さんの、知ってる事、いろいろ教えてください」
「はい。よろこんで。私も、この世界の事をいろいろ知りたいです」
「もちろん。じゃあ……教え合いっこしましょうね」
アイリスの笑みが眩しく感じた。
(どくん)
心臓が大きく波打った。
心拍が乱れている。
おかしい。
塩分は摂り過ぎていない。
過労気味でもない。
栄養も摂れている。
休暇も取っている。
汗でもかいて、
軽い脱水症状でも起こしているのか?
しかし、
起きて水を飲むわけにもいかない。
そう考えていると、
心拍は落ち着きを取り戻した。
そんな事をしていると……、
「進さん。スライムです」
目の前に、水色のクラゲのような物体がいた。
アイリスは、杖で空間に線を書き始める。
「火の精霊サラマンドラよ。古の契約により、我に力……」
(どん)
スライムの体当たりで、アイリスは飛ばされる。
「アイリス、大丈夫ですか」
「イテテ!大丈夫です。スライムの攻撃は弱いのですよ」
「火の精霊サラマンドラよ。古の……」
(どん)
スライムの体当たりで、アイリスは飛ばされる。
「アイリス、本当に大丈夫ですか」
「イテ!平気です。スライムの攻撃は弱いので」
「火の精霊サラマンドラよ。古の……」
(どん)
スライムの体当たりで、アイリスは飛ばされる。
「アイリス、一旦引きましょう」
アイリスと私はその場を逃げ出した。
「もう追っかけてはきません。
スライムというのは、どうも手ごわいようですね」
「あれは最弱の魔物ですよぉ」
「そうなのですか。しかし……」
「普通は、前衛が盾になってくれるんですけど、仲間がいないから……」
アイリスは泣きそうな顔をしている。




