竹下進
「進さんは、私がそうなんだって思うことを、それはなぜ、本当にそうなのか、そんなふうに考えます」
アイリスはそう答えた。
なるほど、
ただ、
それは学者の本分だ。
そう思ったが、
言うのはやめた。
「たしかに、それはありますね。
アイリスさんは、あまり疑問に思わないのですか?」
「そうですね。
世の中を、割とそのまま受け取ってます。
美味しそうなものは、美味しそうとか」
「そうか……、率直な捉え方をなさるのですね」
「進さんは、昔からそうだったのですか?」
「昔から……」
私は戸惑った。
「確か、子供の頃は、こうじゃなかったと」
「何がきっかけで、そうなったのですか?」
「きっかけですか……」
私は過去を思い出す。
「疑問を持つと、世界が輝きだす。そんなふうに言われた気がします」
「誰が言ったか覚えていますか?」
「小学校の頃の……、担任。たしか3年生の理科の授業です」
「理科?」
「こちらの世界で言う魔法のようなものですよ」
「そうなんですね」
「それで、私は色んな物事に疑問を持つようになった。それからです。色んな知識が入り、授業の成績も上がり、結局学者という道に進みました」
「大学とおっしゃってましたよね。学校で一番難しいところって意味ですか?」
「まぁざっくりと言えば」
「そこで勉強を教えているんだ」
「勉強を教えるだけではありません。研究もしています」
「私は魔法を使って稼ぐのが仕事みたいなものですけど、例えるなら、魔法学校の先生もしながら、魔法の研究もするみたいな感じですか?」
「そうなりますね」
「教える時に、疑問を持つということが役に立ったりしましたか?」
「えぇ、もちろんです。学生が疑問に思うことは、私が以前に疑問に思ったことと似ていますからね。ある程度の答えが用意できているのです」
「じゃあ進さんは、子供の頃から、疑問を持つことで先生になる訓練をしていたのですね」
「ははは。上手いこと言いましたね。
確かに、質問ばかりするので、周りには随分面倒がられていましたが、先生になる訓練だったとは」
「私も疑問を持つほうが良いのかな?」
「学校の先生にでもなりたいと?」
「学校の先生というか……、進さんの見ている世界が見てみたいのです」
アイリスは恥ずかしそうに言った。
私の見ている世界が見てみたい……。
なんか嬉しい響きだ。
これは説明しなくては。
いけないかもな。
それには基礎的な学問の知識が必要か。
いや……、
それで、
私の見ている世界を再現できるのか?
「進さん。大丈夫ですか?」
「いや。大丈夫です。どうしたら、私の見ている世界を、アイリスに見せられるかと」
「ふふふ。進さん。面白い」
アイリスは笑い出した。
「そ、そうですか。ははは」
私も思わず、笑い出す。
「私は、進さんは、そのままで良いと思いますよ。
私が進さんのことを理解すれば良いのですから」
「そうですか。でも私も、アイリスを理解したい」
私は無性に恥ずかしくなった。
アイリスも顔が紅くなっている。
理解したいということは、
学問の……、
知的好奇心の探求だ。
それは恥ずかしがることではないはず。
でも、私は今恥ずかしいという感情になっている。
なぜだ。
「なぜか、突然恥ずかしい気持ちになってしまいました」
私は言った。
「私もです。急に恥ずかしくなってしまいました」
アイリスも同じ気持ちだった。
急に、意識がぼーっとする。
「意識がぼーっとしてきました。もう今日はここでお休みだと思います」
と私が言うと、
「はい。明日は火力の調整お願いしますね」
そうアイリスは言った。
……
私は再びアパートで目覚めた。
そして、
私は日常の生活に戻っていく。
運動をし、
大学に向かい、
授業をし、
学食で食事を摂り、
授業と研究をし、
帰宅する。
カップ麺を食べ、風呂に入り、寝る。
いつものルーティンに私は戻る。
寄り道もなにもない。
ただの日常。
毎日通る商店街。
肉屋のコロッケの匂い。
カレー屋の匂い。
花屋の生花の匂い。
色んな匂いに気を取られながらも、
食べたことはなかった。
食事は栄養の摂取のためとしか、
考えていなかった。
誰かと食事を摂ったことがあっただろうか。
学食でゼミの学生と飯を食う。
家族で飯を食う。
学校で友人と飯を食う。
その時も、
栄養の摂取としか、考えていなかった。
食事の味を、
ちゃんと味わっていたのだろうか?
アイリスと食べる食事は美味いのだろうか?
ふとそんなことを思った。
眠りにつくと、
目の前にはアイリスが現れた。
「準備はできました。出かけましょう」
アイリスは元気よく、そう言った。
「はい。その前に、神様、良いですか?」
神様が現れた。
「どうしました」
「あの、この世界の食事をしてみたいのですが、味を感じることはできませんか?」
「難しいですね。でもあなた方の世界のものよりは、美味しくないですよ」
神様はそう言った。
「そうですか」
「進さんの世界の食べ物は美味しいのですか?」
アイリスは興味津々だ。
「多分、美味しいのだと思いますが、あまり味わった記憶がないのですよ」
「もったいないですね」
「そうですか?」
「そうですよ。もったいないです。私に味を教えてほしいです」
アイリスは上目遣いでじっと見た。
「そうですか。
そうですよね。
今度から味わって食べてみます。
アイリスさんも、教えてください。
この世界の味を」
「はい」
アイリスは元気よく答えた。
アイリスはパンと水を買い、
再びスライム討伐に向かう。
「今日は出力調整ですね。まずは?」
「5からですね。やってみます」
私がスライムを見つけ、
アイリスは魔法陣を描き、詠唱を唱える。
「火の精霊サラマンドラよ。古の契約により、我に力を与えたまえ。ファイアボール!」
(ぽん)
中くらいの炎が出て、まっすぐに進んでいく。
そしてスライムに当たり、
スライムを倒した。
「やりましたね。これで5で倒せることがわかりました」




