敗戦ではない
-仕事を辞める日のこと-
汐路部長から会議室に呼び出される。
「星原君」優しくも厳しい声が室内を駆け巡る。
俺は、椅子に浅く座りながら膝の上で悔しさなのか恥ずかしさなのか分からない感情の中、膝の上に拳を作る。
「……」
「大変申し訳ないんだけどさ」
「クビですよね?」
「ん~会社の命令だからな....けど最後まで聞いてくれないか?」
食い気味な会話に、終止符を打ったのは部長。
心の内が分からず、首を傾げる。
「まず。俺の個人的なことを話させてくれないか?」
個人的な事?こんな時に?
そう思いつつ、小さくうなずく。
「俺は、星原君がミスすることが不思議だった。もちろん家庭の事とか色々悩みがある可能性は50%はあるとは思っていた。こちらから相談を聞く姿勢がなかったことは、猛省すべき点だと判断している」
こんな俺を慰めてくれているのか
「けど違和感がある。とどめを刺す決定打になってしまったが、損害賠償ギリギリのラインで留まったのも不幸中の幸いと思っていいと思ってる」
でもそこまでのことをしたし…
「不思議に感じた1個の理由がこれだよ」
そう言いながらスーツの内ポケットから、薄型のボイスレコーダーが出て来た。
たしかに一番よくしてもらい成長を見届けてくれたのは事実だけど、なんでボイスレコーダーが?
何を企んでるんだ?
信頼していたからこそ疑念に変わった。
「これ、なんで?」
「単刀直入に言う。俺の手伝いをしてくれないか?」
....え?手伝いって
疑惑が深まり、上司を見つめた。
「俺の立場上疑われても構わないが、まず色々な目先の情報を抜きにしてこれを聞いてくれないか?」
そう言うと有無言わさせてもらえないまま、ボイスレコーダーが会話を始めた。
数多の話す声。笑い声。騒がしい声。
居酒屋か?
そう思っている間に会話が始まった。
「あいつが。星原がなんで信頼されてるのかがわっかんねぇんだよな~」
「そうなんだよ!理解するのも遅いのにな!」
吉池主任か?
俺の先輩の声から始まる。
あともう1人誰だっけ?同期じゃないし若くもない
目を閉じる事無く現実を受け入れながら、会話に無言で盗み聞きを再開。
「彼はたしかにそうなのかもしれないけど、俺たちの部署の中で誰一人出来ない特化した丁寧さがあるからね」
これは汐路部長か
「そうは言ってもですよ?部長、うちの部署は”スピード”が命なんすよ。あいつが足引っ張ってるとしか思えなっすよ」聞き馴染みのない声が話す。
「あー。私もなんであんなやつ好きになっちゃったんだろ」毒を含んだ一番聞き馴染みのある声は小田切 琴音
「小田切さん、元カレの時、浮気されたんだろ?」
吉池主任の笑いながらイジる声。
「やめてくださいよ!あんなクズ!でも星原はホントに優しいだけで世の中許してもらえると本気で思ってるのかな?別タイプのクズだった」半笑いの彼女の声。
ん゙んん
部長は喉を鳴らしてから、レコーダーを止める。
まぁメンタルを考慮してくれたんだろうとは思った。
でもそもそもこれが仕事のミスにどう直結するのか
ただの悪口にしか聞こえない
「焚き付けるようで申し訳ないと思ってる。でも、1個星原君の感じる事実を教えてほしい」
感じる事実?
「これまでのミス。誰が関与してる?」
「誰がって...俺ですけど...」
俺は胃痛が酷かったが、この時はなんの痛みもなく受け入れた言葉を呟く。
部長は"俺のミスは全て濡れ衣だ"と、俺にとってこの会社での最期に付け加えた。
協力に関して、保留にした。
― 3週間後 ―
「約10年間。お世話になりました」
拍手と花束で見送られる。
まぁこんな俺に拍手を貰えるだけありがてぇわ……
会社を出る時、一度振り返る。
……はぁどうしよ
出世願望も、辞めるつもりもなかった
上司が出世のためにと、考えてるのかもしれない
その踏み台も考慮しなくてはいけない
「ありがとうございました……」
虚ろな目をしたまま小さな声で建物に向かって小さく頭を下げた。
今は10:53か……とりあえず飯でも食って帰ろ……
腕時計を見つめ時々行っていたそば屋に直行。
- 現在に戻る -
俺は首を縦に振る。
「ありがとう。迷惑をかけて本っ当に申し訳ない」
部長....いや汐路さんは両手を膝に突いて頭を下げた。
「やめてくださいよ!頭上げてください」俺は立ち上がり潮路さんの肩を掴む。
俺は、過去を味方に付けることにした。
お読み頂き本当にありがとうございます。
全20話
2話から10話は【2026年3月6日から14日まで 深夜1時00分】
11話から20話は【2026年3月15日から24日まで 午前10時00分】 に投稿いたします。
お時間ある時に、見て頂ければ幸いです。
まだまだ勉強不足で魅力に欠けていると思っております。
読者様の正直な、お気持ちで結構です。
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