因果御恩
俺は、少しだけ軽くなった足取りで元勤め先の前にいた。
星原さん?
後ろで声。
振り返ると後輩の久世君がいた。
「あっ元気だった?」
「元気……と言うとちょっと違うかもです」
言葉遣いも相変わらず優しい子でよかったけど、心配でならない表情。
「……ねぇ」ふとよぎる。
「はい」
「もしかしてミスばっかで、吉池主任から怒られまくってる?」
「……えっ?」目が揺らぐのが分かった。
「あっいい。それ以上何も言わなくていいから」
そっと肩に手を乗せる。
後輩の目は赤く訴えかけていた。
相当追い込まれてる……俺みたいになって欲しくないな……
「辞めんなよ……あと少しだから」優しく強く訴えた。
はい……
「でもさ、本当に辛かったら逃……外の世界を冒険してみるのも悪くないかもね」
辞めるかは、彼自身の問題。今の彼には選択肢を増やす事な気がする
後輩がどんな表情か確認しないまま廊下を歩く。
仲良くしてくれていた同僚たちが社内の廊下ですれ違うと声を掛けてくれた。
コンコンコン
はい
「失礼します」
俺は、会議室に入る。
懐かしいにおいが鼻に届く。
そこに居たのは、各社の社長と汐路さん、主任がいた。
淡々と裁判のように話が始まる。
まずは俺のミスとされる事案を列挙。
ミスをした当時の内容を記憶している範囲で、証言をしていく。
「分かりました……では吉池主任に付いての処遇については追って連絡します。それまでは自宅待機を命じます」社長はため息交じり。
「はい……」見る影もない主任の姿だった。
「失礼しました」ドアを閉め廊下を歩き始める。
ガチャ
「星原君」株式会社タムの田村社長が追いかけて来てそっと声をかけてくれた。
「今回の件、私からも謝罪をさせてくれないか?」
「何がですか?なにも……」
「今さらと言われてしまうかもしれないが、あの時星原君の立て続くミスだと勘違いをし判断をしてしまった」
田村社長は困り果てた顔で、こちらを見つめながら話を続けた。
「取引契約解消の判断こそしているが、もう1つ条件付きにして貰った」
田村社長は困り果てた顔のまま言葉も続けた。
「迷惑だったら申し訳ないが星原君の辞職当時のままの条件で再雇用が絶対条件でお願いをさせてもらった。その代わり私は判断を誤ったので辞職をしようと思う。大変申し訳ございませんでした」
田村社長は腰より低く頭を下げた。
「……俺、恨むつもりも復職もするつもりもなくって」
俺は苦笑いしながら本音を明かす。
「えっ?」目を丸くして見つめられた。
「俺、田村社長がそのように判断したならその時はそれが正解だったのかなとか思っちゃいました。あとこういう人生も案外悪くないなって」後頭部を掻きながら苦笑いで受け流した。
「主任、悪意こそあったかもしれないけど人を扱うの凄い上手だと思うんです。その力の使い方を間違えたってだけで。俺だけの被害ならよかったですけど、大切な後輩に迷惑が掛かるならと少しだけ反論しちゃいましたけど。あっ御社の営業担当の澤田さんにもよろしくお伝えください」
田村社長は、涙ぐみながら右手を掴んできた。
「ちゃんっと!伝えておく!」
「そんな、俺何もしてないですよ?」
苦笑いを継続。
数日後、汐路さんと社長が直々に自宅に来た。
理由は、主任は懲戒解雇の報告。
悪意を持って部下に仕事を擦り付けたり嘘の仕事を教えたりしてミスを誘発させていたらしく、理由は魔が差したらしい。
そしてもう1つは、俺のクビの取り消しと復帰。
また退職金と、解雇後から復帰期間までを含めた生活費の全額賠償の支払いの話だった。
しかし。俺は後者だけは断った。
断った理由はただ1つ。1年過ぎていたから。
その代わり、交換条件を提示。
その代わり「ばっかじゃないの!?」彼女にはこっぴどく叱られた。
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全20話
11話から20話は【2026年3月15日から24日まで 午前10時00分】 に投稿いたします。
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