現実
「生中1つとアメリカン・レモネード1つ」
「少々お待ちください。」店員さんが忙しそうに去って行くの見計らう。
「ごめんなさい。呼び出しちゃって」
俺の謝罪に、彼女は首を笑顔で横に振る。
昨日の出来事を細かく話した。
「そっか~....でもその時に泣けていないなら、仕方ないと思うんだよね」
仕方ないか…
腑に落ちない所はあるものの、相談していることに安心を覚えた。
「それでもやっぱりそれなりに辛かったって事かな?」
「そうだと思うよ~私も浮気されたときの辛さは理解できるから。でも太陽君よりも楽なものだと思ってるけどね」
そんなことないのに
「お待たせ致しました~」
しんみりした空気を切り裂くように店員さんが、早々にドリンクを運んできた。
グラスを軽く当て、改めて挨拶。
話題を変え、注文を挟みながら他愛もない会話。
いらっしゃいませ~
会話中に時折入る店員さんの声。
何気なく話していた。
「いや~疲れた~」
「お疲れ~」
真後ろに座る男女の声。
「後輩にさ、久世ってやつがいてそいつがミスってばっかでそいつの尻ぬぐいだるいわ~」
「それだけ来希君が優秀なんだよね!すご~い!」
空さんは、俺の後ろを一瞬気にするもそのまま一品を食べ始めるが、俺は気になって仕方なかった。
くぜ……って
咄嗟に考える。
「どうしたの?」
目の前にいる空さんが、手を振りこちらを見ていた。
「えっ。あぁいや……」
「うちの部署はスピードが命なんだけどさ~ちんたらしてるやつ見てると腹立つんだよね~」
「あぁたまにいるよね~そういう無能な人~」
…………思い出した。多分そうだ
「1年くらい前に辞めたやつにそっっっくりなんだよ。なんかよくくっついてたから仲良かったんだろきっと」
「そういう人ってどこ行っても変わらんくない?」
「あっ!ちょっと!そこの店員さん!」
男の方が店員を呼ぶ声。
店員さんが
「おかわりで!同じの頼むわ」
「えっと…すみません…お手数ですが教えて頂けますか?」
チッと音が聞こえる。
殺伐としたやり取りが始まる。
「無能じゃ~ん。がんばれ~」女の方が嫌がらせのような言葉を最後に、やり取りを終える。
「てか彼女さんいいの?」女は話題を変えた。
「いいのいいの。どうせ働いてるし。あいつも浮気で知り合ったんだけど楽しくねぇし。見た目と胸だけだわ」
気分の悪いやり取りを、酒で流し込む。
「ねぇ」
目の前にいる友人も、最後まで言わなくても気持ちは同じだったようだ。
「出よっか」
小さく机から身を乗り出し、コソコソと話してくれた。
酒と一品をたいらげ、そっと立ち上がり、2人で後ろの男女の横切る。
多分そうだから、正直横切りたくないな……
刹那。
あれ?星原?
2人の内の男に声をかけられた。
気が付かなかったフリをして横を見る。
やっぱり主任だ
「……あっ吉池主任ご無沙汰してます」作った微笑みで頭を下げる。
「誰?」女の方に睨まれた。
「前、俺と同じ部署にいた部下!ミスってクビだったんよな?」
大声の癖のあるイジりは成長していない。
「あははは」苦笑いをして受け流す。
「へ〜さっき言ってたノロマ?」
「い〜やいや!こいつはマッジで優秀だから!」
いやいや少なくとも汐路さんのボイスレコーダーからも聞いてるし、今真後ろでも聞いてた内容も俺だろ
「そんな優秀だなんてありがとうございます。吉池主任のお陰です」
少しだけ嫌味で返してみた。
「だよな?でもさお前辞めてからさ〜他の奴らがミスんだよな〜どうしてくれんだよ〜戻ってこいよ〜」
俺に限らず、他人に仕事押し付けてた奴が言う言葉か
内心と表情、言葉は不一致で会話が進む。
ドン!!!
隣で強めに机をたたき、空さんが割って来た。
身体が引き攣って隣を見つめる。
「自分のミスを他人になすり付けて!!態度"だけ"はデカいけど人としての器はお猪口の大きさもない!!挙句部下の彼女と浮気して、さらに浮気を重ねて下半身に脳みそでも付いてんの?」
空さんの言葉とは裏腹に、周辺から徐々に静かになり始め視線を集める。
「ちょっと!」小声で空さんの腕を引っ張る。
「二度とその汚ぇ面見せんな!スーツと体だけは一人前だな!!」颯爽と歩き始めると急停止。
「あとてめぇも、足りねぇ脳みそと取ってつけたような目ん玉を移植でもしてみたら?普通のちょっと下くらいならなれると思うよ?冗談は顔だけにしな?がんばれ~無能さん?」
女の顔の眉間に指を指して半笑い言葉を投げる。
誰も居ないんじゃないかと錯覚するほど静まり帰る店内。
「あっ!株式会社KAZOKURoboticsの営業部の吉池主任?だっけ?部下にミスをなすりつけ濡れ衣を着せ、その部下の?彼女と浮気したらしいです~。そして今も絶賛浮気現場~」
その場にいた全員に話しかける。
「すみません」
腕を掴み周りに頭を下げるも効果が無かった。
名誉棄損で訴えられたら100%負けるって
本気で焦り始め腕を引っ張り会計を済ませようと腕を引く。
自分が空さんに、事細かく相談した事へ少しばかり後悔し始める。
すげー覚えてんじゃん
空さんは、もう一度唖然として固まる吉池主任に指を指す。
「私の大事な彼氏をこれ以上追い詰めるなら、濡れ衣の件もっっっと広めるから。あと、あなたの今の彼女さん?あなたは私のこと知らなくても、私あんたの彼女の住所も知ってるから……意味わかるよね?」
吉池主任は硬直。顔面蒼白。
「返事!!」
「はっ……はい」小さい声で何度も頷きながら返事。
「声ちっさい!!!優秀なんだろ?手本見せてみろよ!」
「はっ……はい!!」腰が抜けた裏返る声。
店内にいた数人が、ぷふっと吹き出す音とやめろよと言う聞こえるほどの制止する声。
主任は、酔いより先に恥ずかしさが回ったようだった。
会計を済ませ、頭を何度も下げ店を出る。
「ごめんなさい……」
『言い過ぎ』と言おうと思ったがそこは言葉を飲んだ。
実際全部ぶちまけてくれたことに少しすっきりはしたから。
「謝らないで。太陽君から色々聞いてたのもあって、余計にムカついたの。はぁ~すっきりした……」
それはそうと空さんのいつもとは違う雰囲気に、圧倒されつつも自分の情けなさに項垂れる。
酔うと怖いじゃん……
「私の主観では、太陽君は強いと思うんだけど」
どういうこと?言い返せなかったのに
「言わない強さもあると思ってる。トラブルになるくらいなら、我慢ができる自分が受け止めればいいって思ってると思うから。でも我慢が限界になるまでする必要はまったくないと思う。あいつみたいに言わなきゃ何も分かんない馬鹿もこの世には居るんだから。わかったか知らんけど」
言い方はあるかもしれないけど、ここまではっきり言われると逆に少し吹っ切れた気がする
「あっ、ありがとう」
何か引っかかる……なんだ?まぁいいや
そっと手を繋ぎ、その日の夜は……
お読み頂き本当にありがとうございます。
全20話
11話から20話は【2026年3月15日から24日まで 午前10時00分】 に投稿いたします。
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