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メッセージ

 1分も待たずに振動した亘の携帯が、佳那からの返事が来た事を知らせた。画面に浮かび上がった言葉に亘の意識は一瞬遠退いた。


 “そんな事、認めませんよ”


 予想もしていない言葉だった。何故佳那が、関係の解消をすんなり受け入れてくれると思ったのか……そもそも愛し合っていた訳ではないと思っていた。付き合っていたと言う言葉も適切ではない。関係を解消するのを“認めない”とはどう言う事なのか。手に滲む汗で水溜まりが出来そうな程に汗が吹き出し、逆に全身からは血の気が引いていくのを感じながら、この返事への返事を考える亘。


 返事を打つ手が震える。“どういうこと?”暫く考えようやく絞り出した、たったこれだけの文字を打ち返す前に、再び佳那からのメッセージが届いた。今までにはない長い長いメッセージ。読むのを躊躇うほどに、吹き出し様の枠の中に収められた文字は窮屈にも見える文面で、読む前から息苦しさを感じさせた。亘は自分が打ち込んだメッセージを一度消し、大きく深呼吸しながら佳那からのメッセージと向き合った。



 “なんて冗談ですけどね。私の作戦は失敗しました。離婚したらその後私が亘さんを捨てる予定だったんですよ。逆に捨てられましたね。慰謝料請求されなかっただけ有り難いと思います。私には失うモノなんかないのにね。まさか奥さんがあんな提案を飲み込むとは思っていなかったけど、亘さんはそれすら受け入れる事なく奥さんとやり直すんですね。愛ですか?頑張って下さい。私が言うような事ではないでしょうが。奥さんの気持ちは理解出来ません。くれぐれもお体には気を付けて。今まで、楽しかったですよ。さようなら。”


 

 関係を持つようになってから、佳那としっかりと向き合ったのは、これが初めてだった事を思い知った。今まで佳那の気持ちなど聞いた事も無かった。心臓を鷲掴みにされたような思いとともに、佳那への謝罪の言葉が頭の中をグルグルと渦巻いた。

 何も、誰の事も、深く考えたりしてこなかった。なのにこれが佳那の本心だと思えないのは、傲だろうか。自欺だろうか。必要とされていると浮かれた自分を否定する事が怖いだけだろうか……と、亘はこれまでの逢瀬で見てきた佳那の笑顔を思い返さずにはいられなかった。どうしても、このメッセージはただの強がりだと思えてならなかった。

 だから……だったら……どうだというのか。これが佳那の本心だろうと、強がりだろうと、今更何かをどうにか出来る訳ではない。結局は“関係の解消を拒否”されなかったのだ。これから考えるべきは、由美子と家族の事だけだと、亘は思い直し、佳那からのメッセージを部分的に何度か読み返した後、携帯から目を反らし顔を上げた。と、そこには由美子が車に向かってくる姿が見えた。

 

 太陽は西に傾きかけたとは言え、まだ明るさと暑さを保っている。左腕に荷物を抱え、荷物が重いのか、太陽が眩しいのか、暑いのか……顔をしかめながら戻ってくる。

 亘は車を降りて由美子の方へと向かい買い物した荷物を受け取った。意外と重い荷物に驚いた。そしてマイバックまで、あのバッグの中に入っていたのかと感心する。

 

 スーパーで買い物をしている妻の姿を亘は想像する。昔は一緒に行く事もあったのに、何時から行かなくなってしまったんだろうか。そんな事をふと考えた。



 “愛ですか?”



 佳那からのメッセージが脳裏をかすめる。


 何が一体愛なのか。愛についての教えではないだろうが“40にして惑わず”なんて言葉が有ったな……等と思い出し、しかし40も後半にして惑いだしているような自分には、こうして並んで歩く事を愛という事にして、こんな事を1つずつ増やしていくしかないじゃないかと考えるのが精一杯だった。



 車に荷物を入れ、2人で車に乗り込むと、亘は由美子に告げた。


 「杉山さんに、もう会わないって、連絡した」


 「あ、そう。それで、向こうは?」


 「さようなら。って」


 「へー、そうなんだ」


 「うん」


 “信じてくれる?”そう確認したかったが、亘は聞くのは止めた。その代わりに由美子を真っ直ぐに見つめた。信じてもらえるようにしていかなければならない。それは、これからの自分次第なんだと、自分自身に言い聞かせながら……。

 

 


 



 

 

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