第4話 美人な女性
「うん。君はこっちの方が似合っている!」
声がうわずる若林。
「やっぱり」
それにしても。
「きれいだ」
それに、やっぱりアイツに似ている・・・
「若林君、これは一体何の真似だ?」
記憶の中にある。
「私を世界一のヒロインにしてくれる?」
いやな記憶だ。
カツラを取る謙信。
「もう、気が済んだだろうか?」
カツラを若林に返却する。
「お前は今日から女な?」
「いや、何言って」
「女な?」
勝山は目を逸らす。若林は視界の端で勝山をとらえながら言う。
「君と初めて出会ったとき、感じた」
若林は手に胸を置く。
「あのときめきを今もなお忘れることができずにいるよ」
謙信は首を傾げた。
「でも、同時に違和感もあった。君が着ていたあの制服」
「あの、どうして君の制服は?」
若林は振袖を握りしめる。
「スカートつまり、女子用の制服ではなかった。どうしてか~って考えていたら。まさか男だったなんて」
勝山はスマホを取り出す。
「非常にがっかりだよ」
若林は後ろに手を組む。
「パンをいっぱい食べるっていうのも女の子で食いしん坊!ではなく、ただ単に食欲旺盛な男の子なんて」
若林は人差し指を立てる。
「けれど、一つだけ。引っかかることがあったんだ。あの時君は髪がロングだった。なのに、どうして今はショートなのかな?そうだよ。そのせいで余計、君のことを女性と誤認してしまったんだ」
勝山はスマホを構える。
「そのせいで君を」
若林の言葉に口をはさむ勝山。
「似ている」
若林は勝山に顔を向ける。
「おっと、誰かと思えばいつもクラスで浮いている勝山君じゃないか」
勝山は白目をむく。
「いや、お前にだけは言われたくないな」
若林は首を触る。
「そんな君が一体、オレたちに何の用があるのかな?」
勝山は軽く息を吸う。
「謙信、コイツに見覚えはないか?」
謙信にスマホの写真ホルダーを見せる。
「似ているね」
謙信は少し笑った。
「知っているのか?」
謙信は横に首を振った。
「なら、どうして」
「仲良くしろ!」
若林は勝山の言葉を遮るように大声で言った。直後、勝山が硬直した。
「最初、それを言おうとしていたんじゃないのか?」
謙信は勝山の方に向いていた体を若林に向きなおした。
「まあ、それはいい」
若林は頭を掻いて勝山から視線を外した。
「とにかく、さっきの話の前に、これを」
勝山は割って入る。
「これは衣装さ」
若林は躊躇うことはなかった。
「衣装?」
「彼女、いや彼に必要な武器を与えたまでだ」
「強要だろう」
「それは謙信が判断することさ」
謙信はその場に立ち尽くす。
「さあ、着るのだ!この」
「セーラー服に!」
いや、これはさすがに。謙信は無言で着替え始めた。そして。
「着たー」
「それでこ、大友謙信!」
勝山は思わず頭を抱えてしまった。
「これだ」
いつもそうだ。
「じゃあ」
「ああ、このセーラー服は」
勝山は逃げるようにその部屋から出ると天井を見上げながら、真っ直ぐに走り始めた。
「やっと」
それに対し、若林はカーテンを閉めた。
「よし、うるさい子バエもいなくなったことだし、本題に入るとしよう」
椅子に腰かける。
「人を子バエ呼ばわりするなんて失礼ですよ」
若林は謙信の社交辞令に答えない。
「まず、大友謙信!君には美人な女性になってもらおう!」
謙信は首を横に振る。
「だから、それは・・・」
「わかった。それはもういい」
いいのかよ。謙信は片目を閉じた。
「ここからが、本題だ!」
意図的に張り上げられたこの声に少しの不快感が付きまとう。若林は黒板にチョークで書き始める。
「大友謙信!」
謙信は返事をする。
「君は演劇部に興味はあるかい?」
謙信は咄嗟に手を後ろに組んだ。




