第2話 審判
「もう一度、言う」
先生は苦虫を嚙み潰したような顔で口を開いた。
「このクラスに人殺しがやってくる」
周囲の困惑は一気に広がった。
「いや、それは」
そんな混乱を遮るようにして 一人の生徒が手を挙げた。
「質問いいですか?」
先生は姿勢を正した。
「なんだ、若林」
「先生、その人は」
若林は一息ついてから言葉を口にした。
「美人な女性ですか?」
「は?」
勝山は大声で異議を唱えた。
「それはおかしいだろ!」
先生はそれを無視して進行する。
「残念だが違う」
勝山は顔を行ったり来たりさせるように向き直す。
「そうですか」
若林は静かに着席した。
「いや、お前最初の質問それかよ~アホだなー」
勝山は周囲を見渡す。
「他に質問あるやついるか?」
勝山は咄嗟に手を挙げた。
「その人って、三年前に父親を殺害した罪で服役していた人ですか?」
先生は視線を落とした。数秒経ってから口を開く。
「ああ、その事件の犯人。つまり、あの有名な劇作家である大友正俊の息子、大友け」
と、先生の言葉を終える直前に教室のドアが開く音がした。若林は急いでドアの方へ顔を向けた。
「失礼します!」
妙に元気のいい挨拶だった。
「こちらは三年三組でお間違い無かったでしょうか?」
不要に思える確認を声高らかに上げるこの人物は。
「こちらの教卓の前で自己紹介を」
先生は手を仰ぐ。
「承知しました!」
静寂の中、淡々とそして元気よく。
「少年院からやって参りました!大友謙信です!」
若林は肘を置く。
「みんな!よろしく!」
謙信は勢いよく頭を下げて挨拶をした。
「ええーああ、うん」
先生は天井を見上げている。謙信はそれを見ていた。
「じゃあ、謙信の席だが」
先生は勝山の方に指を差した。
「先生、オレは」
「謙信さん、こちらへ」
勝山は瞬きを三回した。
「あいつ、足速いか?体育祭、うちのクラス、ドベだからなあ~」
こんな異様な状況で一体、何を。
「謙信、君の席はこっちだ」
いや、これは配役の違いか。
「謙信」
若林は謙信の顔をまじまじと見つめる。
「大友謙信!君は男の子か!」
謙信は不思議そうに首を傾げた。若林は続けて問いただす。
「君は男の子か!」
謙信は若林の文脈を理解したのかようやく口を開いた。若林は期待の眼差しで謙信を見つめる。
「うん、そうだけど」
若林は白目をむくようにして目くばせをした。
「くそ~あれほど心奪われるのは生まれて初めてだったというのに」
若林はその場に座り込んだ。と、そこに勝山が割り込んできた。
「お前、人殺しのくせによく学校に来れたね?」
クラスの審判員を務める勝山庄司は悪者を問いただす。
「少年法」
「少年法?それだけで人殺しがたった三年で?」
勝山は苦笑した。
「そんなわけがないだろ」
勝山は机にもたれる。
「人殺しがたった、三年。おかしい」
勝山は肩を揺らす。
「何か特別な力が働いたとしか思えないな」
若林は立ち上がった。そして、それをまねるようにして男子生徒が席を立った。
「そんなことより、謙信。君、彼女はいるかい?」
勝山は若林の方へ向く。
「それ、聞きたかった!」
若林の言葉に便乗するように一人の女子が声を上げた。
「それより、謙信!君は100メートルのタイムを教えてくれ!」
女子の声に被せるように後列から体育委員の生徒が飛び込んできた。勝山は眉をひそめた。
「彼女はいません」
「おい」
謙信は勝山の猛攻を意に介さず淡々と質問に返答する。
「ちなみに100メートルは12秒4です」
後列の体育委員は雄叫びを上げた。
「これで、体育祭は心配いらんな」
こいつは、いやこいつらは一体何を。勝山はクラス全体を見渡す。
「一体、誰が」
「じゃあ、みんな授業を始めるぞ」
一体、これは誰の脚本だ。勝山はクラス全体を見渡した先でクラスの端。一人、身を震わせる女子がいた。勝山は拳を強く握りしめた。




