第22話 秋雨
田んぼの稲は、完全に黄色に変わった。風に揺れる様子は、さながら黄金の海だ。
これからしばらく長雨の予報が出ている。
翔:川掃除、俺も行く
海人:なんかあった?
翔:予報、けっこう降るっぽいから
海人:無理しないでいいよ。でも、晴れの国でも降るんだね
菜美:お米に影響ないといいけど
翔:コロのところで
翔は仕事も資格試験も大変なはずなのに、川掃除につき合うと言う。こういう責任感に、町内の人たちはついつい頼ってしまうのかもしれない。
早めに川掃除の準備をして、コロに、お座り、お手をしてもらって遊んでいると、レインコートを着た翔が虫取り網とバケツを持って現れた。
「お前、こういうときに傘はないぞ……」
「かっぱ、どこかにあるかな」
「梅雨のあいだ、どうしてたんだよ」
「外に出ない」
買い物も、天気予報を眺めて、降らない日に行っていた。降られて濡れたら、洗濯すればいい。
翔が大きなため息を吐いて下を向いた。それを自分に注目したのだと勘違いしたコロが、翔の足に寄っていった。
今日はこのまま行こうという翔と、出発する。今日の目的は掃除というより点検だ。
目についたゴミを拾いながら、言葉少なに歩く。弱く降り続く雨のせいで、湿気がまとわりついてくる。
けれどコロは、濡れるのも気にせず、興味をひかれたところの匂いをくんくんと嗅いでいる。
「出ていけってまだ言われてんのんか?」
「もうない。忘れたんじゃない?」
「それはないだろう」
「じゃあ、飽きたんでしょ」
彼らにとって海人などその程度の存在だ。怒りを持続させるのは、難しい。
ペットボトルが多いが、今日はお酒の缶が浮いている。それを網ですくって、バケツに入れる。
「翔の仕事は?」
「忙しい」
「いつも大変そうだよね」
「人が足りないんだよ」
家で仕事をしているぶん、通勤時間もそのまま仕事に回してしまうらしい。翔の母が働ぎすぎだと心配していた。
翔は、用水路に突き出している排水用のパイプに引っかかっている藻をひっぱりあげ、バケツに入れた。
「残業代稼ぐと思って頑張ってる」
「資格試験は?」
「手を付けられてない。でもやるしかない」
「ほどほどにね」
それからは、ほとんど会話もなく、湿った雨の音の中で用水路を見て回った。
ときどきコロが、身体をぶるぶるさせて雨を払っていた。
源の家に戻ると、源が畑で作業をしている。コロは源を見つけると、一目散にかけていった。
「いつもすまんな」
「源さん、畑の雨対策、何か必要ですか?」
「水が田んぼに抜けるように、畝から道を作っとけ」
「分かりました」
「普通に降る分には大丈夫じゃろ」
帰ったらさっそく作業をしよう。そうなると、たしかにレインコートが必要だ。
「そうだ、コロの雨がっぱ、用意したほうがいいですか?」
「……あいつは気にせん」
ネットで見た雨がっぱを着た犬たちを思い出して聞いてみたが、源からは胡乱な目を向けられた。翔は頭を抱えている。
そんな空気の中でも、名前を呼ばれたことに反応して尻尾を振るコロがかわいい。
顔を上げると、勢いよく流れる用水路、ぬかるんだ泥が一面に広がる地が見えた。今日はいつもより視界が揺らいで、不安になる。
雨をよけて納屋の軒下に座る白い猫が、海人をじっと見ていた。




