城下と紺の騎士
黒馬車の中、ソファー代わりのマットを広げると、ふかふかのベッドになった。
「タケシすごいなこれ」
「そやろ」
たぶんドヤ顔だが、暗くてわかんない。
マシロが足元で丸くなった。
カースケは見張りだ。可哀想というと、
「いや、アイツ結構昼間立ったまんま寝てるから平気」
だそうだ。
ちょっと疲れていたから、2人ともすぐに眠ってしまった。
朝。
昨日のスープを温めなおし、パンを軽く炙った。
いよいよアルナ。しっかり食べて気合を入れる。
昨日のおじいさんの馬車は、もういなかった。
少しずつ往来に馬車が増えていく。
門が見えてきた。
列ができている。
後ろに並ぶ。
しばらくすると衛兵がやって来た。
「身分証を」
2人の身分証に城からの手紙を添えて渡す。
衛兵は手紙を広げると、門の脇を指差した。
「あそこで待ちなさい」
馬車を移動させた。
次々と荷馬車が門をくぐるが、なかなか呼ばれない。
「どうなってんの?」
「確認取ってるんやろな。時間かかるんちゃうか」
「めんどくさ」
「しゃあないんや。城あるから」
「ふーん」
1時間も待っただろうか、やっと衛兵がやって来た。
「通っていいぞ」
通行証と手紙を返しながら、
「大通りを真っ直ぐ行け。城門があるから、そこでこれを見せろ」
なんか偉そうに。やなかんじ。
タケシがペコっとお辞儀して、馬車を動かした。
「第1関門突破や」
「関門いくつあるん」
「わからん」
「あーめんどくさ」
門を抜けると大通り、石畳が続いている。
一気に喧騒が広がる。
カツミたちの住むミナセに比べると、すごく雑多な感じ。
表通りは賑やかで、露店も多いが、細い路地はちょっと暗い。
ゆっくりと馬車を進める。が、なんだかジロジロ見られている。
あぁこの馬車、目立つんや。
そのうち、人相の良くないのが路地の隅にチラチラ見える。
「カツミ、後ろにはいれ」
「うん」
カツミは荷台に移って隙間から周りを伺った。
あ。雰囲気良くない。
ちょっと目を付けられたかも。
パサッっと羽音がした。カースケだ。
マシロが低く唸っている。
まずい。
早く行きたいが、ここは人通りが多すぎる。
「クソッ」タケシはゆっくり馬車を進める。
門からだいぶ離れた。露店が切れ、人通りが減ったところで、男達に囲まれた。
7人。いや8人か。
カースケが戻ってタケシの肩に乗る。
馬車が、止まった。
「よう、ニイチャン、いい馬車に乗ってんじゃねーか」
「俺らも乗せてくれよ」
タケシは前を向いたまま黙っている。
「よう、ニイチャンよぉ」
男が馬車に手を掛け、揺すった。
タケシが御者台に置いてある棒に手を伸ばす。
「何とか言えよ」
「あー。てめえ、降りてこいや」
どんと馬車を蹴った。
タケシが棒を振り上げようとしたその時、
バーン!
「うわぁー」ドサッ
覗くと男が倒れている。
向こうから、騎馬隊だ。手には刀。
「ヤバい、逃げるぞ」
男は倒れた仲間をほおって逃げ出した。
逃げる男達を追いかける騎馬。
倒れた男も後から来た人に捕まった。
「ご無事ですか」
「はい。ありがとうございます」とタケシ。
「カツミ、大丈夫か」
「うん」顔を出した。
「お怪我はありませんか。
もう出ても大丈夫です」
「ここからは我々が護衛します。ご安心ください」
御者台に座る。マシロはまだ興奮しているようだ。膝に乗せてゆっくり背中をなでると落ち着いてきた。
「さぁ。参りましょう」
騎馬の男は背筋をまっすぐ伸ばして前を向く。
濃紺の外套が風に揺れ、その内側に赤い裏地が一瞬のぞいた。
肩にかけているのは銃だ。腰には、あれは刀、日本刀?
馬車の後ろにも、騎馬がついているようだ。
追いかけていた騎馬が男達を縛って引き連れていった。
「何なの」
「わからん」
バサバサッ。フクロウが飛び立つのが見えた。
「カー」カースケが鳴いた。
大きな門の前まで来ると、騎馬の男は馬から降りた。
衛兵がサッと敬礼する。
何か話して......戻ってきた。
タケシを見上げて、
「どうぞお通りください。
この者がご案内します」
別の衛兵が進み出て、サッと敬礼した。
騎馬が脇に避け並んだ。
濃紺の揃いの外套で、整然と並んで姿勢を正す。
その前を馬車はゆっくりと進んだ。
「めっちゃかっこええ」
「そやな」
「惚れそうや」
「アホか」
門をくぐると、衛兵が馬に乗った。
美しく整備された並木を進んだ。遠くに城が見えてきた。
うわっまるでシンデレラ城や。
「これが王都アルネシアや」
「なんかさっきと全然雰囲気違うな」
「ここは貴族が暮らすとこやからな」
店も並んでいるが大きな建物ばかり。もちろん露店など無い。
通る馬車も綺麗なものだ。時々召使いらしい人が出入りしている。
城が近くなってきた。
また門だ。小さいが重厚な門には、派手な羽根つき帽を被った衛兵が、両側に立っている。
その手前で止まった。
脇から男が出てきた。
先導の衛兵と少し話して、こちらを向いた。
執事?なんか髪型がいかにも。
「申し訳ございません。本日は謁見出来ませんので、こちらにご宿泊をお願いします」
男についていく。
馬車を止め、馬をつなぐと、部屋に案内された。
簡素だか清潔な部屋だ。
「食事の用意が出来ましたら、お呼びしますので、どうぞごゆっくりおくつろぎください」
「ふー。疲れたぁー」
ベッドで伸びる。
「ホンマどうなるかとおもた」
「なんかさ、ここさ、異世界感が半端ない」
「あぁ、多分まだこれからやけどな」
「そやな、楽しみやな」
「お前余裕あるなぁ」
「女は度胸や」
「しらんわ」
夕食は簡素なものだったが美味しかった。マシロのクレクレが激しくて困っていたら、執事が別皿に用意してくれた。
「明日の10時に謁見の予定です。朝食は8時ですので、こちらにお越しください」
その夜もまた、あっという間に眠ってしまった。
ホー。どこかでフクロウが鳴いた。
翌朝。
食事の後、のんびりしていて、ふっと思い立った。
「なぁ、なーんも考えてなかったけどさ」
「ん?」
「王様に謁見するのに、この服でええん?」
なるべく綺麗なものを選んで来たが、普段着だ。
「そんなもん今更どないもならんわ」
「いやー。昨日の騎馬といい、執事さんといい。なんかなぁ」
「俺ら平民や。気にすんな」
「そやな。しゃあないな」
「ああ、知らんけど」
トントン。ノックだ。
「お時間です」
馬車に乗り、執事の先導で門をくぐり、しばらく行くと、たくさんの馬車が止まっていた。
キラキラ派手な馬車だ。馬にも飾りがついている。
執事に指定された場所に馬車を止めた。
マシロとカースケは留守番だ。
執事の案内で城の中へ。ついキョロキョロしそうなのをぐっと堪える。
それにしても、さすがにお城だ。なんかやたらとデカい。もうさっぱりわからん。タケシは迷子確定や。
そして近衛兵の並ぶ廊下の前で、執事さんは下がっていった。
先頭の近衛兵が前に出た。
「どうぞ」
先導されて進む。目の前には大きなドアだ。




