謎の老人
城からの手紙ーー
それは、出頭命令だ。
すぐに手紙をテラに見せに行った。
「ごめんカツミちゃん。私うっかり自慢しちゃったの」
どうやらワイバーン肉をもらう時に、カレーの話を漏らしたらしい。
神なのに。なんてことすんの。
「食べたくなっちゃったんだろうなー。
ね、カツミちゃん、チャチャッと食べさせてやってよ。
仲良しなの、カイル君。エヘ」
いや、軽すぎでしょうが。相手王様やのに。
「一カ月後でしょ。大丈夫よ。何ならついて行ってあげるけど」
いや、かえってめんどくさそう。
仕方ない。行くしかない。
とりあえず行くまでは普通に営業しよう。
タケシの方は少し修理仕事を減らして、黒馬車をいじっている。
アルナまでは丸1日かかる。道の荒れたところもあるし、途中泊も考えているようだ。
黒馬車を試走させてはゴソゴソ。
時々大声を出してわめいている。
「あぁー割れたー。くっそー」ん?なんだ?
すごい音したけど。
まぁやりだしたら、ほおって置くしかない。
カレー屋をやっているときは、いつものドワーフ工房に入り浸っている。
今日はオモジイまで連れ出すという。
半月ほど経って、タケシが落ち着いた。
久々に昼カレーを食べながら、オモジイとしゃべっている。
んー。こりゃ私入れない領域だわ。
ほっとこ。
手紙から一カ月ーー
噴水広場の店はしばらく休むと表示した。
キッチンカーには調理道具一式を積み込む。
肉は現地調達だが、野菜は村の野菜だ。朝早く収穫して届けてもらった。
それからスパイス。これは、棚の奥に隠しておこう。
黒馬車の方も随分変わっている。
幌が巻き上げ式になって、夜は下まで下ろせるらしい。マットを広げるとベッドになる。もはやキャンピングカーだ。
準備していると、ウカミーがおにぎりをたくさん作ってきてくれた。
「ありがとうございます。助かります」
「あぁ。気をつけて行ってこい」
「ハィッ!」
馬が動き出した。
ゴトゴトと川沿いの道を......
あれ?なんかいつもと違う。
ニヤニヤしているタケシ。
「どうや」
「すごーい」
「やろ」
ゴトゴトしないのだ。
「難儀したわ」
「オモジイとやってたやつ?」
「うん。ドワーフの力だけじゃどうしても歪があってな、割れるんや」
「あ、ガキーンってなってたなぁ」
「あぁなんちゅうか、力が逃がせへんていうか」
んー。ようわからん。
「んでオモジイに相談したんや。
やっぱ凄いわ、あのジジイ。発想が違うんよな、俺らとは」
「まぁ確かに凄いと思うけど、普段あれやしな」
「それでも3回目でやっとや。よかったわ間に合って」
「うん。めっちゃ楽ちんや。なぁマシロ」
「きゅん」
「タケシはアルナ行ったことあるん?」
「あぁ、いっぺんだけな。すぐ帰ってきたけど」
「どうやった?」
「人が多すぎてな、うっとおしい」
「人混み嫌いやもんな」
「それに何かな、匂いがちゃうんや」
「匂い?」
「空気が違うっちゅうか」
「あー。都会の空気か」
「そうや。
まぁ色々と便利にはなってるで、城下の方が」
「上下水とか完備してるし、そうや、魔導コンロあったな」
「マジで。それええな」
「あそこは魔道士おるから。
うちで使っても壊れたら直せんし、魔石もあんまりないやろ」
「考えんほうがええ?」
「そうやな。まだいらんやろ」
「そっか」
「俺はオモジイの道具の方が好きや」
「コンロはないけどな」
「作ってもらえば?」
「いや。何か危険な匂いするからやめとく」
「カツミ、今日はここで泊まりやで」
おっと。ウトウトしてもた。
タケシは御者台から降て荷台に回った。
「どれぐらい来たん?」
「そうやなー。3分の2かな。明日の昼にはアルナに着くんちゃうか」
幌をスルスルと下まで下ろし、固定する。
「腹減ったーカツミ」
「はいはい。待ってて」
薪を組んで火を起こす。もう慣れたもんだ。
石を置いて五徳を作り鍋を置く。水と野菜を入れて干し肉をいれてーー塩と、黒胡椒。
ちょっと離れたところに何台か馬車が止まっている。
ふーん。キャンプサイトやな。
何か水の音が聞こえてるから、近くに沢があるのかも。
「出来たでー」
キッチンカーからテーブルと椅子を出した。
「お。うまそう」
干し肉入り野菜スープと焼きおにぎり。
「うん。旨い。干し肉でスープとは考えたな」
「食べやすいやん。この方が。ええだし出そうやし」
「ああ、前来たときは干し肉そのまんまかじってたもんな。こっちじゃ普通やけど、なんや犬になった気分でまいったわ」
「ビーフジャーキーかい」
「アハハハハ」
おにぎりを齧っていたマシロが顔を上げた。
ご飯粒をつついていたカースケがサッとタケシの肩に乗る。
「いい匂いですなぁー」
声の方を見ると、いつの間にか一人の老人が立っていた。
旅装束やけど、どこか小綺麗で妙に姿勢がええ。
「すんませんの、ええ匂いに釣られてしもうた」
「何や」とタケシ。
「旅の途中での、いや怪しいもんやないき」
鍋を見ている。
「……食べる?」カツミが声をかけた。
「おい」タケシが止める。
「ええやん。余ってるし」
椀によそうと、
「ほな、遠慮のおいただきます」
と食べ始めた。
「あー。うまかったぁ。ごちそうさん」
箸を置くと、男は振り返った。
「えい馬車やのー。明日はアルナかの」
「はい」
「気ぃつけちょき」
え?
「ちとアルナの様子がの。
ワシも離れとったき、はっきりとはわからんがの」
「そう......ですか」タケシと顔を見合わす。
「何かあったら、南門に知らせちょけ」
と言うと、カースケをキッと見た。
「必ずやき、カラス」
「カッ」
「いやー、ごちそうになったの。ありがとう」
男はそのまま去っていった。
どこからかフクロウが飛んできて、男の肩に止まった。
「カツミは知っとるか」
「何を」
「俺等、年取るの遅いんや」
「え?」
「俺等はまだ来て間がないからわからんけど、シュートはホンマやったらもう50過ぎや」
「うそー。見えへん」
「そやろ」
「クニオに聞いてみたら、こっちに来た時の加護の影響らしいけどな」
「ほなタケシ、それ以上ハゲへんな」
「アホか」
少し間があく。
「そやからなぁ……まさかとは思うけど」
「みんな老けへんの?」
「いや、死なんわけやないし……逆もあるみたいやな」
「逆て」
「この世界が受け入れられんとな。帰りたいとか言うてゴネるヤツもおるし、人生投げるヤツもおるし」
「……」
「そういうんは、あっという間に老けるらしい」
「え……」
「シュートが言うとった」
焚き火が、ぱち、と鳴った。
「必死に生きるもんには加護が効くんやと」
「ふーん……」
カツミは、火を見つめたまま呟いた。
「……ほな、うちらは長生きしそうやな」




