行商人来たる
いつもの噴水広場。
タケシは黒馬車の連結を外していた。
噴水の向こうの空き区画に、荷馬車が1台入ってきた。
あれ?新しい人かな?
カツミはチラッと見たが、水汲みに行った。
戻ってきて開店準備をしていると、向こうから男の人がやって来た。
「おーい。タケシー。
やっぱりタケシだー。久しぶりだなー」
ん?
「お?シュートか。こっちに来てたんか」
だれ?
「スゲー。カレー屋じゃん。食いてー」
「タケシ、誰?」
「俺。速水秀人。シュートって呼んで」
「あ、近藤香津美です」
「えぇー。タケシお前、結婚したのか」
あ、お客さん集まりだした。
開店しなきゃ。
シュートはしばらくタケシとしゃべって戻って行った。
「また後で説明するから。店やっとき」
そう言うとタケシは自分の仕事に出て行った。
タケシがそういうのなら大丈夫よね。
カースケを見ると......しらんかおしてるしな。うん。
お客をさばきながら時々様子を見ていると、荷馬車を広げて何か売っているようだ。
普通の屋台じゃないし、何売ってるんだろう。
あれ?馬じゃない。角ある。
それに......苗字言ってたし。
タケシは仕事から戻ると、カレーを一杯持って、シュートのところへ行って、しばらくして皿を持って戻ってきた。
「アイツ、涙流して食ってたぞ。よっぽど懐かしかったらしい」
あぁそう言うと、タケシも初めて私のカレーを食べた時、涙浮かべてた。
「夜にうちに来るってさ。
ウカミーんちに泊まるんだと。
何か晩飯考えよか」
「うん」
やっぱり。仲間だ、あっちの。
日暮れからしばらくして、シュートが家にやってきた。
白い立派な角のはえた鹿に乗って。
「おじゃましまーっす」
部屋に入ってきたシュートはぐるっと見回して
「俺、タケシに先越されるとは思ってなかった。クソー」
と笑った。
「どうぞー、ご飯できてますよ」
カツミが出したのは、ボア肉じゃがとオークのスパイス焼きと山盛りサラダ。
「ウッフォー♪うまそー」
食事しながらおしゃべりだ。
タケシがシュートに出会ったのは、こっちに来てすぐの頃。
その時にはもう、シュートは行商をしていて、各地を渡り歩いていたのだそうだ。
仕事が見つからずに腐っていたタケシに、
「なんでもさぁ、やってみなきゃ、わかんねーよ」
と、ケツを叩いたらしい。
異世界に臆せず、行商と言う道を選んだシュートに、タケシは勇気を貰って、一歩が踏み出せたと笑った。
「そんなこと言ったっけー」
シュートの軽さって、クニオっぽいなー。
「でも、行商って大変でしょ?道中も危険だし」
「あぁーそれはね」
ちょっと外を見た。
「ナラがいるから平気だよ」
あの鹿か。いやそのネーミングセンス、ないやろ。
「ナラは、ミヅチにもらったんだ。あ、武甕槌神ね」
「俺がどーしても行商に出るって、クニオと大喧嘩してたらさ、ミヅチがナラをくれたんだ。
一緒にいけって」
「おかげで、魔獣とか盗賊とかは察知して逃げられる。でもなー」
「でも?」
「いやー。ナラってさ、普通の草食わないんだよ、ほら、今でもじーっとしてるだろ」
確かに来た場所からほとんど動いてないみたい。
「じゃぁ何を?」
「鹿せんべい。作るの面倒でさー」
ネタですか?それ。
「丸く固めてパリッと乾かさないと食べないんだよ。
ミヅチが甘やかしすぎなんだよきっと」
あー。色々めんどくさいね。神様。
「ところで、なぁ、タケシ、最近ここで何かあったろ」
「あぁ、まぁちょっとな」
「俺さ、ここに来る前、アルナに行ってたんだわ、久しぶりにな。
あそこ、良くない噂が立ってたから避けてたんだけど」
「あぁ。どうだった?」
「賑やかになってた。元に戻ったっていうか」
「良かった」
「お陰で良く売れたよ。
でな、ちょっと噂に聞いてさ、で、ここに来たんだよ」
「噂?」
「あぁ。黄色いキッチンカー。
何か、威勢のいいお姉ちゃんが悪党やっつけたとか」
「えぇー。私、何にもしてなーい」
「あと、変わった食い物があるとかな」
「......」
「まあアルナの噂は大したことない、問題はーー」
「問題?」
「商業ギルドでも噂になっててな、あそこはアルネシア直轄だ。
もしかすると、もう城の耳にも入ってる」
「どうなんの?」
「まぁわかんねーよ、でも、呼ばれるかもな」
「げっ」
「それにタケシの馬車だって、お前すごいの作ったよな」
「いやー。それ程の」
「いいや。俺には分かる。
あの黒馬車、城の皇族馬車より乗り心地いいはずだ」
「そうかな」
「あぁ、ぱっと見はわかんねーでもお前車屋だったんだろ、サスとか作ったんじゃないの?」
「う。まぁ」
「だろ。この世界にないんだ。キッチンカー見たときに思ったんだよなー」
「んー」
「まあいいんじゃない。
世界が広がるぜ」
シュートは広場で3日店を開き、その後仕入れをして、また旅に出た。
カツミに、売れ残りだと袋を渡した。
「わぁこれ、黒胡椒じゃないですか」
「そうだよ、ここにはないだろ」
「ええ、白しかなくて」
「またカレーがうまくなるな。楽しみにしてるよ」
「はい。また来てください」
「ああ、また来る。タケシも頑張れよ」
「おぉ」
アルネア王国から手紙が届いたのは、それから1週間後だった。
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=武甕槌神=
雷と武を司る神。天の命を受け、大国主神に国譲りを迫った交渉者でもある。
鹿はその使いとされ、神の意志を伝える存在とされる。




