記憶とこだわり
キャハハ♪ 噴水の周りで子供たちが遊んでいる。
噴水広場は、すっかり以前の賑わいが戻った。
黒馬車に連結したキッチンカーを外しながら、タケシは
「今日のは食いたいなぁ」とつぶやいた。
「はよ仕事片付けておいで。なくなるでー。アハハ」
「おう、急ぐ」
タケシは黒馬車で出ていった。
看板を出す。
*今日のカレー*
ワイバーンスペシャル 5エニ
今日は1種類。
この町には珍しい、ワイバーンが手に入ったのだ。
ワイバーンはちょっと癖があるが、スパイスとの相性がいいのだろう。煮込むと旨味がギュッと出た。
わらわらと人が集まり始める。
どうやら......テラが王様からせしめたようだ。
「楽しみにしてるわよ」と帰っていったテラに、怖さなど微塵もないのだが。
「今日は投げるなよー」
声がかかって、店の周りは笑い声に包まれた。
すぐに行列が出来た。
やっぱり珍しい肉。みんな食べたいよねー。
チラッと行列を見ると、後ろの方にテラが並んでいる。
本人は当たり前のように並んでいるのだが、周りが引き気味なのが可笑しい。じわっと間隔が広がっている。
「お姉ちゃん、今日は甘いのないの?」
いつもの男の子だ。
「ごめんね、今日のはちょっと辛いけど、大丈夫だと思うよ」
中辛にしてある。辛味もあるが甘味もしっかりさせたから、子供でも食べられるはずだ。
「じゃぁ、レギュラーで」お母さんがニッコリ笑った。
テラの番が来た。小鍋をポンと出して、
「レギュラー3つ。2つはルーだけここに入れて」
小鍋の蓋を開けると、お団子が入っていた。
「それ、ケツメからよ」
「わーい。ありがとうございます」
そっかー。今日は満月か。
テラの弟ツッキーは、普段はウサギと引きこもっているけれど、満月の夜になると、こっそりテラの宿に来てお団子を食べるのだ。カレーも好きみたい。テラの分を先に出すと、ベンチで食べ始めたので、お団子を出して、カレーを入れて、ベンチに置いた。
「ケツメとツッキーによろしくです」
「うん。分かった」
1時間半程で行列がなくなりホッとした頃、タケシが帰ってきた。
「ふー。間に合ったな」
「早かったじゃん」
「大盛りにして」
「はいはい」
タケシは今日のカレーが楽しみすぎて、昨日は遅くまで仕事をしていた。
さすが段取り魔。ちゃんと間に合うように帰ってきた。
タケシの仕事は馬車の製作だが、実際の受注は滅多にない。
タケシの馬車はこだわりが強い分、かなり値段も高くなる。
だから新造する人は滅多にいないし、たまに造っても簡単なものが多いのだ。
キッチンカーも、みんな興味はあるが、受注はない。
で、どうもみんなそれぞれ、自分で改造しようとして、失敗するようだ。
こないだも、車輪が外れて慌ててタケシに助けを求めてきた。
タケシはそれでいいと言う。
「簡単に真似できるなら、意味がない」
「俺等は文明の進んだところから来たんだ。その記憶が、俺等のスキルなんだよ」
「持っている知識を、この世界でどう活かすか。この世界の物で、どう作り出すか。だろ?」
そうなのだ。
私のカレーだってそうだ。
異世界らしいチートスキルも魔法もない。
それでも。
私達は恵まれているのだ。
タケシは、小さな修理仕事を黙々とこなしている。
私の店が始まって、声の掛かることが増えたそうだ。
「カレーぶっかけ姉ちゃんの旦那。って呼ばれた」
と、タケシは笑う。
……誰やねん。許さんぞ。
仕事が増えたのは、多分私のせいではない。
どんな小さな補修も、必ず下見して、家できっちり準備して、次に行った時には確実に修理する。
そして、必ず耐久性を上げる工夫をしている。
そんな仕事が評価されているのだ。
「ねぇ、タケシはこっちに来た時に、なんかスキル貰わんかった?私の違和感センサーみたいなの」
「あぁ。もろたで。俺のは、
気まぐれどこでもドア」
「なにそれー」
「んー。念じると瞬間移動できるんやけどな。
どこに出るかが気まぐれでなぁ」
「えぇー」
「初めて使った時に、森の奥に飛ばされてなぁ、まいったわほんま。
まあそれで、カースケが出てきてな、助けてくれたから良かったものの、死ぬかとおもたで。マジで」
「クニオやろ、くれたん」
「そや。アイツ、男にはええ加減や」
「あー」
「もう封印や。封印。絶対使わん」
まぁ、おかげでカースケに出会えて、良かったということにしよか。
「ちょっと帰りにオモジイとこに寄って」
「おぉ」
畑のハーブが増えてきた。
ミントを水に差していたら、根が出たので畑に植えた。調子に乗って植えすぎて、モリモリになっちゃった。
「ミント水を作って店に置こうかなーって」
「それいいな。ちょっと水欲しくなるし、ミントでサッパリするしな」
「でしょ。でも途中で水汲みに行けないやん。でさ、ええもん思い出した」
「オモジイーおるー?」
「おー。カツミかー」
奥からオモジイが出てきた。
マシロとカースケが奥のコガネのところに遊びに行った。
「タケシ、どうじゃ、頑張っとるか」
「はい。ボチボチ」
といいながらタケシも奥へ。結構この雑貨屋で、お宝探しにハマっているのだ。
「でな、オモジイ、前にフエルジョッキ作ったやん」
「おぉ」
「あれの大きいの作ってよ。カートに置けるくらいのやつ」
以前オモジイは、酒を入れると3倍に増えるトックリを作ったのだが、カツミに却下され3倍に薄めるように仕様変更させられた。そのついでに酒が減る「ヘールジョッキ」も「フエルジョッキ」にさせられたのだ。
「何いれるんじゃ?」
「お水。増やしても薄まらんで」
「水ならすぐできるじゃろう。作っといてやる。
あー、タケシそれー」
慌てるオモジイ。
「何ですか?これ」とタケシ。
あ。見覚えある青パッケージ。
「オモジイ。懲りないね」
カツミはオモジイより先にパッケージを取り上げた。
「これ、没収」
「お、おまえ、もう店員でもないのに」
「元店員として没収です。
じゃ、客として。フエルジョッキ頼むわな」
「それ何や」
「まぁーオモジイの趣味?」
「なんやそれ」
「ええねん。取り上げたらまた作る。ボケ防止や」
「わからん.......」




