キッチンカー始動
「マシロ、カースケ、行くよー」
パタパタとカースケがタケシの肩に乗り、ぴょんとマシロが私の膝に乗った。
「キュルキュルキュー」
「カー」
噴水広場に着いた。
タケシは、馬を外して預けに行き、戻ってきた。
今日はカレー屋を手伝うと言う。
接客に向くとは思えないけど、気になるんだろう。
ま、洗い物させちゃおうかなー。
カレーを確認。ねじを緩めて蓋を開け、底から混ぜる。
よし。行ける。
皿とスプーンの準備。
洗い桶に水を入れる。
パンが届いた。
タケシは外に、折りたたみテーブルとベンチを広げた。
派手なキッチンカー。
もうそれだけで、注目の的だ。
遠巻きに人が見ている。
前面の幕を上げ、置き看板を出す。
*本日のスパイスカレー*
辛口 ノースランドオーク
甘口 ストームチキン
ハーフ 3エニ(パン1個)
レギュラー 5エニ(パン2個)
ダブル 9エニ(パン4個)
よし。
タケシと目配せ。
「いらっしゃいませー」
ざわざわ、と人垣が一歩近づいた。
「なんやあれ……」
「またあの匂いやで」
「今日はなんか派手やな……」
子どもが一人、するりと前に出る。 鼻をひくひくさせて見あげる。
「お姉ちゃん、あの……からいのん?」
「うん。辛いのと、甘いのもあるよー」
子どもは後ろを振り返った。 母親らしき女性が、おそるおそるうなずく。
「……あ、甘いの……ハーフで」
「はーい、甘口ハーフいっちょー」
声を張ると、タケシがぴくっと反応した。 無言で皿を差し出してくる。
あ、ちゃんとやる気やん。
くすっとしながら、カレーをよそう。
とろりと流れるルーに、周りの視線が吸い寄せられる。
「うわ……」
「ええ匂い……」
パンを添えて、手渡す。
「熱いから気ぃつけてねー」
ベンチに座ると、子供は待ちきれずにパンを取って、カレーに浸した。
周りの空気が、一瞬止まった。
「……あまい」
次の瞬間、顔がぱっと明るくなる。
「おいしい!」
その一言で、空気が弾けた。
「ほんまか?」
「ちょっと俺も――」
「並ぶか?」
ざわり、と列ができ始める。
タケシが、ちらっとこっちを見る。
ーー来たな。
私はにやっと笑って、声を張った。
「はーい、並んでくださーい!順番にいきますよー!」
結局、2時間程でカレーは全部売り切れた。
閉店作業をしていると、パン屋の女将さんがやって来た。
「あらー。もう売り切れちゃったの。残念」
「すみません。あ。パン、ありがとうございます。助かります」
「いいのよ、うちも稼がせてもらって、助かるわ。で、足りてる?」
「今日はギリギリでした。次から、もう少し増やしてください」
「分かった。じゃぁ頑張ってね、また来るわ」
帰り道ーー
「あーおなかすいたー。
全部売れちゃったしー。露店でなんか買っていこうか」
「ああ、そうするか」
串焼きを齧りながら
「クニオ来てたぞ」
「え、そうなん?気が付かなかった」
「離れたとこからな。行列見て帰ってった」
「そっかー。もう少し増やそっか。神様も食べたいだろうし」
「ああ。俺も食いたいし」
「あー。はいはい」
次からは一人で店をやった。
タケシは手伝うと言ったが、タケシにだって仕事がある。いつまでも甘えるわけには行かない。
タケシは、カースケを置いていった。何かあったら、カースケがタケシのところへ飛ぶ。
マシロは護衛係。ちょっと頼りないけど。
それからしばらく、店は順調だった。以前の屋台の時のお客様も戻ってきた。
神様は様子を見ながら、空いたときにサラッと現れて、じゃまにならないようにサッと帰っていく。
カレーは増やしたが、閉店時間にはたいがい売り切れていたので、タケシががっかりする日も多かった。
パンが足りなくなると、カースケ便が飛ぶようになった。
マシロも、おかしな雰囲気の客には、店の前に出て必死で睨みを利かす。
見ているこっちはおかしくて仕方ないが、案外効いているようで、変なトラブルもなかった。
そして1月が経った頃ーー
見慣れない男の客だ。
身なりはいいが......
あちこちの露天の前でウロウロしていたが、うちの店にもやって来た。
キョロキョロと見回す目付きが嫌な感じだ。
「オークカレーを、貰おうかね」
「はーい。5エニです」
カチャリと銅貨を置き、カレーを受け取ると、ベンチに座って食べ始めた。
あれ?違和感センサーが。黄色。




