黄色いキッチンカー
「おーいカツミー」
「はーい」
納屋に行くと、ドヤ顔のタケシと――
「すごーい♪」
そこにあったのは、移動式屋台。つまりキッチンカーだ。
普通の屋台は、組み立て式の簡素なものだ。パパっと組み立てて、終われば片付けて帰る。
けど、家から町まで1時間。そんなことをしている余裕はない。
そこでタケシは、小さな馬車を改造していた。
中には調理台。カレーの鍋が置けるよう低めに作られている。
皿やスプーンを置く棚もついている。
中に入って立ってみる。
ウンウン。ええ感じ。幌もいい。
――でも。
なんだか、この色。
黄色だ。カレー屋だから黄色がいいとは言った。
言ったけど――
なんで黒いストライプ?
まるで関西某球団。
ニヤニヤしているタケシ。
そっかー。コッテコテやった。忘れとった。
てかこの世界、野球ないんやけどな。
……まぁええか。
インパクトあるし。
せっかく作ってくれたんやしな。
「ありがと、タケシ」
それからまた、少しずつ準備だ。
陶製の皿とスプーン、蓋付き寸胴。
全部オモジイ雑貨店から。
それから桶。
使い終わった皿を入れるためのものだ。
水とせっけん豆を入れて、皿は布でぬぐってから浸け置きする。
で、問題はこれだ。
オモジイに貰った、こぶしほどの丸い玉。
「これ、試してくれや」
――泡発生装置。バブじゃ。
店のバケツに放り込んだときは、あっという間に店中が泡だらけになった。
そして今、手元にあるのは改良版。
オモジイは「絶対大丈夫」と言うが――
正直、信用しきれない。
桶に汚れた皿を入れて、せっけん豆を一粒。水を注ぐ。
そこにバブを入れると――
ブクブクブクブク……
細かな泡が立ち上る。
皿の汚れが、ふわっと浮いた。
おぉ。これはええな。
洗うの、だいぶ楽になるやん。
……オモジイ、たまにはやるやん。
今日はタケシと、噴水広場の下見。
この世界で噴水ってどうなってるのか不思議だったけど、
オモジイいわく――
城の魔道士が来て、魔石を設置したらしい。
やっぱり異世界やな。
魔石も魔法もある。
けど、一般人で使える人はほとんどいない。
この町では、誰も気にしていないらしい。
……まぁそれ以前に、神がチョロチョロしてるしな。
そら、気にせんか。
タケシは馬を停める場所を確認すると、そのまま仕事の打ち合わせに向かった。
古い馬車の修理。
状態を見て、材料を揃えて、次に来たときに直す。
段取りがいい。
私は商業ギルドへ。
営業予定を提出する。
週3日。
一日おき、昼間3時間。
これが、2人で決めたスケジュールだ。
2人で町に来て、
私がカレー屋をやっている間、タケシは自分の仕事。
町に来ない日は――
タケシは馬車に没頭。私は畑と仕込み。
そして週に1日、完全休み。
無理せず、でもちゃんと続ける。
――そう決めた。
明日はいよいよカレー屋スタート。
でもその前にーー。
ウカミーの家に、村の人が集まっている。
村長のクマ獣人さんにお願いして、みんなに来てもらった。
野菜をおろしてくれている村の人達に、食べてもらいたい。
そう話すと村長は、とても嬉しそうだった。
村の人たちは、あまり町にも出ないで農作業をしているから、カレーのことは噂だけで、誰も食べたことはない。
だから本当は、気になって仕方なかったのだと。
村長がゆっくりとスプーンを口に運ぶ。
もぐ、もぐ、と噛んで――
大きくうなずいた。
「あぁ……うまいなぁ」
ぽつりとつぶやいた。
「ほんまか?」 「どれどれ……」
恐る恐る、村人たちが手を伸ばす。
――次の瞬間。
「なんやこれ!」
「辛い……でも、止まらん!」
「肉、やわらか……!」
一気にざわめきが広がった。
笑い声と、驚きの声と、皿をかき込む音。
いつも畑で黙々と働いている人たちが、子どもみたいな顔で食べている。
その様子を見て、胸の奥がじんわり熱くなる。
「……よかった」
思わず、小さくつぶやいた。
すると、おばさんが、にかっと笑って言った。
「カツミちゃん、何やってるんかと思ってたけどな、おいしいわ、ほんま。
うちらにも、たまには食べさせてや」
周りの人たちも、うんうんと頷く。
村長が腕を組んで、ゆっくり口を開いた。
「これはーーええな」
「うちの村の野菜が、人を笑顔にするんや、なあみんな」
「カツミちゃんがわしらの代表や。頼むで」
「はい」
しっかりと、うなずいた。
外では、風に揺れる畑の葉が、さらさらと音を立てていた。
静かな夜ーー
「カツミ、良かったな」
「うん。ここの野菜のおかげやもん、頑張らんとな」
マシロがクウクウ寝息を立てている。
ーー明日は初出店だ。




