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苦い裏切り


その日、タケシはいつも通り、弟子を連れ、家を出た。

修理仕事をして、噴水広場に寄り、カレー屋台に声を掛けた。

「カレー、まだあるか?」

「あ。タケシさん、お疲れ様です。まだいけますよ」と、オットー。

「ほな、もらおかなー」

「今日はどうや?」

「もうちょっとで終わりそうですね」

弟子と二人でカレーを食べて、皿を戻した。

「今日はちょっと帰るの遅くなるわ。カツミに言うといてか」

「はい。わかりました」

「ほな、頑張ってな」

そう言うと、タケシは馬車に戻った。

そのまま馬車工房へ向かう。

黒馬車を前に停め、バルザに弟子を預けて、タケシは軍馬車で家に向かう。

家の近くの茂みの中に馬車を隠して腰を下ろした。

まさか迷彩がここで役に立つなんてなぁ。

パサッ。カースケが肩に止まった。

お。帰ってきたか。

しばらくすると、カレー屋の黄色い屋台が戻ってきた。

そのまま家の前につけて、片付けを始めた。母屋と出入りして、馬車を移動させて。

あ。出てきた。周り見てる。

タケシはそっと立ち上がった。

入った。

よし。掛かった。

足を踏み出した。



「何してるんや」

タケシの低い声に、肩をビクッとさせて振り向いたのはーーオットー。

カチャ。手にした金物を落とした。

「あ、あの。ぼ、ぼく.....」

「何してるって聞いとるんや」

「何も......」

「聞き直そか。何でここにおる」

「いえ、別に」

ワナワナと震えだすオットー。

「お前、誰に頼まれたんや!」

わっと泣き出した。

「ごめんなさい......あぁーーー」

あかんわ。コイツ。

とにかく話させなあかん。

泣き止むのを待って、タケシは母屋に連れて行った。


首根っこをひっ捕まえて、ドンと座敷に放り出すと、部屋の隅に固まるオットーは、ブルブル震えていた。

「どないしたん」

慌てて出てきたカツミ。後ろにはエレナもいる。

「あんた、何したん」と駆け寄るエレナ。

「エレナ、悪いな。ちょっとどいて」

「タケシ、何があったんよ」

「カツミ、ちょっとエレナあっちにやっといてくれ。あとで呼ぶから」

カツミがエレナを抱えて出ていくと、タケシはオットーの前であぐらをかいた。

「オットー。お前、始めからこのために来とったんか」

「いいえ、違います」

「ほないつからや」

「なぁオットー、俺はお前よう頑張っとるおもて見てたよ。お前らが結婚した時は、家族増えたみたいで嬉しかった。まさかこんなふうに裏切られるなんて思いもせんかったぞ」

「黙ってて済むことやないくらい分かるやろ」

「......田舎の......家族が.......」

妹が人質に取られていると言う。親も監視されて怯えている。時折親から届く手紙に、指示が挟まれていると。

「最初は、僕が従業員宿舎の食事作ってる頃でした。食材の納品業者に紛れて、何人いるかとかそんなところでしたから」

なんの気なく話を合わせていただけだった。

タケシ達が準国営の証を貰った頃から、手紙が届くようになったようで、その後直接接触されるようになった。

「これを持たされていて」

差し出した黄色い欠けた石。町に用事で出ると、なぜか接触がある。どうやらこれは魔石で、居場所が把握されている。エレナは何も知らない。

「つまり......」

タケシは言葉を切った。少し......見えてきた。

「町に、誰かがおるんやな」

一瞬ビクッとして頷くオットー。

「お前.......エレナの事でも脅されてるな」

オットーは手で顔を覆って震え出した。

あの石も、逃げられん仕掛けがあったのかも。

そうか......嘘では無さそうやけど、裏付けとらんとあかんな。

待てよ、オットーの実家ってアルナのまだむこうやったな。

町におるやつは魔石でおびき出せるけど、魔法使える可能性もある。

一人とは限らん。複数かもやし、工房の方も......

動けんなぁ......

それからも、ポツリポツリと、何を聞かれ、何を渡したか、オットーは話し出した。

どうやら狙いは馬車のサス。カツミのレシピなどは狙ったフシはない。だが、カツミが狙われたのも、どうも関係ありそうだ。

馬車については何の知識もないオットーにスパイさせても、重要情報は得られなかったはずだ。

「タケシ、ええか?」

「ああ、入れ」

エレナが飛び込んでオットーに抱きついて、また二人で泣き出した。

「なぁタケシ、どうなんの」

「んー」

これは俺の手におえるもんやない。

「何とかしてやってよ」

「オットー悪ないやん」

「カツミ、そう簡単やない。問題大きすぎる」

「神様でもないのに一人で全部できるわけないで」

「わかっとるわ」

ちょっと待て、そうや......

タケシは紙をとって何やら書き付けると、カースケを呼び、足に紙を結わえた。

アイツなら。

絶対すぐに動く。

「カースケ、ホーホーのとこや。分かるやろ」

「カー」

「よし、行け」

バサバサッ。カースケが飛び立った。

頼むぞ。



深夜ーー

カースケが戻った。

疲れてコテンとタケシの前で転がったカースケの足に、紙が結わえてあった。

開いて......

リゥトスだ。繋がった。

タケシは、やっと表情を緩めて、カツミ達に声を掛けた。

「ちょっと寝とけ」

「うん」カツミは毛布を持ってきて、みんなに配った。

タケシは肩に毛布を掛け、膝のカースケを撫でる。

プルプル震えているカースケ。

「ようやった。えらいぞ」

「カ」


部屋の片隅で、カツミ達3人は横になっている。だが、眠れてはいないだろう。

タケシも、反対側の隅で壁にもたれてぼんやりとしていた。

外が、少し赤みがさしてきた。

あ。蹄の音が......

バサッ。毛布を落として立ち上がる。

外に出ると、家の前に入ってきた馬は、白い息を立てていた。

ーー来てくれた。

馬を下りたリゥトスが、たけしの肩を抱いた。

「よくやった。まずは話を聞こう」

座敷に戻ると、3人も起きていた。

タケシの話を黙って聞いていた リゥトスは、ちらちらオットーを見ていた。そして オットーからも、もう一度詳しく話を聞く。

「状況は分かった。

昼までにはカイエンタイの特殊部隊が着く。

それから細かい作戦を立てる。

オットー。君にはオトリになってもらう。出来るな」

キッと厳しい目をむけられて、カクカクと頷くオットー。

「絶対に逃げるなよ」

「カツミさん、夜通し走って腹が減った。何か作ってくれないか」

「はい」カツミはオットーとエレナを連れて台所に行くと、

リゥトスはタケシに向き直る。

「タケシは、町に出てくれ」

まず、カツミの体調不良でカレー屋は休むと屋台仲間に伝えて。

「誰でも構わない。神に繋いでくれ」

「え?何で......」

「タケシよ、ここは神の住む町だ。もちろん我々も全力を尽くす。だが町中での捕物になる。いつまた魔法が使われるかも分からん。うちにも魔道士がいるしな。

何、不服か?」

「いや.......」

「タケシ、神と我々は、役割が違う。だから父はカイエンタイを作った。汚れ役は我々が担う。それぞれにやるべきことは違うんだ。

そしてタケシ、お前にはお前の役割がある」

「役割......」

「後は自分で考えろ。

それから工房の方は普通に動かせよ。まだ誰かいるかも知れんしな」










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