歓喜に忍ぶ影
ミナセの町に戻ったタケシとカツミは、それぞれの工房に準国営のプレートを掲げた。
光るプレートに、感激して涙する者もいた。
さらに、タケシは馬車の車体には焼印を、部品に刻印を押すよう徹底した。
タケシが車体にジュッと焼き印を押すと、職人達は歓声を上げた。
カツミは、キッチンカーにプレートをつけながら考えていた。
んー。私らのマークもほしいなぁー。
ちゃんとした看板にマークいれてー。
ついでに制服も揃えてー。
速攻タケシと相談して動き出した。
2人の決めたマークは、ミルナの木とその後ろに車輪。
ミルナの木は、月桂樹に似た香りとオリーブの様な実を持つ、ミナセにしか自生しない木だ。
カツミは当初からスパイスに使っていたこの木を使いたかった。ミナセで根を張り、葉を広げ、実をつける。そして支える車輪。
「これなら二人同じものが使えるじゃん」
そして制服は、カツミの方はキッチンカーと同じ黄色に細い黒の縦縞で、サラッと軽いシャツとパンツ。上から真っ白のエプロンをつける。
タケシの方は、黒地に細い黄色の縦縞で、少し厚めの生地のシャツとパンツ。
つなぎにしたら?と聞くと、トイレがめんどくさいとタケシは却下した。
どちらも胸にミルナの木と車輪のマークが入り、その下に店名「コンドウ馬車工房」「クレスカレー工房」が刺繍された。
全員が揃って制服に身を包むと、タケシもカツミもなんだか胸が熱くなった。
「めっちゃ気合入るな」
「あぁ。ほら見てみ」
従業員達が誇らしげに胸を張る。モチベーションが上がっているのがひと目で分かる。
「正解や」
「おぉ。これでぐっとまとまる。カツミええ仕事した」
「ヘヘ」
「ほな、ぼちぼち頑張ろ」
「うん。ぼちぼちな」
そしてその変化は、まずカツミのキッチンカーに現れた。
久しぶりに噴水広場に出店したキッチンカーは、お馴染みの黄色に黒ストライプだが、店員まで同じ色の制服で、おまけに看板には大きなミルナと車輪のマーク。その横には王の紋章の入った小さなプレートが付いている。
並べてあるノマドのパッケージも、ハーブティーのパッケージもみんな同じ様にマークと紋章。
店の準備中から人だかりだ。
「おい、あれって準国営のしるしやな」
「てことは、俺らそんなご立派なもん食ってたんか」
「なんかわからんけど、えらいこっちゃ」
「おい見てみい、黒馬車。あれにもおんなじ印ついとる」
「ホンマや。わしらの町に、こんなすごいもんがあったんや」
あっという間に噂が広がっていく。
町中に歓喜の声。
だが、それを黙って見ている男がいた。
そしてカツミが声を張る。
「クレスカレー工房開店です。
いらっしゃいませ」
「あー。大変やった」
「俺、行くとこ行くとこ事情聞かれて仕事にならんかったわ」
「でもなんか、みんな喜んでた。この町の宝やて」
「あぁ。大きな産業もない町やしな。無理もない」
「なんか町ごと盛り上げたいな」
「そやな。俺、工房に来たいって奴がおってなぁ。国営の方はあかんけど、俺の方で仕込もうかと思ってる」
「あっちはガルドが見てるしな」
「そうや。うちの納屋でコツコツ修理仕事教えて、自立させてやれたらええな」
「カレー工房の増員は、ここの人でもいいって話やから、ちょっとは雇用にも貢献できるしな」
「あぁ。国の管理したい機密だけきっちり守ってやれば、この町、まだまだ伸びる」
「そやな」
「ところでタケシ、うちのアルバイトと調理人の子らやねんけど」
「どないしたん」
「どーもアヤシイ」
「はぁ?」
「しょっちゅう一緒におる」
「アルバイトって村の子やったな」
「うん。調理人はアルネシアから来てるクルトーのかわりの子」
「そうか、結構長いもんな」
「うん。そういうことも、そらあるわな」
「ちょっとクニオに頼んでみよかな」
「スセリにしとけ」
「そやな」
コンドウ家の広間。
今日は、調理士オットーとアルバイトのエレナの結婚の儀。
カツミはオットーとエレナに、自分達の結婚の時に来た、タキシードとドレスを着せた。
輝くような笑顔の二人の前に立つのは、白装束のクニオ。脇に巫女姿のスセリだ。
「これより、二人の縁を結ぶ」
スセリが二人の前に出て、盃に神水を注ぐ。
「神前にて、共に歩むものとする」
一気に飲み干す二人。
部屋は拍手と歓声に包まれた。




