王都と貴族
バルザの板バネサスが出来上がりそうだ。と、タケシは目を細めた。
職人と鍛冶師が増えたことで、一気に進んだようだ。今、試験走行を繰り返しているらしい。
荷重を徐々に増やし、森の中を走って試す。
何度も森のなかで壊れて、そのたびに泥まみれになった車軸を引きずって帰ってきたバルザたち。
黙って見ていたタケシも辛そうだった。
「軍車両に使えるレベルになったぞ」
とタケシはバルザの肩をバシッと叩いた。
「はい。師匠のご指導のおかげです」
と、バルザは今にも泣きそうに、顔をくちゃくちゃにした。
「カイルに報告するぞ。増産の準備をしよう」
「はいっ」
職人たちは胸を張った。
タケシがカイルに報告の手紙を出して1週間後。城からの手紙が届いた。
「カツミー。来たぞ」
「何が」
「召喚状」
「げっ、めんど」
「ほんでいつ」
「1か月後。お前もノマド持ってこいってさ」
「あーもー。行かんでも送ったらええんちゃうん」
「そんなわけにもいかん」
「チェッ。王様には勝てんか」
「そーゆーこと」
そして出発の日。工房の前に並ぶ3台の軍用馬車に、ノマドの木箱を積み幌をかけた。
馬車は迷彩柄である。
色指定したタケシに、みんな首を傾げていたのだが、馬車が森に入ると、それは木々の影に溶けるように消えた。
「……おぉ」職人の誰かが、思わず声を漏らしたのだった。
タケシの黒馬車の後ろに、バルザと職人が乗る軍用馬車が続く。それぞれの馬車には1台づつ軍用馬車が連結してある。
「馬が逃げても馬車は持って帰ってこいっちゅうこっちゃ」
と言いながら、タケシは連結器をつけていた。
「手間かかっとるんや、捨てられたらたまらん」だそうだ。
ゆっくりと動き出した。
工房のみんなが手を振る。
「なぁタケシ。めっちゃいかついねんけど」
「まぁそれはしゃあない。盗賊よけやと思とけ」
「いやー。ほんまに来たらうちらじゃ負ける」
「ふふーん。持ってきた」
とタケシが取り出したのは、紐の先に小さな袋。
「これな、小石とこしょう入れといた。グルグルーっと回して投げつけるんや。どない?」
「お。ええかも。私でも使える」
「目ぇ狙えよ。こしょう効くで」
「うわ、地味にエグい」
「カレーやったらもっと良かったけどな」
「まだそれ言うか」
「ハハハ。おいしいネタや」
そして馬車は街道へ消えていった。
案外早くアルナに着いた。
サスがいい分、スピードを上げても楽なのだ。
門の前で馬車を止め、通行証を出す。
あ。コレコレ。
カツミが出したのはカイルにもらった金のカードだ。
手に取った守衛はしげしげと眺めて、「はっ。お通り下さい」と敬礼した。
「前とえらい違いや」
「そら金ピカやし」
ゆっくりと大通りを進む。やはり注目の的だ。
「やっぱり見られとるな」
「そら真っ黒と迷彩やし」
さすがに今回は誰も襲っては来なかった。
「残念や。使えんかった、これ」
「こら、破れたら困る。置いといてくれ」
アルネシアの門も金のカードでスルーパス。入ると騎馬が待っていた。
「お待ちしておりました。ご案内します」
濃紺の外套が翻る。裏地は黄色。前に助けてくれたカイエンタイだ。リゥトスの部下だろう。
通りの建物を眺めていたカツミが「あっ」と言って指差した。
指の先にあるのは
「クレスカレー店」の看板。
「タケシ、後で行きたい」
「そやな。行こ」
馬車は城門から離れ、城壁沿の大きな建物の前で止まった。
「ここはカイエンタイの駐屯所です。軍馬車をここに置いて、タケシ様とカツミ様は、城へ上がってください」
濃紺の男達が集まってきた。
「ガルド、後は頼むぞ」
「はい!」
城門を抜けて、相変わらず金ピカ馬車の並んだ所に黒馬車を停めると、リゥトスが来た。
「お待ちしておりました。さ、こちらへ」
はらりと翻る外套の裏地は赤だ。
やっぱり制服かっこええなぁ、うちらもなんか作りたいなぁ。
などとカツミが思っているうちに、近衛兵の列を抜け、大扉の前へ。
「タケシ様、カツミ様。お越しでございます」
また貴族の並ぶ前を通って王の前でひざまずく。
「タケシ、カツミ、よく来た」
カイルの明るい声。
「馬車、出来たんだね。嬉しいよ。後でゆっくり見せてもらう。カツミちゃんもご苦労さま。キミのおかげでみんなカレーが食べられるって喜んでるよ。なぁ」
貴族たちが頷く。
「ハッハ。ワシなんて昨日も行きましたぞ」
「私も先日」「癖になる味ですな」
良かった。クルトーちゃんとやってるんだ。
「それでね、タケシ、カツミ」
姿勢を正すカイル。
横から執事が何やら渡した。
カイルは立ち上がった。
渡された紙を広げる音が、静まり返った部屋に響く。
「コンドウ馬車工房とクレスカレー工房を、王の名を持って認可し、準国営とする」
パッと紙を翻し、皆に見えるように広げた。
呆然としていたタケシに、カイルは
「はい。よろしく。じゃ、また後で」
と言って紙を渡すと、スタスタ部屋を出ていった。
渡された紙を、じっと見つめるタケシ。
「何やねん」カツミは声に出さずにつぶやいた。
謁見後は、カイエンタイの駐屯所で馬車ととノマドを見せる。
王を先頭に、貴族は半分位付いてきた。
「みんな来るわけじゃないんや」
「興味あるやつだけやろ。まぁ純粋な興味だけやないやろな。
あんまり関わらん方がええぞ」
「そやなぁ。なんかいやーな目線も感じるなぁ」
「気いつけとけ。動くかもしれん」
「わかった」
軍用馬車を見た貴族たちは、まず色に驚く。
そしてタケシの説明を、頷きながら聞いている。
後ろで見ていたカツミは、背後に視線を感じた。
はっと振り返ったカツミの前には、でっぷり太った貴族が、いやらしい笑みを浮かべていた。
うわー。キモー。
「カツミさん、といったね、いやー、君のカレー素晴らしいよ。私はね、アルネア王国の各地に店を持っていてね......」
宝石をジャラジャラさせながらしゃべる貴族から、目をそらせ、タケシの方を見る。
気付いたタケシが最前列で見ていたカイルとリゥトスに何か言った。
くっそー。カレーあったらぶっかけたるのに。
「私の商会で扱えば、君のカレー、アルネア中に広めてやれるぞ。どうだい、私とくま.......あー」
後ろからリゥトスに首すじを掴まれ、よろける貴族。
「な、何をする。私に何が.....」
「先ほどの国王陛下のお言葉をお聞きにならなかったのですか?」
リゥトスの声は低く威圧的だ。
「クレスは準国営になりました。国王のご判断に異議でも?」
「いや、私は......」
その前に立つ影。凍りつく空気。
ーー謹慎せよ。
カイルの声が響いた。
カイエンタイの隊員に貴族は連れて行かれ、何事もなかったかのように、また馬車の説明が始まった。
続いてカツミがノマドの説明。
保管箱を開け、説明始める。
横に魔導コンロが用意されている。試食させろということだ。
説明しながら、ノマド鍋に開け、カイエンタイの隊員が魔導コンロの火をつける。
説明が終わる頃にはノマドが出来ている。
やはり貴族たちはその手軽さに驚き、味に感嘆する。
だが、カイルとリゥトスの興味は保管箱とパッケージだ。カツミに詳しく聞いていると、後ろの貴族の声が聞こえてくる。
「これを兵隊に食べさせるなど、もったいないですなぁ」
「そうですなぁ、まったく」
おいおい、おっさんらのために作っとるんやないわ。
カイルとリゥトスが苦笑する。
「カツミさん。諦めて、どうにもなんないんだよ。......全部は変えられない」
ふぅーとカイルがため息をついた。
カツミはバタンと音を立てて、保管箱の蓋を閉めた。




