賞味期限はボチボチで
その日、タケシとカツミは、オモジイの店に来ていた。
カレー屋はカレーさえ作っておけば、アルバイトのエルナと調理人のオットーに任せても大丈夫だ。
2人でやってねと言うと、ポッと顔を赤らめたのをカツミは見逃さない。
「タケシ、あの子ら、なーんかな」
「ああ。まぁ黙って見とくんやな。野暮はあかんで」
「そやな。ええなぁ若いもんは」
「おっさんとおばはんは?」
「ヘヘ。好きやで、おっさん」
タケシがポッと赤くなった。
「オモジイ、おる?」
「おぉ、何や」
「ちょっとこれ見て」
カツミが取り出したのはノマドだ。紐を緩めて中身を出す。
「これ、台所に置きっぱなしやってんけど」
干し野菜をつまむ。
「ちょっとな、湿気てるんよ」
別に保管しているノマドは大丈夫だった。
湯気が立つ台所。湿気が来てもおかしくない。
ミナセは元々雨が少なくて乾燥気味。だから干し野菜も上手くできたのだが、軍が絡むとなると、瓶に入れて保存するのもちょっと違うと思うのだ。
「そうじゃなー。ちょっと待っとれ」
オモジイは奥から何やら持ってきた。
手のひら程の四角い袋。なんか中身がフニャフニャしている。
「これな、シケルクン」
「は?」
「湿気取る。箱に、これと一緒に入れてみ」
「わかった。ありがとうオモジイ」
「やっぱオモジイ、なんか持ってるよな」
「いやカツミ、安心するのはまだ早い、なんせオモジイやから」
翌日。箱の蓋を開けたカツミはつぶやいた。
「なんやこれ......」
「オモジイー全然アカンやんか、余計に湿気たやん」
「あれ?んー。」
「あれやないわ。何とかして!」
シケルクンをつまみ上げたオモジイ。
「サラサラやな。ノマドに湿気が集まったかな?」
「かな?やないちゅうに」
「なぁカツミ、別にちょっと位シケっても食えるんちゃうん」
「アカン。味変わるし、ひどなったらカビる」
「んー。ほなちょっと別の方法考える」
「頼むで、ホンマ」
「オモジイ、乾燥剤もやけど、箱もなぁ」とタケシ。
「そやなぁ。たぶんそっちやな。割れんもんでなぁ。うん」
次にオモジイから渡されたのは木箱。中には粉が敷かれてる。
「何これ」
「灰じゃ。乾燥剤にならんかとおもて」
上にポンとノマドを置き蓋をした。
「箱は密閉度上げとるんじゃがな」
ニヤッとするオモジイ。さては神力使ったな。
「でな、これでやなー」
オモジイが蓋に手を掛けーー
ポンっ!灰を被って真っ白オモジイ。ノマドまで散らばっている。
「あぁー」
「オモジイが被ってもそれ以上ジジイにはならんやろ」
「オモジイ、神力使ったやろ。俺らでも作れるやつにしてくれ」とタケシ。
「箱自体は悪ない」
「あぁ樽と同じや。水漏らさんで」
「蓋やなー。ゴムないしな、ここ」
タケシとオモジイが相談している横で、シケルクンの袋を振っていたカツミ。
「なあオモジイ、この袋は?」「それは普通の紙よ。ノリでくっつけただけ」
「その紙あったらちょうだい」
「奥にあるから持っていったらええで」
奥に入ると金色ヘビのコガネが紙の束の上にとぐろを巻いていた。
「これか、コガネありがと。今度甘口持ってきたるな」
コガネはペロっと赤い舌をだした。
1週間後、また3人で集まった。
「これでどうじゃ」
オモジイが箱を差し出した。
「蝋びきじゃ。で、これでな」
金具が付いている。
「パチっととめる。ほなかなりの密閉になる」
「ウンウン」
「後こっち」
袋に入っているのは
「焼き塩じゃ。乾燥剤。炒り直しもできるし、万が一破れても、元は塩じゃしな」
「ほぉー」
「カツミ、ノマド持ってきたやろ」
「うん。これな」
カツミは紙袋に入ったノマドを出した。
紙袋には、「クレスの旅スープ〈ノマド〉辛口カレー味」
と書いてある。
「へー。ええやんこれ」と覗くタケシ。
布袋は縫う手間がいるが、紙なら糊付け。量産がぐっと楽になるし、使った後も火にくべればゴミが出ない。
商品名はステンシルで書いた。そっちはまた印刷方法を考えるとして、とりあえずはカードを付ける必要は無くなるのだ。
木箱にノマドを入れ、上に焼き塩を乗っけて蓋をする。パチンと金具を止める。
一拍置いて、開けてみる。パチンと開けて蓋を取る。
「うん。良かろう。持って帰ってしばらく使ってみ」
「ありがとうオモジイ。試してみる」
と、カツミが差し出したのはーー
いつものカレー回数券。大盛りと大きく書いてある。
「またかいな」
半月後ーー
「オモジイ」
「お?カツミ、何じゃ」
「なんかさー、開けたり閉めたりしてるうちに、やっぱり湿気てる気がする」
カツミはオモジイの試作品を台所の湿気やすい場所に置いて、時々開けしめしていた。
「そうか。多分箱の方はこれ以上は無理じゃろうな、タケシはどないしとるんじゃ」
「木箱を職人に作らせてる。金具もドワーフおるしな。輸送用はもうちょい大きくせなあかんし」
「ふむ。焼き塩じゃ開けしめしたらその分湿気吸うからなぁ、紙袋も湿気やすいし.....」
「どうしよ」
「ん?ちょっと待てカツミ、ええもんある」
「?」
「これこれ。これで袋作ってみ」
「蝋紙じゃ。湿気通しにくいから。んで、焼き塩は中に小袋にして入れる。使い捨てにはなるが......気になるなら回収すればよかろう」
「お。なんかいけそうな気がする」
「カツミは変なとこ気にするからのう。もったいないだのゴミになるだのと」
「でもオモジイ、大事なことやんか」
「確かにな。長い目で見ればな」
その後カツミは袋に表示を足し
た。
「開封後はその日のうちに食べること」
んー。でも、雨が降り続いたらちょっと不安やけど。
「カツミ、あんまり気にしすぎたら、この世界じゃやってられんぞ」
「そうかなぁ」
「あぁ。賞味期限持ち込むのは悪ないけど、その程度にしとけ。無理は受け入れられんし、大体ここのモン、しけろうが多分平気やで。ここまでやれたら十分や」
「うん。ついな、もっとって思うんやけど、そやな。タケシかて、できんで諦めたもんようけあるんやもんな。ぼちぼちやな。うん。」
保管箱とパッケージができ、カツミが軍用商品の試作を始めた頃、タケシの方にも朗報が。
バルザの板バネサスの実用化のめどがついたのだ。




