国を守るスープ
タケシの家。
客間のテーブルの、上座に座ったアルネア国王カイル。
隣にはカイエンタイのリゥトス。
2人は顔を見合わせてから、前に座るタケシとカツミに、静かに話し出した。
「実は、我がアルネア国王の周囲に、不穏な動きがあってね」
カイルが言うにはーー
隣国に反乱があり、王が失脚し、トップが変わってから兵力を増強し始めた。
すぐに動き出すとは思えないし、こちらから仕掛けるつもりもないが、対抗出来る準備をしているーー
「タケシ、ここの戦争ってどんなか分かる?」
「え。そうですねー。剣でブシュっと切って矢がビューンで、後はそう、魔法でドッカーン」
「ハハハ。うん、まあそんな感じ。ブシュっとビューンとドッカーン」
横でリゥトスはプッと吹いた。
「でもね、案外魔法って役に立たなくてさ。だってドッカーンで決められたら、みんな最初からドッカーンだよ」
「あ、確かに」
「魔道士自体少ないし、戦闘能力も低いんだ。その上ほとんど貴族のお抱え。貴族たちが、自分の手柄を吹聴するために、話を盛ってるだけさ」
「そうだな、詠唱が長すぎて弓で撃たれるのもざらだ。アイツら、危なくなると逃げるしな」
「だから、今僕たちは、リゥトスのカイエンタイを強化してる。銃だよ」
「父の残した銃は、まだどこの国も持っていない。だから抑止力になるんだ」
「次はね、君だ。タケシ」
「は?」
「機動力と安定性に優れた馬車だ」
「タケシ、弓は動く馬車からは撃てない。銃なら撃てる」
「何となくはわかりますが」
カツミは話についていけないので、適当に頷いておいた。
「君の技術が必要なんだ。頼む。協力してくれ」頭を下げるカイル。
「あの強くて揺れない馬車を、国のために作ってほしい」
え?カツミはタケシを見た。
「すぐには......無理です」
いや、これは......やる気の顔。
「ああわかっている。すぐじゃない。準備を進めさせてくれ」
タケシは黙って頷いた。
カイルがホッとした顔でカツミを見た。
「でさ、カツミさん。これ何?」
取り出したのはノマド。
「あ、それは旅行者用のスープです」
「じゃあ作って」
「今ですか?」
「うん。今」
カツミが台所に行くと、バルザとクルトーがいた。
湯をかまどにかけ、ノマドを入れる。
「あ、それ、私、王様にみせました」
「それでかー。何で持ってんだろうって思ったんだよなー。作れってさ」
「小腹が空いたのでしょうか」
「そうだね、きっと」
「そうそうバルザ、覚悟しといた方がいいよ」
「え?何をですか」
「またあとで」
カツミはできたスープを持って行った。
「お待たせしました」スープを置くと、
「えっ、もうできたの?」
と驚くカイル。
スプーンでグルっとかき混ぜて食べ始めた。
「凄いねカツミさん。君えらいもの作ったよ、な、リゥトス」
「そうだな、これは使える」
は?
「カツミさん。これを軍の常備食に採用する」
えっ?どーゆーこと?
「カツミさん、戦場はね、国境に近い場所が多いから、物資が滞るんだ。兵士はみんな、硬くなったパンと干し肉と水でしのぐ」
「はぁ」
「これなら保存ができて、軽くてすぐできて。その上スープだから硬いパンを浸して食べられる。何より、温かい食事は、兵士の士気が上がる」
「はい」
「きみの作るスープで、兵士を支えてほしい」
「え?」で、どうしろと?
「私の方で工房と人員は用意する」
「いや、でも」
「君のカレー屋はそのままでいいから、軍需用に専用工房を作って欲しいんだ。
細かいレシピは君が持つ。国管轄なら何も横槍は入らないし、店も普通にできる。どう?」
タケシを見た。ニヤッとしている。
あー。逃げられんやつきた。
「わかりました」
その後、バルザやクルトーの話になった。
バルザの板バネサスはまだ当分かかるが、クルトーはほぼ店が任せられるところまで来ている。
カイルは一旦クルトーを城に戻すと言った。
クルトーは本来城の調理人だ。カレーが食べたくて、カイルがよこしたのだから当然だろう。
「でも、せっかく色々覚えて」
「だからこそだよ。クルトーにはここで覚えた衛生方法や食材の加工方法を、まず城の料理人に教えてもらう。その後、アルネシアでカレー屋を立ち上げてもらおう。クレスカレー店の2号店だ」
それまでうつむいていたクルトーが、ぱっと顔をあげた。
「クルトー。君は王都アルネシアとここミナセを繋ぐ橋渡しになれ」
「私に、できるでしょうか」
「今まで何を教わってきたんだい?カツミは、カレーの作り方だけ教えた訳ではないよね」
「自分で考えて行動すること。失敗を恐れないこと」
「だよね。どうする?」
クルトーがカツミを見た。
「私は、なぞるだけでした。
でも今は、自分で決められます。
だからーー頑張ります。お願いします」
「うん。カツミさん。1月後、クルトーを返してくれ。で、かわりのものを寄越すから」
「え?」
やだ。また1からかー
やっとここまで来たのにー
「今度はカレーじゃない。ノマドの方ね。あ、もちろんカレー屋手伝わせていいよ」
「わかりました」
「さてタケシ、バルザはどう?」
「車体の補強はほぼ任せられると思います。ただまだ、課題の板バネサスはもう一歩で」
「そうか、ではバルザ、君はまずタケシとその板バネサスを仕上げろ。
タケシ、近いうちに車体職人と鍛冶のドワーフを寄越すから、面倒をみてやってくれ」
げっ、また増える。
「宿舎や設備はこちらで手配する。君たちの本職に影響しないようにするから、安心してくれ」
ホンマかなぁ。
王様の言う事やけど、ちょっと急すぎちゃうか。
タケシを見るとーー
アカン、ワクワク顔や。
どうにも止まらん。
帰りしな、リゥトスがタケシとカツミに言った。
「君たちは、これから国に関わることになる。もう一介の商人ではない。大変だろうが頑張ってくれ。父のようにな」
肩のフクロウがホーと鳴いた。
タケシはリョーマが笑ったように見えた。




