歩き出すカレー
調理台の上にはいろんな種類のドライハーブ。
手元には粗い目の小さな白い布袋。
カツミはその前でよしっと気合を入れた。
「何してんのー」タケシの呑気な声。
「うん。ちょっとね」
カツミは庭の畑のハーブを乾燥させた。それを粉末にして、瓶に入れ、ラベルを張ったのが、ここにある。
スプーンで計量しながら袋に詰めていく。何種類かのブレンドを試すのだ。詰めたら紐をキュッと締めて......
あれから半年ーー
今、カレー屋は好調だ。クルトーも、もうカレーは完全に作れるし、たまに自分のオリジナルを作って店に出している。でもやはり週に3日営業。増やすことも考えたが、タケシの仕事もこのペースがいいようだし......
でもちょっと増やしたい、収入。
タケシの方は徐々にバルザが修理できるものが増えていて、仕事量も増え、ちょっと助かっている。
正直弟子がいる分食費がデカい。若い男が3人。よく食べる。
アルネア王国で、もらった出張調理代金は、結構大きかった。そこにバルザとクルトーの生活費も入っていて、それでなんとかなってはいるけど。
いや今後を考えると。
で、カツミはクルトーがせっせと畑仕事をして増やしたハーブを有効活用することを思いついた。
3種類を10個づつ作った。
ハーブティーだ。
女神連に試してもらおう。
で、うまくいったらカレー屋の店先に並べるのだ。
よしっと。ではもういっちょ。
次はまた別のブレンド。こっちはスパイス系。
これも3種類、とりあえず5個。
大きめの、目が詰まった袋に、干し野菜と細く割いた干し肉と塩を入れて、スパイスの袋を入れて紐をキュッと締めた。
うん、いい感じだ
野菜も肉も、自分で干した。大きさや切り方を試してやっとここまで来たのだ。
ふむ。とりあえず今夜試そう。
小鍋に湯を沸かし、大袋の中身をドバッと入れる。沸いたらスパイスの袋を入れて、そのまま弱火にして煮る。
ちょっと混ぜてみる。お、いけるかも。味を見る。野菜もつまむ。
ふふっニンマリ。
晩御飯に出してみた。
「何作ったん?」とタケシ。
「師匠、カレーの匂いしてるけど」
「?」
「食べてみて」
スプーンを突っ込み食べだした。
「これ、干し肉やんな」
「野菜の食感が違います。ふにゃふにゃやらコリコリやら、面白いですね」
「?美味しいですよ」
「あ、師匠、干してた野菜ですよね、これ」
「正解」
「何か旨味、増えてません?」
「クルトー君、進化したねー」
「カツミ、これ干した食材だけで作ったんか」
「そーゆーこと」
「すごいな」
「んで、水入れて10分煮るだけ。ほっといてもできるねん」
「マジか、カツミ。インスタントやんか」
「エヘヘ」
「インスタント?」
「あー。パパっとできるやつな。
これええぞ。旅の途中とか食いもん困るから」
「スパイスな、他もあるから、また試させてな」
「お、おう」
「師匠はやっぱりすごいですー」
数日後、噴水広場で開店準備をしていると、荷馬車が1台入ってきた。
あれはー。白い鹿。間違いないナラだ。
「ちょっとクルトー、やっといてな」
カツミは袋を取り出して、走った。
「シュートさん、久しぶりですー」
「あ、カツミちゃん。元気そうだね」
「はい。あのー」
カツミはインスタントスープの素を渡して、簡単に作り方を教えた。
「へー。すごいの考えたね。後で試してみる。また今夜おじゃまするよ」
「お願いします。ご意見、期待してます」
「ああ、厳しいよ、僕」
夜、シュートがやってきた。
味はオッケーが出た。
あと、水の量がわかりにくいから、セットにして売ったほうがいいだろうと。5食位とカップをセットしたものと、別にバラ売り。カップは食べる時にも使えるし、使い回しできるから売れるだろうと言う。
なるほどなるほど。
「タケシ、いい嫁さんだ。うらやましいよ」
「あぁ、怒らしたらカレー投げるけどな」
「またやったの」
「しらん」
「そうやカツミちゃん、今そのスープ何個ある?」
「今は2個しかないけど作れますよ、多少なら」
「じゃぁさ、これ、もうちょっと量を増やして、10個作れる?」
「はい」
「じゃぁ作ったら、オモジイのとこで適当なカップ見繕って、ぼくのところに持っておいで。
明後日までここにいるから。出来る?」
「はい」
「その時までに、名前考えて。で紙に書いて添える。いいね」
「わかりました」
「僕が行商仲間に流してあげる。初期投資としては安いもんだろ。行商人は小さい魔導コンロ持ってるやつも多いから、受けるはずや」
「ありがとうございます」
「任しといて」
やった。いけるかも。
その夜、4人で名前つけに頭を抱えたのは言うまでもない。




