帰郷と覚悟
ミナセの町が見えてきた。
「あーやっと着いたぁー」
「なんかホッとするな」
「うん」
「あれ、サルコーちゃうか」
「ホンマや、手ーふったろ」
門番のサルコーは、後ろの荷馬車を見て、
「よう帰った。あれは連れか」と言った。
「うん。弟子」
「弟子?まあええ、通行証な」
後ろの2人の分も確認した。
「ええぞ、通れ」
「テラのとこは明日にして、このままウカミーのとこに行くぞ」
「うん。それがええ」
ウカミー農園に行った。
稲がサワサワと、黄金色に揺れている。
馬車を停めて、向こうで作業していたウカミーに声をかける。
「ウカミー、ただいまー」
「おー。帰ったかー」
ウカミーがコチラに向かって歩いてきた。後ろからぴょんぴょんとカカシのクエビーがついてくる。
タケシは後ろの2人に、ここで待つようにと指示した。
「カツミちゃん、おかえり。握り飯あるぞ」
「あ、ありがとうございます」
「んで、あれは?」後ろを指さすウカミー。
「実は、お願いがあって」とタケシが切り出すと、
「疲れとるやろ、とりあえず母屋に入って、握り飯食えや」
座敷の中央に囲炉裏。
ドンと座ったウカミーは、皿に大盛りのおにぎりを差し出した。
「まぁ食え。腹減っとるやろ」
と部屋の隅でちんまり座っている2人を顎で指す。
カツミは2つおにぎりを取って、バルザとクルトーの手に持たせた。
「ほんで?」ウカミーはタケシを見る。
タケシは城でのいきさつを、ウカミーに話した。
「なるほどな、まあそれは悪いこっちゃないな。お前らにとっても」
「はい。それでお願いなんですがーー」
タケシは2人をしばらく置いてほしいと言った。
タケシの家が小さくて、2人の部屋が取れないこと。
もう1つ小屋を建てるということ。
小屋が建つまでの間、離れを貸してほしいということ。
「そうか、まあお前んとこ自体家っちゅうより小屋やもんな。かまわんよ、離れ使え。
でな、タケシよ、小屋建てるんならな」
ウカミーは、タケシの家を建てろと言う。
「お前らも、いつまでも小屋住まいじゃあアカンやろ。もうちーとまともな家に住め。
弟子の小屋の方がきれいになってまうぞ」
あー。確かに。
「大工は紹介してやる。
うちは離れ貸すだけや、世話はせんから、別に構わん」
「ありがとうございます。そうさせていただきます」
タケシは両手をついて頭を下げた。
「おぉ、食え食え。お前らも」
カツミが振り向いて頷くと、2人は両手で持っていたおにぎりにかぶりついた。
縁側ではマシロが3個目のおにぎりに突入していた。
翌日は村を出て町の中心へ。
黒馬車の荷台に乗った2人の弟子はその快適な乗り心地に興奮気味だ。そのうちバルザが、またタケシに質問攻撃を始め、
「うるさい!黙っとれ!」
と叱られて、ションボリした。
まずテラのところへ。
城での話をして、2人を紹介した。
「そう、よかったんじゃない。また忙しくなるわね」
「それでテラ、向こうでさーー」
タケシは坂本龍馬に会った事を話した。
「そう。元気だったの。よかった。
あの子は、私がここに初めて連れてきた子よ。んーっと。村人1号?」
「え。そうなんですか」
テラはこの世界に来て、最初はアルナにいたそうだ。
その時に一緒にいたのがリョーマだったのだと。
「あの子ってさ、ちょっと西洋かぶれ?だったじゃない。だからすごくこの世界を気に入ってねーー」
精力的にこの世界に馴染み、やがてアルネア王国の中枢に登っていったそうだ。
「私はまだ小さな村だったミナセに移った。この町を暮らしやすい町にしたくてね。でもリョーマはついてこなかった」
リョーマはカイエンタイを作り治安を安定させ、アルネアの発展に尽くしたいと言ったそうだ。
「で、私は少しあの子の寿命を伸ばした。私に手助けできるのはそれくらいだったし。
そう、養子を取ったのね、あの子」
テラの伸ばした寿命もそろそろ限界が近いという。これ以上は無理だと。
「あのね、タケシ、カツミ。言ってなかったけど......あなたたちも......子を成すことは出来ないの。
いったん死んだ命だから。これは私たちにもどうにもならないことなのよ」
リョーマは誰も娶らなかったが、見込みのあるものを養子に取って繋いだのだと。
重い沈黙が続いた。
テラの所を辞してからも、カツミの気持ちは重かった。
「カツミ」タケシがカツミの手を握る。
「おかしいなとは思っててん」
「ああ、そやな」
ポロっと涙がこぼれた。
「でも......」
「なあカツミ、俺ら、ここで生き直しできただけで、幸せやと思うで」
「うん」
「俺はカツミがおってくれたらそれだけでええ」
「うん」
「子供がおらんでも、おれらの生きた証は、残せる」
「うん」
「俺らにできることをやったらええんや」
タケシが2人の弟子を見た。
カツミも振り返る。
「......うん。そやな。
タケシ、うち、もう泣かへん」
「あぁ」
タケシはカツミをギュッと抱きしめた。
その後、オモジイの店に寄ると、オモジイはバルザを見て、タケシに耳打ちした。
「あれ、ええもん持っとる」
「何ですか?」
「裏ステータスに出とる。
そうやなぁ、ドワーフ工房に繋いでやれ。きっと化けるぞ」
「わかりました」
「あっカツミちゃーん」
しもた、見つかった。クニオだ。
「カレー食べたいー」
お帰りもなしかよ。
「はいはい、わかってるしー」
あー。
でもなんでか落ち着くんよね、アイツ。
商業ギルドや冒険者ギルドも回って挨拶し、
村に戻って村の村長にも報告し、2人の弟子を紹介した。
家に帰ると、家の前に2人の男が立っていた。
ピコン♪
*ヒサシ* (彦狭知命)
*タオキ* (手置帆負命)
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=彦狭知命=
天孫降臨に際し、宮殿造営を司った工匠の神。
木を読み、寸分の狂いなく形を定める、建築の理を体現する存在。
=手置帆負命=
同じく宮殿造営に携わった工匠神。
材を整え、力を調え、万物をあるべき場所へ据える、基礎と均衡の守り手。




