荷馬車の2人
宿に戻った。
部屋に入って2人で大きなため息をついた。
「どないすんの、2人も増えるで」
「俺、もうどーにでもなれって感じや」
「いや、住むとことか考えなあかんし」
「そうやなぁ、うちには部屋がないな」
「んー」
「んー」
「明日連れてくるって言うとったしな」
「ウカミーんとこに頼んでみるか」
「ちょい気が引けるけどなぁ」
「はぁ」
「はぁ」
翌朝。
宿にリゥトスが来た。アルナの門まで送るという。
「いいんですか?」
「はい。まだ残党が隠れているかも知れませんし。街道の方は見廻りを増やしてありますから、まず大丈夫でしょう」
「それからあの者たちですが」
小さな荷馬車の前に二人の青年が気を付けをしている。
「職人のバルザと調理人のクルトーです。未熟な者たちですが、よろしくお願いします」
「わかりました」
「それから、カツミさん、これを」
小さな金色のカードを渡された。
「陛下からです。永久通行許可証です。これなら城までノーチェックで入れます」
うわっ。いらんけど。
「タケシさん、父からの伝言です」
「は?」
「夜明けは近いぜよ。だそうです」
タケシは横を向きプッとふきだした。
リゥトスは一瞬怪訝な顔をしたが、タケシの笑顔をみて納得したようだった。
リゥトスの馬、タケシ達の馬車の後ろに荷馬車が続く。
アルネシアの門を抜け、アルナの街に入ると、喧騒に包まれる。
屋台の肉の匂いがする。
「あーなんかさ。串焼きとか食べたいね」
「そうやな、なんか上品なもんばっかしやったもんな」
と2人で話していると、前のリゥトスが馬を止めて振り返った。
「買ってきましょう」
言うが早いか馬から飛び降りて屋台に走った。
あちゃー。聞こえちゃったか。
山盛りの串焼きを手に戻ってきて、荷台の隅に置いた。
「お昼にでも食べてください」
「すみません、どーも」
また馬に乗り歩き出す。
マシロがクンクンしている。
「後でみんなで食べるの」
ションボリして丸くなった。
門のところでリゥトスと別れた。馬の上で姿勢を正すリゥトスの濃紺の外套がはらりと揺れ、内の赤が鮮やかに見えた。
「あー。かっこええ」
「俺は」
「はいはい、ええ男やで、師匠」
街道をゴロゴロと馬車は行く。
「なあタケシ、なんか来た時よりゆっくりしてへんか?」
「あぁ。後ろに合わしとるんや」
城下は石畳だが、街道は未舗装でガタガタしている。黒馬車ならもう少し早く行けるが、普通の荷馬車はかなり振動が響くという。
「ケツ痛なったら可愛そうやしな」
「そっか」
「ちょっとな、停めるから、昼メシ、分けてやってくれや。時間惜しいから行きながら食お」
道の脇に停めて、キッチンカーから皿を出し、串焼きを半分乗せて、後ろの馬車に持っていった。残りの串焼きを持って御者台に登る。
「よし、行くぞ」
マシロがぴょんぴょんはねている。クレクレモードだ。
マシロとタケシに串を渡してカツミも一本かぶりつく。
「旨いな」
「でもやっぱり神印のタレ欲しいな」
「まあ普通は塩やから」
「あのタレのレシピも門外不出やで、オモジイしか作られへん」
「そら神の技や。オモジイのもんはオモジイしか出来ん」
「そやな」
「そやからなぁ、この馬車のサスも、オモジイおらんと出来ん、今のとこな」
「そっか」
「あぁ、サスは板バネをもうちょい良くする方向で考える。その方がこの世界の役に立つはずや」
「頑張れ師匠」
「おぉ」
予想より早く野営地に着いた。
パンも野菜も少ないけど、分け合って食べようと思っていたら、クルトーがパンと野菜を荷台から出してきた。料理長が持たせてくれたらしい。
ありがたい。じゃぁスープ作ろう。
クルトーに火起こしを任せて鍋の準備。水を汲んで火にかける。干し肉をちぎって放り込むと、クルトーがギョッとした。
「大丈夫。だしよ。だし」
「だし?」
「あー。おいおい教えるわ」
そっか、だしっていう概念ないんや。
野菜を適当に放り込む。皮はクルトーに剥かせた。
タケシの方は、何だかバルザの質問攻めに遭ってる。
困ってるタケシの顔がオモロイなー。
煮えてきたからスパイスを取り出した。
クルトーがピコンと反応する。こっちもオモロイなー。
塩とスパイスを入れて味を見て、クルトーにも一匙。
「あ、これ、カレーの」
「そう。残り物や。でもカレー風味のスープもええやろ」
「はいっ!」
「できたでー」
「お?何やカレースープか」
バルザも来てスープを受け取ると不思議な顔をした。
「飲んでみ」
「お、美味しいです。この匂いは、何でしょう」
「まぁ色々な。おいおい分かる」
「でもあの干し肉と野菜でこうなるとは」とクルトー
「ハハ。ま、おいおいで」
夜、バルザとクルトーは荷馬車の荷台に毛布にくるまって寝るという。
タケシに黒馬車に入れてやればと言うと、
「いや。そこはケジメやと思うで」
と却下された。
「あんな、カツミ。俺らの馬車が特殊やねん。普通みんなあないして寝るんや。その上弟子と師匠や。そこは線を引け」
カツミは荷馬車に目をやり、頷く。
「分かった」
翌朝早めに出発した。
もうすぐ町に帰れると思うと、2人とも早く目が覚めた。
「クルトーってさ、ミナセ生まれやって」
「え。ほんまか」
「農村の出らしい。でも親御さんは早くに亡くなってて、で、アルナの親戚のとこに行ったんやて。うちの村とは違うみたいやけどな」
「バルザの方はもっと北の出やて。鉱山の近くにドワーフの村があってな」
「バルザ、ドワーフやったん?」
「あいつはハーフらしい。お母ちゃんがドワーフで。んでアルナにきたんやと」
「そうなんや」
「あぁ、見た目そうでもないけどな、やっぱりドワーフの血、感じるな。めっちゃ職人気質ちゅうか」
「あー。色々聞かれて大変やったんや」
「いや、まだなぁ説明してもわからんことのほうが多いから。でも食らいつくこと。根性あるわハハ」
「クルトーは気弱そうやけど、包丁の扱いも上手かったし、何かなー、手元ガン見な。まいった」
「ま、盗んで覚えろの時代や、ここは」
「マニュアルいらんか」
「いらんいらん」
あ。ミナセの町が見えてきた。
ポクポクと蹄の音が響く。
「忙しなるな」
「そやな」




