門外不出の香り
少し早めに城に着いた。
馬車を止め、マシロとカースケが隠れられるようにして、パンと水も見えないように置いた。
「ごめんね。待っててね」
「きゅん」
調理場に行くと、料理長が待っていた。
「カツミさん、お早いですね。今日はここで見させて頂いてよろしいか?」
「はい。どうぞ」
タケシは早速かまどに火を起こし始めた。
「料理長、お肉は」
「カツミさん、セルクで結構ですよ。肉、お持ちします」
カツミが野菜を出していると、ドンと肉が置かれた。
見事なオーク。ん?良すぎる。
やっぱ高級品きた。脂身.....のとこ、こっちがわならいけるか。
「今日は30人分ですよね」
「はい、皇族と貴族がたで30人ですが、出来ましたら少し多めに」
「わかりました」
材料は50人分で用意してきた。オークは多すぎるから.......
「申し訳ないのですが......このオーク、脂身の多いところを使わせていただきますね」
「あぁ構いません。残ればまた賄いにでも回しますので、好きに使ってください。
そうですか、脂身ねー」
「ええ、オークは脂身が美味しいんです」
タケシが大鍋を出してきた。
カツミは肉を大きく切って、脂身を下にして焼き始めた。
そのまま野菜を切り始める。タケシが肉を転がしている。
しっかり脂が出て来たら、切った野菜を順に入れる。タケシがゆっくり底から混ぜて炒める。
「ほっほー。手際がよろしいな、そうですか、ここまで炒めるか」
よし。全部入った。しっかり炒めてーー水。
煮立ったらアク取り。
火を弱めた。
さ、片付けよ。
2人でさっさか片付ける。まな板、包丁、台も綺麗に拭き上げた。
途中でちょいちょい混ぜる。
さてと
「お皿はーー」
「はい、どのような」
「大皿でお願いします」
「これでよろしいか」
「はい。お食事のお部屋に置いてください。あとスプーン。
それからこれに水を入れてコップとですね」
フエル樽にはドライミントを袋に入れてある。
「承知しました」
セルクが外の誰かに指示をした。
「パンは来ていますか?」
「はい、お持ちします」
大きなパンだ。カットだな。
パンを切っていると、
「おい、カツミ、見てくれ」
鍋を混ぜていたタケシが声をかけた。
いい感じだ。スパイスの袋を取り出す。
「ほう?これは」
「スパイスです。ブレンドしてあります」
「複雑な......うむ。香り、ですな」
「ええ」
カレーにスパイスを入れる。タケシが混ぜると一気に刺激のある香りが立ってきた。
「ほぉー、これはなんと」
セルクが鼻をヒクヒクさせて、天井を見上げた。
「カツミさん、これは......門外不出......ですかな」
「もちろん」
パンを籠に大盛りにした。
「これもお部屋の方へ」
「わかりました」
カレーを味見する。スプーンにとって......タケシ、親指を立てた。
うん。いい。
寸胴鍋を取り出す。
小鍋で移して焼いた石を入れ、蓋をして金具を止めた。
「もうできたんですか?」
「いえ、丁度お昼には食べ頃になります」
タケシはかまどの火を落とす。
カツミは鍋を洗い、もう一度調理台や床を掃除した。
「すごいですね。さすがというか」
「まぁ、いつも通りですから」
いや本当はいつも2種類作ってるんだけど。
ゴロゴロとカートを押していく。重い寸胴の入ったカートが絨毯に引っかかってうっとおしい。
部屋の前。中はざわざわしているようだ。
ドアがあき、中に入ると、ながーいテーブルの向こうに王様が座っている。両方にズラリと皇族や貴族が並んでいる。あ、リゥトスもいた。
カイルは待ちきれない様子でカツミを手招きした。
カートをカイルに横へ置いた。
カイルは急かすように鍋とカツミを交互に見る。
ねじを緩め、蓋を開けるとーー
ふわーっとした湯気と共に刺激的な香りが立ち上った。
「うわぁー」目を細くして香りを嗅ぐカイル。
貴族たちが思わず覗き見るように乗り出した。
「ノースランドポークのスパイスカレーでございます」
皿が差し出された。
レードルで底から混ぜると、さらに匂いが広がっていく。
「なんという香りだ......」
ざわつく貴族たち。
皿に盛り付けて、パンを添え、カイルの前に出す。
「ねぇ、どうやって食べるの?」
「そのままスプーンも結構ですし、パンに具材を乗せたり、スープに浸していただければ」
みんなが見つめる中、カイルは一匙カレーをすくい、口へ。
「からーい。でもなんか甘い、不思議ー」
と言うと、ガツガツ食べ始めた。
顔を見合わす貴族たちの前に、順にカレーが配られた。
「皆も食え、カツミさん、僕おかわり」
えっもう食べたの。
貴族たちもおそるおそる食べ始める。
「おぉ、辛さの中の甘みがたまりませんな」
「それにこの肉、ほどけるほど柔らかいのに旨味が」
「パンにつけるとまたスープが旨い」
よし。おおむね高評価。
「陛下、辛くはありませんか?」
カツミはミント水を差し出した。
「うん。僕は全然平気。あ、この水、口がさっぱりするね」
気づくとカイルは2杯目も、綺麗にパンで皿を拭って食べていた。
それを見て真似る貴族たち。
「あー。美味しかったぁ。テラが自慢するわけだ。
いいなー。これ、毎日でも食べたいけど」
チラッとカツミを見るカイル。
ゆっくり首を横に振るカツミ。
「だよねー。料理長」
何やら耳打ちしている。
「はっ」
「いやぁ美味かったですな」
「あれほど複雑な味は初めてですぞ」
「辛いのが、どうもくせになりますな」
カツミはタケシと目を合わせ、ちょっと笑った。
部屋を辞して、調理場に戻ると、料理長と、調理人たちが待っていた。
「カツミさん、カレーは残っておりますか」
「ええ」
「では頂いても」
「はい、どうぞ」
蓋を開けると、みんながわっと集まった。
「なんて香りだ」
「あー、腹の減る匂いだぁ」
食べ始めても、さすがに料理人達だ、スパイスの配合や甘味の元を議論している。
「カツミさん。お願いがございます」
「はい?」
「陛下より、カレーを作れとのご指示がございました。ですが、私どもではこの味は出せません」
「はぁ」
「そこでですな、コヤツをですな」
若い調理人を立たせた。
「連れ帰って、仕込んでは頂けないでしょうか」
「はぁ?」
「洗い物でも使い走りでも構いません。な、何でもやるよな」
「はい!」と元気に若い調理人は返事した。
タケシを見ると、しゃあないな、の顔。
「お願いします」
頭を下げられた。断れんやつやな、これ。
「わかりました」
若い調理人が、ニッコリ笑った。




