CASE3-20 「聞き飽きたって言ってるでしょ?」
マイスとイクサが、スマラクトを連れて衛兵隊の詰め所から帰ってきたのは、鐘楼の鐘が午後三時を告げた直後だった。
午後に入ってからも、引き続き“ガルムの爪”の捜索の為に、店内で捜索にあたっていた従業員達がわらわらと店頭に集まり、マイス達を迎えた。
従業員の間から一歩前に出たギャンガラルが、真っ先に馬車から降りたマイスに深々と頭を下げる。
「ボス……お勤めご苦労さんです!」
「……人を監獄帰りみたいに出迎えないでよ」
ギャンガラルの頭を軽く小突きながら、マイスは苦笑した。
彼女の様子に、従業員達の間から微かな笑いと安堵の息が漏れる。――が、マイスの後に降りてきた人物の顔を見て、場の空気は一気に張り詰めた。
「――おい! スマラクト! てめえ、何しやがったっ!」
「おら! ツラ見せろゴラ!」
「黙ってちゃ分からねえよ! 何か言えやこのハゲ!」
血の気の多い工房の連中から、口汚い罵声が容赦なく浴びせかけられる。それと共に、
「――ボス! スマラクトの野郎は何て……?」
「マイスさん! ……スマ先輩は……一体?」
「やっぱり、コイツが“ガルムの爪”を――?」
マイスに対しても多数の質問が飛ぶ。
と、一番最後に馬車から降りてきたイクサが、慌てて両手を挙げて、従業員達を鎮めようとする。
「――ちょっと、静かに! 静かにして下さい! あの……まだ、詳しい事は分かってないので、あんまり騒がないで――!」
「いや、どう考えても、タイミング的にコイツがパクったに違いねえだろ! ちょいとシメてやらねえと……」
「だから、詳しい事情を訊くのはこれからなんで、そう決めつけるのは早いって――」
「おう、昔取った杵柄じゃあないが、ワシが傭兵式事情聴取をしてやろうか? ……コイツの口なんぞ、すぐに割れるぞ」
と、ボソリと言ったのはハアトネスツだ。彼は、殺気の籠もった眼で、俯いたままのスマラクトの禿頭を睨みつける。
スマラクトはビクリと身体を震わせ、蒼白な顔を土気色に変えて、ガチガチと歯を鳴らす。
「――止めて」
が、ハアトネスツを静かな声で制したのは、マイスだった。彼女は、キッとした顔で、従業員達を見回しながら言った。
「イクサくんが言ったように、まだ、スマラクトさんからは何も聞いていないの。憶測で物騒な事を言って、彼を萎縮させないで」
「だ、だが……」
「だがもしかしも無い!」
抗弁しようとするハアトネスツを、強い言葉で制するマイス。ハアトネスツは、彼女の剣幕に思わず気圧され、口を噤む。
マイスは、フッと表情を和らげると、
「……ごめん。強く言いすぎたわ。――これから、スマラクトさんと話をするから、みんなは作業を続けてて。後で、私からみんなにキチンと説明するから――ね」
彼女の言葉に、一同は頷くしか無かった。
◆ ◆ ◆ ◆
スマラクトを“護送”しながら、マイスとイクサは取締役室へと入った。念の為、ドアに鍵を掛けたマイスは、小さく溜息を吐く。
「……やれやれ。――じゃあ、早速、事情を訊きましょ……って、――何してるの、貴方?」
振り返ったマイスは、思わず呆れ声を出した。
彼女の目の前で、スマラクトは、詰め所の留置室と同じ格好で這い蹲っていた。
それを見た瞬間、柳眉を逆立てるマイスの顔を見たイクサは、慌てて膝をついて彼の腕を掴む。
「す――スマラクトさん! また、それをするんですか! ほら、話が進まないから、早く顔を上げて下さい!」
「い……いえ! 先程も申し上げましたように、ワタクシは、おふたりと同じ目線で居る訳にはいかない、ひ――卑怯者ですので……」
「いや――そういう事では無くて……」
「本当に……本当に申し訳御座いません……! どうぞワタクシを、監獄なり刑場なりへと放り込んで下さいまし――!」
「はあ……、またそこから始めなければならないの……?」
「――!」
マイスの嘆息に、スマラクトの背中がビクリと震える。
マイスは、カツカツと靴音を立てながらスマラクトの前に立つと、膝を曲げて屈み込んだ。そして、スマラクトの薄い頭に向けて、静かな口調で語りかける。
「ねえ、スマラクトさん……?」
「……」
「貴方が、ここで亀のように這い蹲っていて、私たちが抱えている事態が好転するんだったら、好きなだけ這い蹲っていればいいわ」
「……」
「――ねえ? そうなの?」
「い、いえ……」
顔を伏せたまま、スマラクトは首を左右に振った。
「そう……。じゃあ、何で貴方は、口を結んだまま、ひたすら謝罪の言葉しか口にしないのかしら?」
「……スミマセン……」
「だから、それは聞き飽きたって言っているの!」
鋭く叫ぶや、彼女はスマラクトの襟首を掴み、無理矢理に顔を上げさせた。そして、涙と鼻水にまみれたスマラクトの顔を鋭い目で睨み据えながら、強い言葉で言う。
「知ってる? 私たちには時間が無いの」
「……」
「今、私が貴方から聞きたいのは、そんな紋切り型の謝罪の言葉なんかじゃないの。あの日、貴方が何を見て、何を聞いて、何をしたか――それだけ!」
「……す、すみま――」
「聞き飽きたって言ってるでしょ?」
「う……」
と、
「……ごめんなさい。また、ちょっと強く言い過ぎたわね……」
そう言うと、彼女は表情を緩めた。
そして、スマラクトの目をジッと見ると、さっきまでとは打って変わった優しい声で言う。
「――貴方にも、このダイサリィ・アームズ&アーマーに対する愛情があると、私は信じているわ……そうでしょ、スマラクトさん?」
「は、はい! ワタクシは……ワタクシは、この店を、心から愛しております! ですから……だからこそ、今回の事が……!」
スマラクトは、マイスの言葉に、ボロボロと涙を零しながら、大きく頷く。彼女は、そんな彼の様子を見て、
「そう……良かった」
と呟くと、ニッコリと笑いかけ、言葉を続けた。
「それを聞いて安心したわ。――じゃあ、話して頂戴。一昨日、一体、何があったのか。……そして、貴方が何をしたのかを」
そう言うと、マイスはスマラクトに向かって、深々と首を垂れた。
「――この店を救う為に、お願い」




