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CASE2-19 「随分ご立派な誇りですことッ!」

 マイスの嵌めた指輪から発せられた強烈な光は、辺りを真昼のように照らし出した。


「ウアアアッ!」


 ラシーヴァ達は、その光をまともに受けて、悲鳴を上げて眼を手で目を覆うが、既に遅い。


「眼が……眼ガアアッ!」

「クソッ! 何も……見えねえっ!」


 騎士達は、眼を押さえながら、苦悶の叫びを上げる。


「く……クソォッ! あの指輪……雷属性の魔晶石が……!」

「――ご名答。あまり質のいいものでは無いので、目くらまし程度にしか使えないけど、ね!」

「ガッ!」


 一時的に視力を奪われ、キョロキョロとせわしなく首を振るラシーヴァに思い切り体当たりをかけるマイス。不意の攻撃に、堪らずラシーヴァは仰向けに倒れる。


「痛えッ――! お、おい、お前ら! 女はここだ! 早く何とかしろ!」


 不様に地に仰向けに転がったラシーヴァは、激昂しながら叫ぶ。その声を受けて、部下の騎士達が一斉に剣を抜き放ち、マイスの元へと殺到しようとする。

 ……が、大多数の騎士達は、まだ視力が回復していない。フラフラと頼りない、まるで千鳥足のような足取りだ。

 ようやく、騎士達がマイスのいた場所の辺りに到達し、蠢く影を回復しつつある眼で確認すると、騎士達は雄叫びを上げて剣を振りかぶる――。


「お、おい、馬鹿ッ! オレだ! 振るな――ッ!」

「――! ら、ラシーヴァ様?」


 すんでのところで、振り下ろす腕を止める騎士達。慌てて主を助け起こす。


「だ――大丈夫ですか、ラシーヴァ様?」

「え、ええい、放せッ! あの――あの女は、どこだ!」


 掴まれた腕を振り払いながら、苛立たしげな声で怒鳴り散らすラシーヴァ。だが、部下達は戸惑った表情で、お互いの顔を見合わせる。


「ら、ラシーヴァ様……居ない……消えました……!」

「ああ? 消えただとぉ? ど、どこへ――?」


 部下の言葉に、ラシーヴァが当惑の声を上げた――その時、


 カンッ カンッ


「……ん?」


 不意に乾いた金属音が鳴った。騎士達は、訝しげな表情で、音の発生源を探った。


「――お前! それ――」


 そして、ある騎士が同僚の兜の庇を指さし、また別の騎士が、己の鎧の胸当てに妙なものが生えている事に気が付く。

 それは――、


「――だ、(ダート)?」


 騎士が、目を丸くした瞬間、

 突然ダートが紅く輝き、激しく爆発した。


「う、うわあああっ!」


 ダートが刺さり、爆心地となった騎士の身体が木の葉のように吹き飛び、周囲の騎士も爆風のあおりを受けて、麦の穂のように薙ぎ倒される。

 辛うじて被害を免れた騎士の間から、驚愕と焦燥に満ちた悲鳴が上がった。


「え、ええいっ、狼狽えるな! 貴様らは、このラシーヴァの騎士隊の勇士だろう! これしきの事で、浮き足立つなっ!」

「は……はっ!」


 だが、苛立ち混じりのラシーヴァの叱咤を受けて、騎士たちはすぐに落ち着きを取り戻す。


「おのれ……小癪な女め! ちょこまかと……!」


 舌打ちをして、ラシーヴァはマイスの姿を探し求める。――と、


「うぐぁ……!」

「ガッ……!」

「ぐふっ……」


 ラシーヴァ達の背後から、苦悶の声と共に、ドサドサと騎士達の身体が崩れ落ちる音が聞こえた。


「い――いた! こっち……ガハッ!」


 後方の騎士が、言葉を発した直後に、喉元を突かれて昏倒する。だが、彼のお陰で、敵がどこにいるか分かった騎士達は、一斉に振り返り、各々の得物を一部の隙なく構える。

 彼らの視線の先には、ロングスカート姿の美女が、銀象嵌が施された黒塗りの長杖をゆったりと構えて立っていた。


「……あら、思ったよりも、早く見つかっちゃいましたわね」


 そう呟いて、マイスはニコリと魅惑的な微笑みを浮かべる。

 彼女の艶やかな笑みを向けられたラシーヴァは、血走った目を見開き、上ずった声で叫んだ。


「この女……! 目くらましでオレたちを釘付けにしている間に、店に戻って武器を……!」

「あーあ……これで、折角のウチの目玉商品が中古品になっちゃったじゃないの。……あとで、玄関の補修代金にプラスして、この長杖の補填分も請求させて頂きますからね!」


 マイスは皮肉げに口角を上げてラシーヴァを挑発する。

 その挑発にまんまとノッた彼は、こめかみに青黒い血管を浮き上がらせて、山犬のような怒声を上げた。


「ナメた口を叩いてるんじゃねえぞ、このクソアマが! お前ら、近衛騎士をここまで愚弄した反逆者に血の報いを受けさせろ!」

「オオオオッ!」


 ラシーヴァの檄を受けた騎士たちが、一斉に雄叫びを上げながら、次々とマイスひとりに斬りかかっていく。


「……貴方達の言う『騎士の誇り』って、女ひとりに全員で斬りかかる事なの……?」


 マイスは深く溜息を吐くと、口の端を皮肉げに歪めた。


「……随分ご立派な誇りですことッ!」


 彼女は、その目を鋭くさせ、構えた長杖をグルグルと回転させる。そして、最初に斬りかかってきた騎士が放つ肩口狙いの斬撃を軽快に躱すと、その顎を杖の先で強かにかち上げた。


「グフッ……!」


 口から血と前歯数本を吐きながら吹き飛ぶ騎士の背後から、別の騎士がランスを突き出す。が、マイスは身体を回しながら軸をずらしてランスの一突きを躱し、振り向きざまに騎士の延髄を長杖で一閃して打ち据える。


「――ええい、女ひとりに、何を梃子摺(てこず)る! ……スカートだ! スカートを押さえちまえば、その女は身動きが取れなくなる!」


 ラシーヴァが、大声で叫んで騎士たちに指示を送る。すかさず、数人の騎士が、マイスの激しい動きで膨らんだロングスカートの裾に、数本のランスを次々と打ち込み、地面に張り付けた。

 突然動きを封じらたマイスは、足を取られて、地面に倒れ伏す。

 これには、さすがの彼女も顔色を変え、その様子を見たラシーヴァがサディスティックな哄笑を浮かべた。


「……ククク! 女ァ! 威勢がいいのもここまでだな! そうなってしまっては斬撃を躱す事は出来ないだろう!」

「……女性の衣服に穴を開けて悦ぶなんて、ホントーに下衆な男……っ!」


 マイスは小さく舌打ちし、何とか逃れようとロングスカートを引っ張るが、スカートを貫いて地面深く突き刺さったランスはびくともしない。それを見たラシーヴァは、愉悦に満ちた下品な嗤い声を上げた。


「はっはっはあっ! まったく、いいザマだな、女ぁ! まるで、昆虫標本じゃあないか!」

「……」

「……さてと。このままお前を陵辱してやるのも楽しそうだが、もう一段階、刺激的なスパイスを振りかけてやるとしようか」

「……スパイス……何よ、それ……」


 地面に縫い付けられた格好のマイスは、微かに顔を青ざめさせながらラシーヴァを下から見上げ、女豹のような鋭い目で睨みつけた。

 ラシーヴァは、そんな彼女を冷徹な目で見下しながら、実に楽しそうにほくそ笑み、それから――背後の建物を指さした。


「――さあ、お前ら! あの店の中にいる奴ら……シーリカちゃん以外の人間の首を、コイツの前まで持ってこい!」

「――!」

「オオオオーッ!」


 彼の言葉を聞いて顔面蒼白になるマイスと、興奮し、荒ぶり、怒号のような雄叫びを放つ騎士達。数人の騎士が、店へ向かって走り出した。


「や、止めなさいっ! ――止めてッ!」


 先ほどまでの余裕が吹き飛び、必死の形相で絶叫するマイスを、ラシーヴァは今までの鬱憤を晴らすように嗤い飛ばす。


「いい顔だなぁ、マイスさんよぉ! 美人が必死に懇願するザマは、見ていてゾクゾクする! もっと、君のそういう顔を見てみたいなあ――クククッ!」

「――請求書に、このドレスの弁償代も上乗せよっ!」

「ククク……へ?」


 マイスの奇妙な言葉を耳にして、ラシーヴァの笑みは消えた。


「スカート……て、おい……そりゃ、どうい……!」


 彼女の方へと振り向いて『どういう意味だ』と、問いかけようとしたラシーヴァだったが、強烈な膝蹴りを顔面に叩き込まれたせいで、その言葉を口に出す事は出来なかった。


「ぶ……ブベハァッ!」


 口の中で前歯が砕ける嫌な音を聞きながら、彼の身体は宙を舞い、背後の騎士達を巻き込んで仰向けに倒れる。


(……な、何だぁ? あの女は……スカートを押さえられて、動けない……ハズ――!)


 と、ラシーヴァの上下逆になった視界に、こちらに背を向けて一目散で店の方へと走り出すマイスの後ろ姿が映った。

 ――彼女の穿くスカートは、膝上のあたりで、バッサリと切り裂かれ、彼女のスラリと伸びた白い生脚が露わになっている!

 ラシーヴァは、彼女が自由になった理由に気が付き、愕然とした。


(あの女――! 自分でスカートを引き裂いて……!)

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