表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
33/114

CASE2-1 「セクハラで訴えますよ……!」

挿絵(By みてみん)

【イラスト・トド様】


 「いらっしゃいませ~!」

「お客様、お待たせいたしました!」

「本日は、どういったご用件でしょうか?」

「有難うございました。またご利用下さいませ!」


 今日も、『ダイサリィ・アームズ&アーマー』の受付カウンターには、朝から修理の依頼や受け取りや、武器の購入や買い取りの客がひっきりなしに訪れる。

 受付担当のイクサ・シーリカ・スマラクトの三人は、カウンターに張り付いて、次々現れる客達へ対応し続けていた。

 だが、朝の十時から夜の六時までの営業時間の全てで、常に客が詰めかけるわけではない。客の“波”というのがある。

 朝一番に、急ぎの修理引き取りと修理依頼の客が殺到し、その後はしばらく客数も減って、平和な時間帯が続き、夕方近くから閉店間際までに第二の波が到来する――毎日のサイクルは、そんな感じだった。


「……引いた……かな?」


 街の鐘楼が正午を告げた直後に、カウンターに残った最後の客を見送ったイクサは、凝った首筋を手で揉みながら言った。


「……そうみたいですねぇ」


 受け付けた修理品の鉄楯に付箋を括り付けながら、スマラクトは疲れ切った声で答える。


「ボルディ・クワルテの件から、一気にお客様が増えましたよねえ……」


 手元の修理カルテをファイルに収めながら、シーリカも苦笑した。

 イクサは、思いっきり身体を伸ばして、首を回しながら言う。


「クニージア神殿さんの口コミの効果って事かなぁ、やっぱり」

「まあ、全然お客様が来ないよりはいいですけどね。この前の嵐の日みたいに……」

「――あの日は酷かったですなぁ……。売り上げ日報をボスに出しに行った時に、睨み殺されると思いましたぞ、ワタクシ……」


 そう言うと、その時の事を思い出したのか、ブルリと身を震わせるスマラクト。イクサとシーリカは、彼の様子を見て、色々と察した。

 イクサは、客がいなくなってガランとした店内を見回し、ふたりに声をかける。


「……じゃ、ちょうどいい時間だから、お昼回ろうか。――シーリカちゃん、一番先にどうぞ」

「え……。ああ、あたしはまだ大丈夫ですよ、イクサ先輩」


 シーリカは、眼鏡の奥の蒼い瞳を一際大きくして、ブンブンと首を横に振った。

 が、その途端に、グウ~と、彼女のお腹が大きな音を立てる。


「あ……!」


 シーリカは、呆然とした後に、顔を真っ赤にし、お腹を抱えて俯いた。

 スマラクトが思わず噴き出した。


「ブフフフ――いやいや、シーリカちゃん、口と違って、身体は正直ですなあ! ――なんちゃって! ブフフフウフッ!」


 そんなスマラクトを涙目で睨みつけるシーリカ。


「……スマ先輩……セクハラで訴えますよ……!」

「ブフフフ……フゥッ?」


 スマラクトの笑い声が途切れた。彼は、慌てた顔で釈明を行う。


「い……イヤイヤ! コレは違うのですヨ! コレは、タダの同僚同士のスキンシップ……軽いジョークと言いますか……その……!」


 そう言いながら、縋るような目付きでイクサに視線を送るスマラクトだったが、イクサは冷たいジト目で彼に厳しい視線を返す。


「いや、スマラクトさん……。さすがに今のは無いです。年頃の女の子相手にその発言は、上司としてはもちろん、男としても擁護不可ですよ……」

「へ――! いや、その……そういう意味では……決して……その……」


 オロオロとして、顔色を赤くしたり青くしたりするスマラクトに、イクサは、咎めるというよりは諭すような口調で言う。


「スマラクトさん……、今後は気をつけて。……もし、ボスに聞かれたら、ホント洒落にならない事になるんで……」

「ひ――! ぼ、ボス……そ、それだけはッ!」


 今度は、顔面蒼白になって怯えるスマラクト。身体を直角に折って、シーリカに頭を下げる。


「し……シーリカちゃ……シーリカ殿! この度は、大変失礼致しましたぁっ! 何卒……平にご容赦を……!」

「あ――だ、大丈夫ですよ、スマ先輩! 頭を……頭を上げて下さい! もういいですから!」


 そのまま両手をついて、遙か東の神秘的なヴェールに包まれた伝説の国に伝わるという、『ドゥゲズァ』という上級謝罪法を実行に移しかねないスマラクトの勢いに、辟易とした様子でシーリカは言った。

 スマラクトは、チラリと上目遣いに彼女を見て、オズオズと言う。


「シーリカ様……このワタクシめを、お赦し頂けるのでアリマスか?」

「――まあ。というか、もういい加減に頭を上げて下さい!」

「は――! ありがたや、ありがたや~!」

「……いや、だから、もういいから……」


 イクサは、収拾がつかなくなりつつある状況をどうにかするべく、シーリカの方を向いて言う。


「はい、じゃあ、シーリカちゃん、取り敢えず先にお昼食べてきて!」

「え……でも――」

「ゆっくり食べてきてね。ほらほら」


 まだ逡巡している素振りのシーリカの肩を押して、バックヤードの扉の奥へと押し込むイクサ。間髪を入れずに、扉を閉め――ようとしたその時、


 ――カラン カラン……。


 取り付けた鈴を鳴らしながら、入り口の扉がゆっくりと開いた。


「あ――いらっしゃい……ま……」


 振り返って、バックヤード扉のノブに手をかけたまま振り返ったイクサは、途中で言葉を失った。

 入り口に、白髭を貯えた、矍鑠(かくしゃく)たる老人が、杖を片手に立っている。

 老人は、キョロキョロとカウンターを見回すと、嗄れた声で簡潔に言った。


「――バスタラーズじゃ。シーリカさんを頼む」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ツギクルバナー
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ