CASE2-1 「セクハラで訴えますよ……!」
【イラスト・トド様】
「いらっしゃいませ~!」
「お客様、お待たせいたしました!」
「本日は、どういったご用件でしょうか?」
「有難うございました。またご利用下さいませ!」
今日も、『ダイサリィ・アームズ&アーマー』の受付カウンターには、朝から修理の依頼や受け取りや、武器の購入や買い取りの客がひっきりなしに訪れる。
受付担当のイクサ・シーリカ・スマラクトの三人は、カウンターに張り付いて、次々現れる客達へ対応し続けていた。
だが、朝の十時から夜の六時までの営業時間の全てで、常に客が詰めかけるわけではない。客の“波”というのがある。
朝一番に、急ぎの修理引き取りと修理依頼の客が殺到し、その後はしばらく客数も減って、平和な時間帯が続き、夕方近くから閉店間際までに第二の波が到来する――毎日のサイクルは、そんな感じだった。
「……引いた……かな?」
街の鐘楼が正午を告げた直後に、カウンターに残った最後の客を見送ったイクサは、凝った首筋を手で揉みながら言った。
「……そうみたいですねぇ」
受け付けた修理品の鉄楯に付箋を括り付けながら、スマラクトは疲れ切った声で答える。
「ボルディ・クワルテの件から、一気にお客様が増えましたよねえ……」
手元の修理カルテをファイルに収めながら、シーリカも苦笑した。
イクサは、思いっきり身体を伸ばして、首を回しながら言う。
「クニージア神殿さんの口コミの効果って事かなぁ、やっぱり」
「まあ、全然お客様が来ないよりはいいですけどね。この前の嵐の日みたいに……」
「――あの日は酷かったですなぁ……。売り上げ日報をボスに出しに行った時に、睨み殺されると思いましたぞ、ワタクシ……」
そう言うと、その時の事を思い出したのか、ブルリと身を震わせるスマラクト。イクサとシーリカは、彼の様子を見て、色々と察した。
イクサは、客がいなくなってガランとした店内を見回し、ふたりに声をかける。
「……じゃ、ちょうどいい時間だから、お昼回ろうか。――シーリカちゃん、一番先にどうぞ」
「え……。ああ、あたしはまだ大丈夫ですよ、イクサ先輩」
シーリカは、眼鏡の奥の蒼い瞳を一際大きくして、ブンブンと首を横に振った。
が、その途端に、グウ~と、彼女のお腹が大きな音を立てる。
「あ……!」
シーリカは、呆然とした後に、顔を真っ赤にし、お腹を抱えて俯いた。
スマラクトが思わず噴き出した。
「ブフフフ――いやいや、シーリカちゃん、口と違って、身体は正直ですなあ! ――なんちゃって! ブフフフウフッ!」
そんなスマラクトを涙目で睨みつけるシーリカ。
「……スマ先輩……セクハラで訴えますよ……!」
「ブフフフ……フゥッ?」
スマラクトの笑い声が途切れた。彼は、慌てた顔で釈明を行う。
「い……イヤイヤ! コレは違うのですヨ! コレは、タダの同僚同士のスキンシップ……軽いジョークと言いますか……その……!」
そう言いながら、縋るような目付きでイクサに視線を送るスマラクトだったが、イクサは冷たいジト目で彼に厳しい視線を返す。
「いや、スマラクトさん……。さすがに今のは無いです。年頃の女の子相手にその発言は、上司としてはもちろん、男としても擁護不可ですよ……」
「へ――! いや、その……そういう意味では……決して……その……」
オロオロとして、顔色を赤くしたり青くしたりするスマラクトに、イクサは、咎めるというよりは諭すような口調で言う。
「スマラクトさん……、今後は気をつけて。……もし、ボスに聞かれたら、ホント洒落にならない事になるんで……」
「ひ――! ぼ、ボス……そ、それだけはッ!」
今度は、顔面蒼白になって怯えるスマラクト。身体を直角に折って、シーリカに頭を下げる。
「し……シーリカちゃ……シーリカ殿! この度は、大変失礼致しましたぁっ! 何卒……平にご容赦を……!」
「あ――だ、大丈夫ですよ、スマ先輩! 頭を……頭を上げて下さい! もういいですから!」
そのまま両手をついて、遙か東の神秘的なヴェールに包まれた伝説の国に伝わるという、『ドゥゲズァ』という上級謝罪法を実行に移しかねないスマラクトの勢いに、辟易とした様子でシーリカは言った。
スマラクトは、チラリと上目遣いに彼女を見て、オズオズと言う。
「シーリカ様……このワタクシめを、お赦し頂けるのでアリマスか?」
「――まあ。というか、もういい加減に頭を上げて下さい!」
「は――! ありがたや、ありがたや~!」
「……いや、だから、もういいから……」
イクサは、収拾がつかなくなりつつある状況をどうにかするべく、シーリカの方を向いて言う。
「はい、じゃあ、シーリカちゃん、取り敢えず先にお昼食べてきて!」
「え……でも――」
「ゆっくり食べてきてね。ほらほら」
まだ逡巡している素振りのシーリカの肩を押して、バックヤードの扉の奥へと押し込むイクサ。間髪を入れずに、扉を閉め――ようとしたその時、
――カラン カラン……。
取り付けた鈴を鳴らしながら、入り口の扉がゆっくりと開いた。
「あ――いらっしゃい……ま……」
振り返って、バックヤード扉のノブに手をかけたまま振り返ったイクサは、途中で言葉を失った。
入り口に、白髭を貯えた、矍鑠たる老人が、杖を片手に立っている。
老人は、キョロキョロとカウンターを見回すと、嗄れた声で簡潔に言った。
「――バスタラーズじゃ。シーリカさんを頼む」




