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CASE1-22 「いえ、ありマス!」

 「……商談ですカ」


 マイスの言葉に、ザドクムは途端に顔を曇らせた。モジモジと落ち着かない様子で、背後の半人族(ハーフヒューマー)の面々の方に視線を泳がせる。

 マイスは、営業スマイルは崩さず、こくんと首を傾げてみせる。


「ええ。私達は最初から、“商談”の為に、こちらへ参りましたの。お互いに有意義な取引が出来ると宜しいですわね」

「……ですガ、実を申しまスト……」


 と、ザドクムは言い辛そうに口を開く。


「我々は、人間族とノ関わりを随分と長い間絶っておりまシテ……アナタ達の使う“貨幣”というものとは縁遠い生活を過ごしておりマス故……蓄えが……」

「ああ……それはそうでございますね」


 マイスは困ったように眉根を下げるが、すぐにパッと顔を輝かせた。


「――でしたら、半人族に代々伝わるお宝などは無いでしょうか? それが素晴しいものでしたら、物々交換という方法でのお取引も、喜んで承らせて頂きますわ!」


 マイスはそう言うと、ニッコリと輝く笑顔を見せた。

 ザドクムは、物々交換でも良いと聞いて、明らかにホッとした顔を見せた。


「オ宝……で、ございますか……しかシ、マイス殿のお眼鏡に適うよウナ宝なド、我々の元にあるかどうか……」

「まあまあ、詳しいお話は、集落へ戻ってから致すとしましょう」


 ――ここまでは、彼女の計算通り。あとは、商談の交渉で、半人族(かれら)に古くから伝わるという、水属性の魔晶石を、『フレルナキケン3号』をはじめとした罠・武器類の代価として受け取れば良いだけだ。実に順調に事が運んでいる。


 ……こ(・)こ(・)ま(・)で(・)は(・)。


 ◆ ◆ ◆ ◆


 「まあ……これはこれは……素晴しいお宝がたくさんですわね」


 集落へ戻り、ザドクムの家へと通されたマイスは、目の前に出された、半人族のお宝の数々を目の前にして、その深紫の瞳を輝かせた。


「えエ……。どれもこれモ、わが半人族に代々伝わる、自慢の宝たちでス」


 ザドクムは、胸を張って言った。

 彼が胸を張るのも無理はない。

 半人族サイズの小さなテーブル狭しと積み上げられたのは、幾何学的な模様の金象眼があしらわれた短剣や、精緻な透かし彫りの施された腕輪、紅く光る宝石を嵌め込んだ耳飾りなど。どれも溜息が出るような、美しく稀少な品物ばかりだった。

 だが――。


「……ど、どうしましょう。無いですね……」


 マイスの肩越しにテーブルを覗き込んだイクサが、失望と焦燥を隠せない声色で囁いた。

 そうなのだ。

 彼らの目的である、“手に持つと蒼く光る石”――水属性の魔晶石――が、テーブルの上にうずたかく積まれた宝の中に無いのだ。

 確かに、一目見ただけで、目の前の財宝達がかなりの価値を有するものばかりなのは判ったが、その中に肝心の魔晶石が無ければ意味が無い。

 ……もしかして、マイスが聴いたという噂自体がデマだったのか――?

 そんな、嫌な予感が頭を掠めたイクサは、頭をブンブンと振ってその不吉な考えを吹き飛ばすと、恐る恐るザドクムへ切り出した。


「あ……あのー……、つかぬ事をお伺いしたいんですが……」

「……はイ、なんでしょウ?」

「この半人族の集落に、蒼い石ってありませんか? 手に持つと、蒼く光るっていう、ちょっと特殊な石なんですけど……」

「蒼い石……持つト蒼ク光る……」


 ザドクムは、口元の口髭を撫でながら、首を傾げて考え込む。

 ――が、首を横に振った。


「……いえ、スミマセンガ、我らの宝物に、そんナ不思議な石ハ――有りませンなァ……」

「え――そ、そんな……」


 ザドクムの言葉に、イクサは思わず天を仰いだ。


「……ザドクム様。本当に無いのですか? 蒼い……魔晶石」


 マイスも、重ねてザドクムに確認した。彼女にしては、いつもの余裕が感じられない上ずった声で。

 二人の必死な様子にたじろぎながらも、ザドクムは再び首を横に振る。


「……何度申されましテモ……、無いモノは無――」

「いえ、ありマス! 蒼イ石! アル!」

「――!」


 ザドクムの言葉を遮って、大きな叫び声が上がった。

 ふたりは、弾かれたように声のした方へと振り返る。


「マイスさン、イクサさン! ワタし、知ってル! その石の、あるとこロ!」

「ほ――本当かい、ドヴェリク?」


 目を輝かせたイクサの言葉に、ドヴェリクは大きく頷いて、手招きする。


「石ハ西の端の祠にありマス! ついてきテ!」


 そう言って、彼は外へと飛び出していった。

 マイスとイクサも、顔を見合わせて互いに頷くと、ドヴェリクの後を追って駆け出した。

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