↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
7/11

第6話 社長じゃねぇよ

第六話


「社長じゃねえよ」


夜。


都内某所。


閉鎖された物流倉庫の周囲を、黒い車両が静かに包囲していた。


照明は落とされている。


シャッターは半分開いたまま。


中から音楽が聞こえる。


やたらと重低音の効いたパンクロック。


黒崎がイヤホンへ手を当てた。


「対象を確認」


ホオズキが倉庫の隙間から中を見る。


「ほんとにいる?」


「いる」


「また偽物じゃなく?」


「今回は本人だ」


久世の声が無線から返ってくる。


『周辺カメラ、携帯基地局、車両記録は全部切って確認しました。今回は外部データじゃありません。現地監視です』


「よし」


ホオズキが拳銃を抜く。


「じゃあ殴れるね」


黒崎。


「撃て」


「殴っちゃ駄目?」


「まず撃て」


「注文多いなあ」


倉庫内部。


巨大な男が一人。


ジャック。


屈強な肉体。


革ジャン。


破れたシャツ。


太い腕。


その手にはコンビニのサンドイッチが握られていた。


足元にはコンビニ袋。


ジャックはスマートフォンを眺めながら、サンドイッチを食べている。


画面には配送アプリ。


《プレミアム血液便》


ジャック。


「……値上げしてんじゃねえか」


その瞬間。


倉庫の照明が消えた。


暗闇。


ジャックが止まる。


「……あ?」


次の瞬間。


閃光。


特殊閃光弾。


炸裂。


ヤタガラス突入。


「ヤタガラス! 動くな!」


ジャック。


「うおおおおおお!?」


猛烈な銃撃。


銀弾。


ジャックは鉄骨の陰へ飛び込む。


弾丸がコンクリートを砕く。


「いきなり撃つなよ!」


ホオズキ。


「前に逃げたから!」


「今回は逃げねえよ!」


「信用できるか!」


「傷つくなぁ!」


ジャックが鉄製ラックを両手で持ち上げる。


黒崎。


「来るぞ!」


ジャック。


「おらあああああ!!」


巨大なラックが飛んでくる。


ヤタガラス隊員が散開。


ラックが床へ激突する。


凄まじい轟音。


ホオズキ。


「うわ、馬鹿力!」


ジャック。


「吸血鬼だからな!」


「知ってる!」


ホオズキが走る。


銀弾を連射。


二発。


三発。


ジャックの肩と腹へ命中。


煙。


焼ける肉。


普通の吸血鬼なら動きが止まる。


しかし。


ジャックは笑った。


「効く効く!」


ホオズキ。


「効いてるなら止まれ!」


「嫌だね!」


突進。


床が揺れる。


ジャックの拳。


ホオズキがぎりぎりでかわす。


背後の木箱が粉砕される。


「殺す気!?」


「銀弾撃ってる奴が言うな!」


「こっちは仕事!」


「俺も仕事!」


「何の仕事だよ!」


「営業!」


「営業が鉄骨投げるな!」


ジャックが鉄パイプを掴む。


「営業にも色々あんだよ!」


「そんな営業あるか!」


黒崎が横から射撃。


銀弾がジャックの脚へ命中。


ジャックが膝をつく。


それでも。


「まだまだぁ!」


立ち上がる。


隊員二人をまとめて吹き飛ばす。


黒崎。


「タフすぎる!」


ホオズキ。


「脳筋だから!」


「関係あるか?」


「気合いで生きてそう!」


ジャック。


「褒めんな!」


「褒めてない!」


再び激突。


十数分後。


倉庫はほぼ廃墟になっていた。


壊れた棚。


砕けた床。


転がる薬莢。


銀弾を何発も受けたジャック。


息は荒い。


服はぼろぼろ。


だが。


笑っている。


「やっぱお前ら面白えな」


ホオズキも肩で息をしている。


「私は全然面白くない」


「そうか?」


「修理代考えたら泣きそう」


「会社持ちだろ?」


「そういう問題じゃない」


ジャックが笑う。


「じゃ、そろそろ逃げるか」


「逃がすか!」


ジャックが出口へ走る。


黒崎。


「ホオズキ!」


「はいはい!」


ホオズキが拳銃を投げる。


そして。


走る。


ジャックが振り返る。


「銃捨ててどうす――」


ゴッ。


ホオズキの拳が。


ジャックの顎へ直撃した。


沈黙。


ジャックの巨体が一瞬浮く。


そして。


ドォン。


床へ倒れた。


黒崎。


「……」


隊員たち。


「……」


ホオズキが拳を振る。


「痛ったぁぁぁぁぁぁ!!」


黒崎。


「だから撃てと言っただろ」


「こいつ顔硬い!」


「吸血鬼だからな」


「そういう問題!?」


倒れているジャック。


完全に気絶していた。


---


数時間後。


ヤタガラス本部。


尋問室。


机。


椅子。


手錠。


銀製拘束具。


そこにジャックが座っている。


頭には巨大な保冷剤。


向かい側。


ホオズキ。


黒崎。


久世。


三人。


ジャックが保冷剤を押さえる。


「痛え……」


ホオズキ。


「私は手が痛い」


「殴った側が言う?」


「顔硬すぎ」


「筋肉だからな」


黒崎。


「顔に筋肉は関係ない」


ジャック。


「そうなの?」


久世。


「知らなかったんですか」


「俺、頭使う仕事じゃねえし」


三人が黙る。


ジャック。


「なんだよ」


黒崎。


「いや」


久世。


「特には」


ホオズキ。


「納得しただけ」


「腹立つな」


ホオズキが資料を机へ置く。


「NIGHT SHIFTの目的は?」


ジャック。


「知らん」


即答。


ホオズキ。


「……」


黒崎。


「もう一度聞く」


「知らん」


「お前、幹部だろ」


「そうだな」


「なら目的くらい知ってるだろ」


「細かいことはミレイユが決めてる」


ホオズキ。


「組織のリーダーだろ」


「違う」


沈黙。


ホオズキ。


「……違う?」


ジャックが心底不思議そうな顔をした。


「俺に組織運営できると思う?」


沈黙。


黒崎がホオズキを見る。


ホオズキも黒崎を見る。


久世も二人を見る。


誰も答えない。


ジャック。


「おい」


ホオズキ。


「……まあ」


黒崎。


「難しいだろうな」


久世。


「かなり」


「即答すんな!」


ホオズキ。


「じゃあ何なの?」


ジャックは胸を張った。


「営業部長」


沈黙。


「……営業?」


「営業部長」


「あなたが?」


「俺が」


ホオズキがジャックを見る。


筋肉。


革ジャン。


銀弾痕。


壊れた拘束椅子。


保冷剤。


ホオズキ。


「営業部長?」


「営業部長」


黒崎。


「どういう営業をする」


「新規顧客の開拓とか」


久世。


「吸血鬼の?」


「そう」


「血液サービスの?」


「そう」


ホオズキ。


「名刺ある?」


「あるぞ」


ジャックがポケットへ手を伸ばそうとする。


拘束具。


届かない。


「取って」


黒崎。


「動くな」


黒崎が革ジャンの胸ポケットを探る。


本当に名刺が出てくる。


黒地に白文字。


《NIGHT SHIFT》


《営業部長 JACK》


黒崎。


「……本当だ」


ホオズキが名刺を受け取る。


「ちゃんとしてる」


ジャック。


「社会人だからな」


久世。


「ちなみに営業成績は?」


ジャック。


「先月一位」


ホオズキ。


「嘘でしょ」


「俺、営業向いてんだよ」


「どうやって契約取るの?」


ジャック。


「笑顔」


三人。


「……」


ジャック。


「なんだその顔!」


ホオズキ。


「怖い」


黒崎。


「威圧だな」


久世。


「断れないだけでは?」


「失礼すぎるだろ!」


ジャックが拘束具を鳴らす。


ホオズキ。


「じゃあ社長は誰?」


ジャック。


「ミレイユ」


空気が変わった。


久世の指が止まる。


黒崎。


「ミレイユ?」


「ミレイユ・ヴァイス」


ホオズキ。


「誰それ」


ジャック。


「うち作った奴」


沈黙。


ホオズキ。


「……最初からその人探せばよかったんじゃない?」


ジャック。


「俺に言われても」


「もっと早く言いなさいよ!」


「聞かなかっただろ!」


「普通、一番最初に社長名乗るでしょ!」


「俺、社長じゃねえよ!」


「知らないよ!」


「だから今言ってんだろ!」


黒崎が机を叩いた。


「二人とも黙れ!」


静かになる。


ホオズキとジャックが同時に黒崎を見る。


黒崎。


「久世」


「はい」


「ミレイユ・ヴァイスを洗え」


久世が端末を開く。


「検索します」


数分。


何も出ない。


戸籍。


企業登記。


SNS。


公共記録。


顔認証。


該当なし。


久世。


「表の記録にはほぼ存在しません」


ジャック。


「そりゃそうだろ」


三人がジャックを見る。


「何?」


ホオズキ。


「何か知ってる?」


「いや」


「じゃあ喋るな」


「暇なんだよ」


久世が過去の作戦映像を呼び出す。


NIGHT SHIFT関連事件。


ライブハウス。


倉庫。


配送拠点。


路地。


カフェ。


地下駐車場。


数百時間分の映像。


久世。


「人物検索をかけます」


AI解析。


顔。


歩行。


体格。


服装。


行動パターン。


候補が次々と排除される。


そして。


一人。


同じ女性。


最初の映像。


ライブハウス。


カウンターの奥。


店員。


次の映像。


事件現場近くのカフェ。


客。


次。


道路。


通行人。


次。


物流拠点。


配送業者の制服。


次。


駅。


ベンチに座ってスマートフォンを見ている女。


久世が映像を拡大する。


「……いました」


ホオズキが画面を見る。


「この人?」


ジャック。


「ミレイユ」


黒崎。


「全部同一人物か」


「はい」


久世がさらに映像を並べる。


どの現場にもいる。


だが。


戦っていない。


逃げてもいない。


誰かへ指示する姿もない。


ただ。


いる。


普通の人間として。


背景に。


黒崎。


「最初から……」


久世。


「全部見ていた」


ホオズキが最初のライブハウス映像を見る。


そこにも。


いた。


カウンターの端。


グラスを拭いている女。


誰も気にしていない。


誰も見ていない。


ホオズキ。


「……近っ」


久世。


「三メートルです」


「私、この横通ってる」


「はい」


「二回」


「はい」


黒崎。


「気付かなかったな」


ホオズキ。


「黒崎も横通ってるじゃん」


黒崎。


「……」


「ねえ」


「黙れ」


ジャックが笑う。


「ミレイユそういうの得意だから」


ホオズキ。


「何?」


「目立たない」


「美人なのに?」


「美人とか関係ねえよ」


「あるでしょ」


「仕事中に何見てんだよ」


「あなたに言われたくない」


その時。


久世の端末が鳴った。


別班からの連絡。


「……NIGHT SHIFT拠点、撤収を確認」


黒崎。


「いつだ」


「今です」


「人数は?」


「ゼロ」


「ゼロ?」


「完全撤収されています」


ホオズキ。


「また?」


久世。


「違います」


画面を見る。


倉庫。


事務所。


サーバー。


車両。


痕跡。


すべて消えている。


「今回は偽情報じゃありません」


黒崎。


「逃げたか」


久世。


「恐らく」


その瞬間。


尋問室の電話が鳴った。


全員が止まる。


プルルルル。


プルルルル。


ホオズキ。


「……誰?」


久世が表示を見る。


「非通知」


黒崎。


「出ろ」


「私?」


「お前の席にある」


「理由雑」


ホオズキが受話器を取る。


「もしもし」


女性の声。


静かな声だった。


『初めまして、九条ホオズキ』


ホオズキの表情が変わる。


久世が即座に通信解析を開始。


黒崎が録音を指示。


ホオズキ。


「……あんたがミレイユ?」


『そう』


尋問室。


ジャックが顔を上げる。


ホオズキはジャックを見る。


「部下返す?」


ジャックが猛烈に頷く。


何度も。


何度も。


お願いします。


そんな顔。


ホオズキ。


「すごい返してほしそうだけど」


電話の向こう。


一秒。


『別にいらない』


ジャック。


「おい!!」


ホオズキが吹き出す。


黒崎が顔を背ける。


久世の肩がわずかに震える。


ジャック。


「おいミレイユ!!」


『聞こえてる』


「聞こえてんなら助けろ!」


『拘束されているのはあなたの判断ミス』


「冷てえ!」


『それと倉庫を一つ壊したそうね』


「ヤタガラスも壊した!」


ホオズキ。


「半分以上あなた」


「お前も壁壊しただろ!」


「一枚だけ!」


黒崎。


「静かにしろ!」


電話の向こうで。


ミレイユが小さく息を吐く。


笑ったのかもしれない。


ホオズキ。


「で?」


表情が戻る。


「何の用?」


『挨拶』


「わざわざ?」


『ええ』


久世が画面を見る。


発信元。


次々と変わる。


追跡できない。


ホオズキ。


「こっちはずっとあんた探してた」


『知ってる』


「知ってた?」


『見ていたから』


沈黙。


ホオズキ。


「悪趣味」


『そうかもしれない』


「何がしたいの?」


ミレイユはすぐには答えなかった。


数秒。


そして。


『あなたたちは勘違いしてる』


ホオズキ。


「何を?」


『私はヤタガラスを倒したいわけじゃない』


黒崎が目を細める。


久世が録音波形を見る。


ジャックは保冷剤を頭に乗せたまま、黙っている。


ホオズキ。


「じゃあ何」


ミレイユ。


『使いたいだけ』


静寂。


ホオズキの目から笑みが消える。


「……は?」


通話が切れた。


ツー。


ツー。


ツー。


久世。


「切断されました」


黒崎。


「追跡は」


「無理です」


ホオズキは受話器を置かない。


しばらくそのまま立っていた。


やがて。


ジャックを見る。


ジャック。


「……何?」


ホオズキ。


「あなた、何か知ってる?」


「知らん」


「本当に?」


「俺、営業部長だぞ」


沈黙。


黒崎。


「説得力があるのが腹立つな」


久世。


「ですね」


ジャック。


「なんでだよ」


ホオズキがようやく受話器を置いた。


壁のモニター。


そこには。


過去の事件現場に紛れ込んでいた、


ミレイユ・ヴァイスの顔。


ずっと探していた敵。


その敵は。


ずっとこちらを見ていた。


ホオズキが画面を睨む。


そして呟く。


「使うって……何に?」


誰も答えない。


ジャックだけが。


保冷剤を頭に乗せたまま言った。


「俺、そろそろ帰っていい?」


三人。


「駄目」


「だよな」


夜は。


まだ続いている。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。