001:チュートリアル ~ワールド・コネクト~
桜ちゃんの部屋でゲームPVを見終わって。
「どうだったこころぉ? 私イベントシーンに選ばれたんだお~!」
ドヤ顔で胸を張る桜ちゃんに向き直った。
いや色々気になることはあるけどさておき。
「面白いのってこういう意味だったんだね、でもなんで桜ちゃんが? ああいうビデオって運営さんが全部作るんじゃないの?」
とりあえず一番気になるのはそこだよ!
「んふふ! それこそイカオスの特徴の1つなんだよ! イベントシーンはプレイヤー個別だったりレイド戦闘だったりって色々あるんだけど、その中でこれは! っていうプレイヤーのイベントシーンがゲームのPVとかアニメで使われるの! 今回のはベータテスト最後の戦いのやつだねぇ。ボロ負けしましたが!」
「あ、あの後負けたんだ」
負けたというわりにはスッキリした顔で桜ちゃんは言う。
でもそっか、それは確かに面白い仕様かも。
さっきのPV、あれがプレイヤーの行動で造られたって聞くと、一気に現実感というか没入感が増す気がするし、それでこそ没入型VRって感じだ。
「いやあれは量産型のギガントギアじゃ絶対勝てないって。私も専用機がないと正直戦いにならないよ!」
「ギガントギア? 専用機?」
「おっとごめんゲーム用語ね。ギガントギアってのはあの巨大ロボットね、一応ゲーム公式設定だと悪の首領ヘルエルの操るヘルギアに対抗するため人類が生み出した叡智の結晶……ってなってるけど、いや全然ヘルギアに及ばんがな! ゲーム始まったら早く専用機欲しいよぉ!」
うがーっ、と頭に手を当てて吠える桜ちゃん。
まぁベータテストの段階でラスボス討伐はできない仕様の負けイベントだったんだとは思う。
でもそれでも勝ちたいって思うのがボクの幼馴染だもんね。
ボクは桜ちゃんの頭を撫でながらどうどうとあやす。
と、つけっぱなしだったテレビから次の動画が自動で再生された。
今度は見た感じよくある中世ファンタジー世界かな?
「あーフカオスかぁ。これも興味はあったんだよねぇ」
「フカオス? なんかイカオスと似てるね?」
ボクのなでなでよりテレビのPVで落ち着きを取り戻した様子に若干不満を抱きつつ。
画面を見る桜ちゃんの目は惜しかったなぁと語っていた。
「うん、『ファンタジア・カオス・ワールド』で、通称フカオス。VR技術を開発した謎の企業が同時に発表したもう1つのゲームだよ」
「もう1つって……同時に2つも発表して競合しちゃわないの?」
「大丈夫だよぉ。没入型VR技術なんて今あそこの一強だし、それに剣と魔法の王道ファンタジーか魔法少女と巨大ロボットの近代アクションかで需要もわかれてるからね」
「こう聞くとイカオスの属性盛り過ぎでしょ」
よく需要がわかれたな。
というか今気付いたけどイカオスって魔法少女になって戦うんだよね?
だとしたら男性の方はいったい……いや考えるのはよそう、明日にはわかることだ。
その後、これまで公開されたゲームPVを桜ちゃんと一緒に全部視聴して、所々解説が入りつつ大体はイカオスの世界観を理解した。
レベルとかそういうのはなくて、本当にその世界で魔法を学びつつ、定期的に訪れる侵略に備える。
そしていざ侵略が始まったら魔法少女全員での超大規模戦闘が世界中のあちこちで展開されると。
なんだそれ、王道ファンタジーでいう魔物の大侵攻みたいなのが定期的に起きるってことじゃんか。
うーんまさに無限の混沌世界だね。
帰り際。
「そうそう、忘れるとこだった。これが専用のVRギアね。これがないとパッケージあっても遊べないから」
「VRギア……ねぇ、これってすごく高いんじゃ?」
キラキラした目でリリースを心待ちにする桜ちゃんがボクにVR装置を渡してきた。
でもこれって今パッケージ以上に入手困難ってニュースで見たような。
「平気平気。これベータテスト最後のイベントシーンで公式に起用された特典だから。パッケージはベータ参加者全員貰えるけど、VRギアまで貰ったのは私だけなんだぞ!」
「桜ちゃん……ありがとう! 大好き!」
「きゃっ、もうこころぉ~」
なんでもない風にドヤる桜ちゃんの気遣いが嬉しくて思わず抱き着いちゃう。
特典で貰ったからって、売ればきっと凄い額になるはずなのに。
桜ちゃんに頬ずりしてスキスキアピールしながら、ボクは明日、用事が終わったら速攻起動して桜ちゃんと遊ぶと胸に誓った。
待ってろよイカオス!
それと悪の首領ヘルエル!
ボクと桜ちゃんが魔法少女になって突撃するからなぁ!
――しかし、世の中そう上手くはいかない。
楽しみにすればするほど、翌日の用事というのは長く感じるもので。
ボクがようやくすべての用事を済ませて自室に滑り込んだときには、時計の針はすでに夜の7時を回っていた。
リリースから実に10時間遅れ。
ちくしょうぉ!
本当なら朝から……いやいいからはよログインしよう。
こんな思考する時間すらも勿体ない。
ご飯もお風呂も歯磨きも済ませた、あとは寝るだけの状態だから数時間はプレイできる。
明日は日曜だしちょっと遅くなってもいいくらいだ。
ボクは貰ったVRギアを早速頭にセットして横になった。
パッケージに入ってたソフトも挿入した、ちゃんとイカオスだ。
「ワールド・コネクト」
起動の合言葉を唱える。
瞬間。
ボクの意識は暗闇へと沈んでいったのだった。




