プロローグ
天空より星が来る。
無数の光を放つ星々は群れを成して落ちてくる。
この暗い夜空を照らすように。
風を斬って音を奏でるように。
シャンシャン、シャンシャンと。
鈴を転がすような綺麗な音だった。
「……来たか」
私の敵の、到来だ。
◆
「……『インフィニティ・カオス・ワールド』?」
学校の帰り道。
まだ冬が抜けきってなくて肌寒さを感じる頃。
おしるこを飲むボクに幼馴染の桜ちゃんがそのパッケージを見せてきた。
「そう! これは人類初の没入型VRゲームなの! ただ頭につけて動くやつじゃなくて、本当にその世界に飛び込んで遊べるまさに次世代のゲームなんだよ!」
「ほへ~」
興奮気味に話す桜ちゃんは嬉しそうにパッケージをグイグイ強調してくる。
タイトルの他には魔法少女っぽい女の子たちとその背後に巨大なロボット……うーん世界観がわからん。
「没入型VRって、最近よくニュースになってるやつだよね? 開発元の企業が謎過ぎるっていう」
「謎でもなんでも私は一向にかまわん! ようやくだよぉ、ようやく念願のガチVRが世界に誕生したんだお~!」
「ホント嬉しそうだね」
桜ちゃんは遂にパッケージに頬ずりまで始めた。
涎が付着してテカテカ反射してる。
ボクはゲームとかあまりやらないけど、桜ちゃんが楽しそうなのは見てるとボクも楽しい。
だから一緒に遊ぶときも横で桜ちゃんのゲーム見てたりすることが多いんだよね。
「あ、そしてこれがこころの分ね! 一緒にゲームしよ!」
「は?」
差し出されたパッケージを見る。
よかった涎のついてないほう……ってそうじゃなくて。
「いやいや! ボクがゲーム苦手なの桜ちゃんも知ってるでしょ!? 最新鋭どころか次世代をいくゲームとか絶対無理だって!」
「そうかなぁ?」
「そうだよぉ!」
唇をタコみたいに尖らせながら「そうかなぁ?」を繰り返す桜ちゃん。
あ、これはダメだ、完全に押し通す気満々の桜ちゃんだ。
「でもこころがゲーム苦手なのってあのコントローラー操作する感じがダメだからでしょ? これは没入型だから平気だって!」
「む……そう言われると確かに?」
桜ちゃんの言う通り、ボクがゲームを触らないのはあのコントローラーかちゃかちゃがどうも気になってしまうからだ。
ボタンを押したら前へ進むってなに?
同じくボタンを押したらジャンプするってなに?
人体の理屈が意味を成してなくて吐き気しそう。
「そっか。次世代の没入型のゲームだからこそボクでもできそうって思ったんだね。でもそんなにボクとゲームしたかったの?」
「私ね、魔法少女が大好きなの」
「あ、うん。そうだったね」
急に穏やかな笑みを浮かべて自己宣告する桜ちゃん。
そうだよ、桜ちゃんはプ〇キュアとかそういうの大好きな女の子なんだよ。
さっき見たパッケージにも魔法少女っぽい子が映ってたし……なぜか巨大ロボも背後にいたけど。
でもそっか、そういうことなら。
「うん。一緒に遊ぼっか桜ちゃん」
「やったねっ! 遂にこころの魔法少女姿が拝めるぞぅうへへへ」
「ボクも桜ちゃんのガン見するからね」
チェシャ猫みたいな目をして涎を垂らす桜ちゃんに言っておく。
そっちがガン見するならこっちだってガン見の構えだ。
「それでこのゲームっていつリリースするの? っていうかどんなゲーム?」
「イカオスね、『インフィニティ・カオス・ワールド』で通称イカオス。リリース日は明日の朝だよ!」
「明日!? ボク明日は昼間用事があるんだけど……」
「なんですと……!?」
「ごめんね、帰ったらすぐ始めるから」
「うーん仕方なし! それならこれから私の部屋でゲームのPV見ない? ベータテストには私も参加してたから面白いの見れるよぉ?」
「面白いの?」
再度チェシャ猫みたいな目をしてニシシと笑う桜ちゃんに着いていく。
そっか桜ちゃんはベータテストに参加してたんだね、だからパッケージ2つ持ってたのか。
今までもそういうことは何度かあったからボクでもわかる。
けどその2つ目のゲームも大抵はボクがやらないからお蔵入りだったんだよね。
今回は没入型だし、とことん桜ちゃんに付き合おう。
そうして桜ちゃんの部屋まで辿り着くと、早速桜ちゃんはゲームPVを備え付けのモニターで流し始めた。
何気にお金持ちな桜ちゃん、ボクも部屋にテレビが……いやリビングで見るからいっか。
映像は、近代的な夜の都市を上空から見下ろす形で始まった。
なにやらあちこちで爆発音や炎の赤色が昇る様子が見られる。
なんだか如何にも侵略を受けてますって感じだ。
ナレーションが始まる。
綺麗な女の人の声だった。
ふむふむ……長年悪の首領ヘルエルに侵略を繰り返される世界で、魔力を持つ女性達が魔法少女となって対抗すると。
定期的に襲い来る軍勢の侵略と、対抗する力を備える魔法少女たちの日常。
この侵略と日常の時間が明確にわかれるのがこのゲームの特徴みたいだね。
昨今のMMOだと敵と戦いたかったらフィールドに出ればいいから、こういう戦闘と準備期間でターン制みたいなのは珍しいかも。
あ、巨大ロボットでた!
杖とか剣を持ってる。
あの巨大ロボットって敵の怪獣が大きいときに使うんだね、近代的な都市設定だからこそメカも出せるわけだ。
場面が切りわかる。
荒れる夜の都市なのはそのままに、大きなビルの屋上で純白に金の装飾をした騎士みたいなデザインのロボットが映し出された。
すごい、正義のヒーローだ。
背中でキラキラ輝く粒子が翼みたいに広がって、夜の都市に一層綺麗に映えている。
その純白の騎士ロボットが見上げる夜空には無数の流星が色んな輝きを放ちながら落ちていた。
……いやあれ落ちてるっていうか真っ直ぐ騎士ロボットさんに降って来てない!?
『……来たか』
シャンシャン、シャンシャンと鈴のような音を奏でながら無数の流星が都市中に着弾する。
シャァァァン……と、激突音の代わりに聞こえたのはそんな音で、同時に光が霧散し周囲に纏わりついた。
ていうか今騎士ロボットさん喋ったよね?
すごいイケボで喋ったんだけど!
声優さん誰だろう……あれ、載ってない。
『決戦の時だ、ヘルギア! ……いや、悪の首領ヘルエル!』
……ん?
なんか今聞きなれた声が聞こえた。
純白の騎士さん……ではないな?
落ちてきた流星から現れたなんか無骨な紺色の巨大ロボットたち、その一機から聞こえた。
騎士さんの機体と違っていかにも量産型ですって感じだ。
それが純白の騎士さん目掛けて杖とか剣を構えてるんだけど……え?
『魔法少女サクラ……また私の前に立ち塞がるか』
『当然! 世界の平和を守るため、私は何度だって挑み続けるよ!』
んんっ!?
魔法少女……サクラ!?
え、今サクラって言ったの!?
そうだこの声ってくぐもってるけど桜ちゃんのじゃん!
ていうかあの純白の騎士さんが敵の親玉なんかーい!
なんでそんな正義のヒーローみたいなデザインしてるの!?
うわーでも、都市のあちこちで破壊と怒号が飛び交う中、流星となって降り立つ魔法少女たち……いや巨大ロボットだけど。
なんかかっこいいじゃん!
こんな最終決戦みたいなPVに桜ちゃん出演してるんだぁ……いやなぜ?
『やはりお前たちは……私の敵だ』
純白の騎士さん……悪の首領ヘルエルが空に舞い上がり背中の粒子を大きく吹き荒らさせた。
あ、もう戦闘始まる感じ?
光の粒子は画面を覆い尽くしていき……
『インフィニティ・カオス・ワールド』
タイトルが浮かんで終了と。
え、戦いの結末は?
そこはっきり見たいんだけどぉ!?
こんなプロローグはあんまりだ!




