013:診療所 ~診療所とマイハウス~
翌朝。
昨夜は寝る前に桜ちゃんにおやすみの挨拶を兼ねてメールしたんだけど、どうやらまだゲーム中だったようでボクの進捗も話せなかった。
そして現在朝のあれやこれやを終えてイカオスにログインする前におはようメールを送ったんだけど、どうも既にゲームの中らしい。
桜ちゃん相当イカオスに嵌ってるなぁ。
……まさか昨日の晩から不眠とかないよね?
いやいやまさか、桜ちゃんは昨日の朝からインしてるんだからそんなまさかね。
「……インしたらゲーム内チャットでもおはようメール送ってみるか」
幼馴染の現状を気にかけつつ、ボクもVR装置を頭につけてベットに横になる。
「ワールド・コネクト」
起動の合言葉を口にして、さぁ今日もイカオスやっていきますか!
◆
ボクの心配は空振りし、ログインして確認したらサクラちゃんはちゃんと2時には寝たらしい。
……ちゃんと?
うん、まぁこれからも羽目を外すようならボクからおじさんおばさんにチクるから大丈夫だよ。
さて今日もサクラちゃんはお師匠さまにビシバシ扱かれてるらしいから合流にはもう少しかかりそう。
ボクもボクでこたつ師匠から診療所兼マイハウスを貰えるってことで気になるし、まずはそっちの確認から始めようかな。
今日は星を追いかけたくない気分なので昨夜師匠に言われた通りにマジステを取り出して、命の楽園に繋がる転移魔法を起動する。
ちちんぷいぷいっとね。
詠唱?
特にないのがこの世界の魔法なんだなぁ。
イメージだよイメージ。
惜しむべくはこの転移魔法、命の楽園に入るのと出るのには使えるんだけど、他の用途ではどこにも転移できないってことなんだよね。
まぁそもそもが昨夜の別れ際に師匠が押し付ける感じで習得した魔法だから、自力で覚えたっていうにはちょっと違うしそんなもんなのかも。
感覚としてはキャラ作成のときの秩序の女神さまと似たような感じ?
いつかは縛りのない転移魔法を覚えたいものです。
とか思ってるうちに視界が変わって、やってきたよ命の楽園。
今日は星を追いかけてない、師匠を見つけたら名誉のために言っておく。
昼間の今は昨夜と違って煌めく花々の鱗粉が太陽の光に照らされてよく見える。
これもまた綺麗だ……。
「来たねこころ君。待ってたよ」
「あ、師匠。今日は星追いかけてないからね! おはようございます!」
「うん、元気なのはいいことだ。付与した転移魔法も使えたみたいでよかったよ」
「それだけど師匠、あの転移魔法ってここ以外にはやっぱり飛べないの? 完全版とかある?」
「うーん転移魔法自体僕以外使える人はいないからね。こころ君に付与したのは特別であって、完全版まで覚えさせる気はないかな」
「相変わらず謎にスペック高いんだよなぁこの師匠……」
師匠以外使える人いないって、なんでそんなもんを師匠が覚えてて、なおかつ簡単に他人に覚えさせられるの?
もうボクこの師匠なら悪の首領単独で倒せるんじゃないかとさえ思えてきたよ。
けどそういう突っ込んだところは教えてくれないんだろと胡乱気な視線で師匠を見つめてみる。
いや、なにクスクス笑てんねん。
「さぁ、僕もこう見えて暇じゃなくってね。早いとこ診療所を案内してしまおう。手を出して、転移魔法の転移先追加するから」
「さらっととんでもないこと言わないでくれます? 転移魔法が凄いのか軽いのかわからんくなってきた」
文句を言いつつも差し出せば、師匠の手の中に現れた光の玉がスッとボクの手の中に吸い込まれていく。
手を出させたのはボクが女の子だからか。
どこかの秩序の女神さまは胸に押し付けてきたけどね。
あいつどさくさに紛れて魔法少女にセクハラしてない?
まさか魔法少女(野郎)にも同じことを……いやそれは喜ばれそうだな。
〈転移魔法の転移先が追加されました〉
そして現れるシステムウィンドウ。
どうやらあっという間に新しい転移先を覚えたらしい。
「よし、それじゃあとはよろしくね」
「は?」
どういうこと──と聞こうとして、瞬間、視界が変わる。
幻想的な花畑から切り替わった視界の先に広がるのは1軒のログハウスと大きな庭。
池やら普通の花やらど真ん中に東屋やら、荒れている様子もなくよく手入れされた場所に思える。
けど、うん。
師匠がいないね?
「いやそんなに診療所に来たくないの!? 案内するって言ったじゃん!」
確かに何回も診療所には行かないけどねって言ってたけどさ!
最初くらいこうなんかあるじゃんか、ここ師匠の家なんでしょ!?
ピコンッ
〈診療所兼マイハウスを獲得しました。所有者:こころ〉
やかましいわっ!
計ったように現れたシステムウィンドウに思わずツッコミをいれる。
けど大きく振りかぶった手はただスカッと通り過ぎるだけだった。
あ~もうこうなったらあれだ、貰えるものを貰ったと喜んでおこう。
どうせ今命の楽園に戻っても師匠は姿を消してるんでしょうし。
師匠の愉快そうな笑い声が聞こえた気がした。
ふぅ、と1つ、息を吐いて気を取り直し、改めてマイハウスの確認をする。
まずログハウスの中に入れば暖炉やら毛皮の絨毯やら、こういうの好きな人は好きなんだろうなって趣きの内装だった。
ただベットが見当たらなくてあの人やっぱり人間じゃないから寝る必要ないのかと思ったけど、よく見たらなんか布が張ってあって、あれが所謂ハンモックであると理解する。
よかった流石の師匠でも寝る必要はあるらしい。
と、思ったら置手紙。
『ハンモックはこころ君用に用意しました。僕は睡眠したことないので未使用だから安心してね』
あの人やっぱり人間じゃねぇわ。
てか置手紙あるってことは1回ここに来てんじゃねぇか!
なぜ……なぜ……と思いつつ、未使用の寝床を用意してくれたのには感謝する。
まぁボクも来訪者だからログアウトするときこの世界から消えるんだけどね。
調理器具や薪なんかもすべて用意されているのを見て、あれだけ来たがらなかったのにボクのために色々用意してくれてたんだなと思うと素直に感謝の念が湧く。
どれも来訪者的には趣味の範囲を出ない代物だけど、没入型だからこそこれを機会に触ってみるのもありかなと思った。
ログハウスを見終わって、次は庭の確認だ。
まず池だと思ったのは泉だった。
底から水が湧いているようで、それが庭の花々に流れてるのか水やりは不要っぽい。
その花々に関してはやっぱり普通の花だった。
命の楽園にあるような魔法的なのではないね。
中央には西洋風の東屋があって、石畳で花畑の中に道が造られてる。
ログハウスから見て一直線に東屋と、その更に先には門。
診療所を開くならあの東屋で回復魔法を行使することになりそうかな?
一通り見て周って、ボクは門の前でマイハウスを振り返った。
ここが師匠のお願いである診療所にもなるんだ。
サクラちゃんと合流するまでまだ少しかかりそうだし、それなら早速診療所、オープンしてみっか!




