戦への覚悟
ナタシアとジーマは睨み合い、ジリジリと距離を詰める。
それはまるで、武士同士の居合切りを見ている気分だった。
どちらが先に出るか、それは見ものだった。
「ウィンドデストラクションッ!」
先に撃ちだしたのはナタシアだ。
さっきジーマに放った槍のような突風の魔法だ。
「バカめ!その魔法は既に見切っている!」
ジーマは自分の体全身をゴムのように伸ばし風をすべて受け止めて、すぐに元の体制に戻りナイフを持って、ナタシアに斬りかかる。
「ナタシア!そいつは触れたもの自分を含めてすべてゴムのようにさせて無力化させる能力がある!」
直幸はナタシアに、ジーマの能力を伝える。
ナタシアは「ありがとう」と言って次の魔法を唱えた。
「アイシングミサイル!」
ナタシアの付近の空中から無造作に氷の刃が発射される。
ジーマはぐにゃぐにゃと自分の体を能力で操って次々にミサイルを避けていく。
着弾したミサイルは氷の塊ができた。
「魔法だけで僕に勝とうだなんて、無理無理。僕は上級騎士だよ?そんな簡単な魔法で僕が倒せると思っているの?」
ジーマは、ナタシアに見下した言葉を吐いた。
ナタシアは冷静に、ジーマ、つまりターゲットだけを注目し、次の魔法を放とうとした。
だがジーマはとても素早く、ナタシアに距離を詰めていた。
「フラッシュッ!」
「無駄だぜ!効かないね!」
ジーマは腕で自分の目を隠して感覚だけでアイシングミサイルを避け、ナタシアに近づいた。
そしてジーマはナタシアの腕を掴んだ。
掴まれた腕はゴム化し、ナタシアの腕は既にぐにゃぐにゃになっていった。
「勝ったぞ!ここでお前は終わりだ!」
ナタシアはそれでも表情一つ変えなかった。
何か、策を考えているのか何も喋らなかった。
「絶望したのかなぁ?絶望して感情を失ったのかなぁ?残念だぁ!」
ジーマが勝ち誇っていると、ナタシア「ッフ」と少しだけニヤリと笑った。
ナタシアの地面を見るとアイシングミサイルが着弾した後のような氷の塊がジーマの足を凍らせていた。つまり、今のジーマは足が固定され、動けない状態にあった。
そして腕を掴まれていたナタシアは霊体化するかのように消えた。
俺はこの現象は何か既視感があると感じた。
それは、
「僕は騙すのは大好きさ。なぜなら僕は騙しの手品師、のような能力を持っているからさ」
木の裏から出てきた風馬だった。
つまり、あのジーマに腕を掴まれていたナタシアは風馬の幻術だという事だ。
だがあの魔法は本物の威力、到底風馬が放てるものじゃないと感じる。
ナタシアは既にジーマの後ろに立っていた。
「あんたの敗因は自分の力に過信し過ぎたことと驕ったことよ。
安心して、あんたには地獄旅行が待っているから楽しみになさい。」
「クソガァァァ!絶対に!絶対に殺してやる!ぶっ殺してやる!ただの亜人風情が!」
ジーマはまるで理性の無い獣のように怒り果てていた。
「殺してやる、そんな言葉を放っているうちは成長もできず、本当に勝ちたい者には勝てないわね。
そしてあんたがやってきたこと、せいぜい閻魔様に裁いてもらう事ね」
そうして一息置いた後、大量の小さなアイシングミサイルをジーマに物理の拳で連続で殴り続けるような勢いでぶつけた。
「ぶばばばばばばばばばばばばばばばば」
連続の打撃に耐えられずジーマは白目を向いて気絶した。
着弾したところは凍り、ジーマは完全に漬けになった。
ジーマを凍り漬けすると、その影響で直幸のゴムに変えられていた腕が元に戻った。
そして被害者の村人も元の姿に戻った。
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俺たちは一度キアラス・イーラの家へ戻った。
村は少し、俺たちの咆哮が響いたおかげで騒ぎになっていた。
それに考慮して、騒ぎに巻き込まれないように3人で戻ったのだった。
怪我をしている俺の姿を見た婆さん状況を察し、すぐに治療してくれた。
「あの騒ぎの原因はあんたたちだろう?」
風馬は何も隠さず、婆さんに今まで起こったこと、風馬たちがやっている事、すべてを婆さんに伝えた。
すると婆さんは呆れた様子で言った。
「まったくあんたは、前から危なっかしいと思っていたが此処までとはねぇ。
私はあんがやろうとしていることは間違いではないと思っている。
だけどね、別にあんたたちがやる必要はないんじゃないの?」
「知った事、知ってしまった事はもう取り返しがつかない。知ってしまったからには僕の運命、今後のこの世界の運命を変えられるのは知った者だけだと考えている。だから、僕は戦いに行くさ」
そう風馬が答えると、婆さんは呆れたように少しため息を吐いた。
だが婆さんは止めようとはしなかった。
「まぁ止めても、あんたは行くだろう?」
「まぁ察しの通りで…」
「そうかい、じゃあ二度とこの村に来るんじゃあないよ」
「…」
まぁ普通ならそう言うだろう。だがその話し方は怒りというより、何か寂しさを感じた。
「分かっている。もう二度と来ないさ。いままでありがとう」
風馬がそう言うと
「今日だけだよ。今日だけ泊まって行きな」
婆さんは意外な返答を返してきた。
俺はてっきり追い出されるのかと思っていた。なにしろ犯罪者を匿っている訳だからな。俺もその覚悟は出来ていたが、だから少し意外だった。
「かたじけない。一晩だけ泊まらせていただく」
風馬がそう言うと、婆さんは自分の寝室に戻った。
俺たちは一度、グレイの部屋に戻って話し合いを始めた。それはこれからの今後の事、つまり今一番大切な話だ。
「僕は一度仲間の元へグレイと共に戻るのが得策だと考える」
風馬がそう言うとグレイは「そうね」と風馬の意見を飲み込む。
「直幸と、そこのお嬢さんはどうするんだ?君たちは僕が巻き込んでしまったんだ。君たちの意思を尊重する。選択は君達に任せる」
そう、俺たちは被害に逢っただけ。そう捉えなくもない。だが俺は風馬に助けて貰った恩もある。足を引っ張るかもしれないが、出来る限りの手伝いはしたい。
それに、俺はあの国がやっている事が到底許せない。それはただ単なる正義感ではなく、感覚的に人としてやってはならない行為を平然とやっているからだ。
「俺もついていってもいいか?」
そういうと風馬は了承してくれるところが喜んで言った。
「良いのかい?国を潰そうとしている反社会勢力だけど」
「ああ、あれは潰さなきゃならない。ただ潰し方は考えろよ」
「ありがとう、改めてこれからもよろしく!」
「ああ」
直幸は手を差し出し風馬はその手を取って協力の握手をした。
これはビジネスの取引か?というツッコミは少し置いておいて、ナタシアの返答が気になった。
「君は、魔女族と呼ばれて襲われた者だね。僕の仲間たちは君のような人が多い。もちろん無理に来てくれとは言わない。だが選ぶのは君自身だ」
「ええ、私も同行させてもらう。ここまで来たら私も協力させてもらう。もちろん犠牲者を増やさない為にもね」
そういって、ナタシアも了承してくれた。こうして決議はひとまず終わり、目的がはっきりとた。
「ありがとう。協力感謝するよ。では明日の早朝から出発する。目的は決まったから次は僕たちの仲間の合流地点だ」
風馬が地図を広げ、指を指した場所はグラデリア王国から北に進んだ北の山奥だった。
「ここはとても気温が低く防寒の用意が必要だ。だからこの山の麓にある、村で物資を調達兼宿泊、そして登山に入る」
「その村で一泊していく必要はあるのか?」
「多分ね。今いるこの村から歩いてその村に着くのはおよそ2日で途中で何度か野宿しなければならない。体力的に考えるだけではない。それに着くのは僕の想定では夕方頃だからね。さらに夜の登山は危険だから次の日の朝に登るとしよう」
「確かに夜の登山は危険だろうな。足を滑らせたら終わりだし」
「危険はそれだけでは無くてね。夜の北山の魔物は非常に強力なのさ」
「ああなるほど」
「じゃあ決定だ。明日は早い、もう休むとしようじゃないか」
どうしてこんな所を拠点にしているのか少し疑問だが今一番疑問に思っていたことは俺が襲われていた時どうして二人で助けに来れたのか。そして打ち合わせをしたような戦い方。違和感しか無かった。
そこに疑問を抱いた俺は風馬とナタシアに問いかけた。
「ひとつ気になったんだが、俺がラ・ジーマに襲われているときどうして二人同時に来れたんだ?」
と聞くと、風馬は
「それは、偶然さ。森の中でバッタリ」
「は、はあ」
「そうね、私は国からの脱獄者が、こちらの方面へ逃げたと噂を聞きこの村に直幸が居るんじゃないかと思ってこちらに向かっていると咆哮が聞こえて向かっているとこの人と出会ったわけ」
「で、僕が多分直幸の仲間だった子かなと推測し声をかけて協力をしてくれるとのことだったので、戦い方を指図したわけさ」
「ああなるほどね」
なるほど、咆哮は魔物たちを引き付けてその隙に逃げてやろうという思い付きの作戦だったが、今回も運に助けられた訳か。
そういうことなら納得だ。気になったことはすぐに解決したいものだ。後々面倒くさい事になる前に未然に防ぐ手法であり、対策だ。
「では直幸君が納得したところで、我々も休むとしよう。そして朝は早いからぐっすり休むんだよ」
そうして俺たちは全員同じ部屋で各自借りたベッドで休むことにした。
皆は良くぐっすり眠っている。だが、俺はなかなか寝付けなかった。
気になったことを思い出したからである。
それは、グラデリア王国の地下に在った禍々しい肉塊の球体の事だ。王はいったいどんな心境であのような残酷な事が出来るのだろうか。
いつ王の野望が実行されるのか。
それは何故なのか。
本当に人間至上主義という考えが理由なだけなのか、それは本当の野望なのか。
俺は疑問に感じる。
何故そう考えるか、それはあの貧民街には人間だって住んでいる。
様々な人が住んでいる。考えはそれぞれだ。人間至上主義は悪い考えだ。という事は俺一人では説得力が無く、言えない。それはただの偏見という形になってしまうからだ。
だが王がやろうとしていることは結果的にそれはただの自己満足にすぎない。破滅への道へ進むだけなのだろうから。
そしてその行為は生き物の魂1つ1つへの冒涜だ。
王がやっていることはつまりは差別行為だ。差別行為をして幸せの結末になった奴は俺が知っている中では居ない。
居たとしても、結末は変わらないであろう。だから止めなければならない。
まぁ考え事をしているといつまでも寝れないな。そろそろ寝なければ明日に響くな。
そうして俺は眠りについた。
-次の日
俺たちは朝早くに支度をし、家を出ようとした。
するとキアラスが家の扉の前に立っていた。
「本当に行くんだね」
「ああ、僕の意思は固いよ。それに生半可な覚悟でここに立っている訳じゃない。俺は本気であの王を止める」
「そうかい、なら一つ良いかい?」
婆さん、キアラス・イーラは息をのんでいった。
「…死ぬんじゃないよ。
あんたの話が本当ならば、私も王の野望は許せない。だが王を止めるのは危険が大きすぎる。
だから負けるんじゃないよ。負けたら承知しないよ!」
「ああ、俺たちの希望は絶対に果たして、生きてもう一度この地へ訪れる!」
「ならば行きな」
そういって婆さんは風馬に白く輝く液体の入った細い瓶を三本、風馬に渡し、風馬はそれを受け取った。
「ありがとう。婆さん」
そういって風馬は外へ出る。そして、俺たちも風馬の後に続き、外に出た。
俺は最後にこの家を出る際、婆さんは少し、悲しそうで寂しそうだった。




